第二十八話 「こんがり上手にファイヤーデスマッチ」
『いやーマジであれ全部アイツだけで倒すかフツー? しかも損害ゼロとかおっかしいだろ』
『だから某は言ったであろう、あの界客は異常でござると!』
『近くに居る魔物と魔族、全部集めたんだぞ? もう少しかかんだろうと思ったのに、ほぼアイツ一人で殲滅じゃねーか。フザけすぎだろ』
暗闇の中で談笑する男2人。
ぶっきらぼうに喋る声は若々しく、高校生ぐらい。
対してござる口調の声は少し老け込んだ30半ばか、後半辺りの声だ。
しかしその姿を見ようにも真夜中のような空間の中では確かめるのも困難だった。
『――しかしまー、倒してくれたお陰で剥離は完了。とりあえずアイツらは元の世界へ帰れる状態にはなったワケ、だ。現状の俺らじゃ出来ねぇからなぁ。結局は魔王体に同化しちまうしよ』
『予想以上に事が運んだのは僥倖と言わざるをえんでござるな。奇しくもこうなった事に関しては、界客の少年に感謝でござる』
『………それともう一つ、これに関してはマジ感謝』
そう言葉を述べると同時に一気に辺りを照らす白色の炎。
それに照らされ、少年と中年の人影、その近くに女性と思われる影が2つ。
明かりが薄れる外側の近くには、暗闇に溶け込み並ぶいくつもの人影。
『おーいトシキぃ。急に明るくすんじゃねーヨこっのボケ。眩しいだろーが! 他のヤツがビビってんじゃねーか張っ倒すぞ!』
『イダダダダ! ちょっとカッコつけただけだろ! 良いじゃんかたまにはよぉ!
おいマエダおめぇも見てないで助けろてか助けて下さい……あががーがっ!?』
白炎をドヤ顔で手にしていた少年と、ガサツな口調の女性とで始まるプロレス。
飛びかかった女性の人影は少年の首に足を絡め、首四の字固めを決める。
地面をバシバシと叩いては降参を示すが、聞き入れてもらえずギリギリと首は絞め上げられる。
『思うんだケドさぁ、25過ぎた女が男子高校生に足で技キメるって、シチュとしちゃぁー結構なエロ展開だよねぇ。軽くおねショタ? えひひ』
『ウメコ殿、おいしく思えるのは2次元だけにござる。3次元はただのクソでござる。あとおねショタは男側がもっと幼い場合、適用される単語だと某は思うのだが……』
『あーそれねぇ、男側が少年、相手がおねーさんならある程度はおねショタで成り立つらしーよぉ?』
どうでもいい豆知識を述べながら、中年声の元に寄ってくる猫背の影。
声からして先程の少年と年齢が近そうだが、喋り方が独特で笑い方もいびつ。
影絵のような形で繰り広げられるその光景。
『わ、わぁーった! 消す、消っす……っから!』
何とかその声を上げて白炎を彼は消すと、また暗闇が辺りを包んでは影絵の一幕が終わる。
『最初から素直にそうすればいーんだヨ。ったくよぉこれだからクソガキはぁ』
『――――自分は25過ぎたクソBBAじゃんかよ』
『あァん!? 何か言ったかぁアあ!? 今度はそのElfの火使ってこんがり上手にファイヤーデスマッチしてやろうかァあん!!』
『すんまっせんでした! キサラギさんは綺麗なお姉さんです足技喰らってちょっとドキドキして変な事言っただけです! マジそれはやめて下さいッッッ!!』
聞こえない程の小声で言った言葉に反応されてビビる少年、トシキ。
そのままズサリと土下座を決めたような音を暗闇に響かせて降参の声を上げる。
『で、ペンタグラムで待つのは良いけどヨぉ……ほんとにアイツらココに来れんのかよ、トシキ』
はん。っと鼻息で流すとガサツな口調で話題を変える、キサラギ。
その声色は先程のトゲを含んだものは抜け、20代半ばの落ち着いた色になっていた。
『他のヤツの記憶の中で、200年前の召喚の時に子供のあの女が居たんだ。ここまでの道のりも関係者なら間違いなく知ってる』
『それで……この場所に来れば事情を嫌でも知るだろーな。んでお前はあのガキをコッチに引っ張り込みやすくするつもりか?』
探るように続けられる言葉。
それに対して暫く続く少年の沈黙。
『どう言う訳かリンクが出来上がってるなら、そっちが良いだろ。どうせアイツは長くねぇし』
『……確かにな。しかしワタシは気が進まねェな。アイツは今までの界客が召喚されたケースと大きく違い過ぎる』
溜息にも似た吐息を零しては不服を交える。
その言葉に他の2人も黙ったままで答えない。
『―――まぁ後は個人的に言えば、これの礼。そんだけだ』
その沈黙を破ってそう答えるトシキは、指先に先程の白火を灯す。
火に照らされたキサラギの影は、フッ。っと少し笑っては肩をすくめる。
『だーかーらァ他のヤツが脅えてるっつってんだろうがこのボケがァあああ!!』
『ちょマテよ、今のそう言う空気だっただろ! しかも火ぃ少な目にしてんじゃんあだだだーだぁ!? アツい! アツいって! 俺消えちゃう! それマジで消え……アッヂぃいいい!!』
卍固めをかまされるトシキ。
その体勢から白色の炎を手にしては、キサラギは少年の顔に押し付ける。
『あぁ! アキラさんったらトシきゅんの顔にあんなにお尻を、足を絡めちゃってぇ。えひひ! 年上による激しい攻め。サァ、受けを決めるトシきゅんはどうやって攻めに転じて、アキラさんを落としていくのか! か! えひひゅひひぃー!』
『どう見たらウメコ殿のようにおいしいシチュで見れるのか謎でござる。しかし止めねば真面目にトシキ殿も危ないでござるな。き、キサラギ殿……その位で許してやってはくれぬか』
『うっせぇオメーもこんがりヤっちまうぞ! ござるメガネがァ!』
『はぷぅん!?』
プロレスが繰り広げられる2人の元へ、近寄るござるの影の顔面にストライクする白炎。
その一撃に倒れ込むと『あぎょぉー!』などと珍鳥が鳴くかのような奇声を上げてはゴロゴロと転がりまわる。
『や、やっぱり3次は糞でござる……! 2次こそが至高でござるっ! あぁリタきゅん、会いたいでござるよ……』
すすり泣きながら誰かの名を零し、地面を叩く。
辺りを包む仄暗さの中に在る人影だけが、彼の心を分かち合うかのように微かに揺らいだ。




