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第二十四話 「想いもそこに在る意味を忘れてしまえば」

『魔王なんかぶっ飛ばして生きて帰ってこいよ嬢ちゃん』


ボクの背中を大きく叩いて無精髭面のレーリンズさんは不器用にニッカリ笑う。

続いてフェディさんやベレズさん、スクさんも続いて背を叩いて、声をかけてくる。

そしてみんな声を揃えてもう一度、言ってきた。


『生きて帰ってこい』






「オイィイイッ!! 何故一目散にこっちへ向かって来るのだ! おかしい!」


「ボクに言わないで下さいよ! てか壁役のヴィグフィスさんがこっち来たら意味ないでしょ!!」


「これはあれだ! ユウを狙っているのだ! どうにかしろッ!!」


「違うでしょ明らかにヴィグフィスさんのフンドシ狙ってますって!! どうにかして下さい!」


「誇りを捨てろと言うか貴様ッッ!!」



背後には津波の如く押し寄せる黒い塊……。魔物の群れ。

レーリンズさん、フェディさん、ベレズさん、スクさん。

約束、すでに守れそうにありません。


「「うわぁああああああああああああ!!」」



そしてボクらはそのまま黒い波に呑まれた。






「馬鹿かお前らは」


土の上で正座させられるボクとフンドシ姿のヴィグフィスさん。

ルシードさんは呆れ顔で瞑目してやれやれと首を振る。