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第二十六話 「ツンデレミョルちゃん。」

大剣の鈍色が光ると共に煌めく一閃。

影を圧し固めたような獣たちはその剣戟を受けてずるり、と半身をズラして倒れ込むと地を跳ねた自分の上半身だった物と、別れを告げる。


その攻撃を辛うじて躱したモノたちは畏れる事無く、一撃を振るった彼へ爪を、牙を、と振り下ろす。

逃げる、などと言う選択肢は無い。

「人間を殺す」この選択肢のみ。如何に確実に、如何に人間を、如何にどれだけの数を。

その思考のみが全てを締めて、前へ前へと進ませる。

己の体がどれだけ傷付こうとも、手足が千切れようとも、命尽きて動けなくなるまで――。




「果ての先より薙ぐ白息よ。彼の身も心も魂も全て息と等しき色へ染め、凍てつく華を散らして見せなさい。エネディレス!!」


ヴィグフィスさんの一撃を辛うじて避けた魔物たちに纏わりつく白い霧。

詩を口にした彼女の眼は悲哀を込め一瞥する。

霧に包まれた魔物たちを憐れむローズさんの目は、その長髪と対比した赤色で静かに光る。


辺りの空気が一気に下がると同時に獣たちの体からバキン! と乾いた音が響く。

漆黒の体から突き刺さるように生える数多の氷柱は、パキパキと形を変えて蕾を作る。

突然襲う氷点下と、身を覆う氷の花が体の自由を奪っていく。

凍てつく抱擁に成す術も無く、魔物たちは花の苗床と化し、眠るように息絶える。



「見、見…………見ィイイ……見つけた。見つケた。Elfエルフ、ホワイトプリンセス。見、見見見っ」


霜柱を踏み抜くように、仲間の亡骸を音を立てて踏み割りながら現れる黒い人影。

ゼンマイが切れかけた人形を思わせる動きで、首をカクつかせては呂律の回らない口で何かを喋る。

それに続いて同じく漆黒の体をした壊れた人影が続々と現れる。

数は10体ほど。しかしその異様さは挙動だけでは無く、漂う雰囲気からも感じる…先程の魔物たちとは比べ物にならない。

泡立つ肌がそう警告する。


「ハァアアアアアアア!」


有無を言わずにその集団へ暴風を纏った剣戟を、銀鎧の彼は振り下ろす。

壊れた人形の動きを見せていた影は、紙一重で跳躍して一撃から逃げると狂ったようにゲラゲラ笑い始める。

敵を見定めたのか、その爪と牙を剥きだしにして「壊ス、死ね、返せ、邪魔をすルな」と口々に喚き立てる。


ギャリン、ガキン! と交わされる火花を伴った応酬。

迫る数々の猛襲を剣と手甲でいなしては、隙の出来た影に彼は一撃と入れて行く。

しかしその一撃は同じく躱され、入ったとしても致命傷を与えるまで達さずにヴィグフィスさんの隙となり、攻撃を許してしまう。


「流石にラクには行かんな……。ローズ! さっきの魔術はもう一回使えんのか! 足止め程度でも構わん!」


「使えなくはないけど、そうなると今かけてる貴方への防御系支援が暫く消えるわよ? 持たないでしょ」


「ぐ、流石にそれは厳しいな」


均衡を保った戦いが繰り広げられている様子だけれど、どうやら旗色が宜しくない。

ラッドによる空中移動で先制して、スムーズに進軍していたのだけれど途中から魔障の霧が濃くなって視界が悪くなり、遠方からの先手必勝の戦法が通用しなくなった。


「ルシード、今はまだ良いけれど、増援でも来たらじゃヴィグフィスたちが危ない」


「流石に数が多いですね……しかし一回下がらせるにしても次はこちらに矛先が向きかねない」


離れた所から見守る2人が焦燥を含んだ言葉を交わす。


現状ルシードさんは結界の展開に集中していて召喚が行えない。

レオナも魔王戦に向けて出来るだけ戦闘をしない方向になっている為、ぎりぎりの状況にならない限りは参加を禁止されている。

そしてボクもラッドに魔力を消費している為、現状は戦闘不参加を言い渡された。

あとは魔法による攻撃をボクが行えば、仲間に被害は行かないにしても、判断を間違えばこちらに攻撃が向く。

そしてそれは傍にいるレオナにまで被害が及ぶ可能性が出てくる。

かと言って殲滅出来るほど発動すれば魔力消費に拍車が掛かり、ラッドに使う魔力が怪しくなって、進軍速度が落ちる。

何とも歯痒い状態だ。


魔術とか、召喚でうまく範囲内の敵だけ

……あ。

あるじゃん。良いスキル2つも。



「ルシードさん、ボクの魔術でどうにか出来るかもです」


その発言に彼はいくらか眉根をひそめる。

ボクの使う魔術、召喚は仲間もお構いなしに攻撃するキリングスキル。

でも、よくよく考えたらスキル・・・範囲内に居なければ・・・・・・・・・、喰らわない。


「レオねぇ、前にヴィグフィスさんと3人でボクの練習しに行った時の魔術覚えてる?」


「う、うん。あの雷が凄かった魔術……だよね?」


「そう。あれを使うからあの時みたいに範囲外で待機しして欲しいんだ。ルシードさん、今から使うスキルは発動出来る場所を中心に攻撃を開始するので、レオねぇの言う場所まで退避お願いします」


そう伝えて自分にだけラッドをかけ、戦闘を繰り広げる2人の近くに飛ぶ。




「ローズさん、ヴィグフィスさん! ラッド使うので退避して下さい魔術使って一気に行きます!」


「ちょっと待てユウ! 貴様がそんな物使うにしてもオレたちが逃げる間、お前はどうするのだ! 貴様の身体能力じゃ無理だぞ!」


「大丈夫です! 考えはあるんで! それじゃ前に使った雷のヤツで行くんで!」


「マテマテマテ! そんな物使ったら逃げるまでにどれだけかかると……」


前に使った雷系の魔術を思い出して声を荒げる彼。しかしボクが上に向けた指を見て苦笑する。


「――なるほど、確かに横へ逃げるより上に逃げた方が早く範囲外へ出れるな!」


「それじゃお願いします! 銀の車輪ラッド)ッッ!」


移動速度上昇と浮遊効果を受けた2人は上昇する。

それをすかさず追おうとする数多の影。


「させるか! 終焉の炎フヴェズルング!!」


爆炎と共に姿を見せる赤い巨人。

両手を広げて胸を張ると大気を震わせながら大きく叫ぶ。

2人を追っていた魔族たちはその声の主に視線を向けると、標的を炎の巨人に変えて、爪と牙の応酬を叩き込む。

黒い影たちの抉る爪は、炎の巨体を抉っては血飛沫のように火花が弾け飛ぶ。


「ユウ! 良いぞー!!」


上空の方から響き渡るヴィグフィスさんのOKの声。

振り返ってレオナたちの確認をすると範囲外まで逃げている。

ボクは小さく「スポイルマジック」と口にして、これから使う魔術にマジックドレインを乗せる。


「キャンセルギフト! ……打ち砕く者ミョルニールッッ!!」


スキル名と同時に炎の巨体は火の粉となって霧散する。

そして電撃の走る音が響いて、ボクを中心に上空に浮かぶ巨大な雷の魔法陣。

半径15m近くはある円状の魔法陣がバチリと音を立てて、ボクの頭上4m辺りで発光する。


今まで戦っていた巨人が突如消え、空振りした先で辺りを見回す魔族たち。

……その戸惑いも無視して放たれる落雷により2体が早くも消し炭となる。


直感で上空の強襲を避けて、空を見上げると同時に発光…避け損ねた3体がまた消し炭。

自分たちを狙って雨の如く降り注ぐ雷撃を避け回るが、また一体、また一体と閃光の餌食となって全て人型をした炭と化す。

万が一、自分に向かってきた場合の対処も考えてたんだけれど、心配無かったな。


「おーいユウ! 終わったのか!?」


上空から声がするので顔を向けると、魔法陣の上の方でローズさんと2人退避している。

気のせいかヴィグフィスさんの顔色は宜しくなく、汗でもかいてそうな感じ。

何でだろうと思い気が付くと声が漏れた。


「何でミョル消えてないの……?」


よく見ればヴィグフィスさんの居る辺りでバチバチと電撃が走っている。

範囲内の敵がいなくなれば消えるハズなんだけどなぁ。

『何よ! アンタ早く降りてきなさいよね!』


と、気が付けばどっかのツンデレボイスでそんな台詞が勝手に再生される。

ローズさんの方に帯電は無く、明らかにヴィグフィスさんにご執着な様子のミョルニールスキルこと、ツンデレミョルちゃん。

範囲外のヴィグフィスさんが気になって仕方ないらしい。


……この子は金髪ツインテにリボンで、きっとツリ目で背もちっさい同級生で同じクラス。

そのキツイ性格のせいで孤立してるけど、ふいに主人公から助けられて意識しちゃってる。

んで好きな異性に対して素直になれないくせに、何かと突っかかってくる強気な子でトラブルメーカー。


学校でたまたま居合わせたようにして、度々待ち伏せしたりするのはいつもの事。

自分が得意げになると仁王立ちでフフンと鼻を鳴らしたりするに違いない。

そんで「可愛いなお前」なんて言うと紅潮しながら

「バ、バカじゃないの! アタシが可愛いのなんて当たり前でしょっっ!!」なんて罵倒してドロップキックかましたりしながら内心は喜んでたり。


あーあとはそんな気になってる異性からは残念な事に、妹的な存在にしか想われてなくて―――




「……キャンセルギフト」


パシン。

変な二次元暴走する前にスキルキャンセルを行ってミョルを消した。

危ない危ない。思わずネトゲスキルを脳内でツンデレキャラに擬人化するところだったよ。

そんなこんなで何とか戦闘を終えてまた先を急ぐ。

2日目と比べて戦闘が増えたけれど、先程の魔術スキルを使った戦法を応用してその後はスムーズに殲滅が出来た。

今日もまた30kmほど進んだ辺りで陽が傾きだしたので、テントを張って野営する事になった。












闇夜の中、砂と煤が混じる土の上の炭が僅かに動く。

顔だった物は、キシリと顎だった部分を稼動させて、擦過音を交えた声を絞り出す。

「………ヤっと、あえ…………た。ゆ、う」

そう言の葉を吐いたと同時に、グズリと形を崩しては土の上の砂と同じ粉と還る。

崩れる瞬間、笑みを浮かべたようであったが宵と同じ色の顔からはそれを知る術も無く。

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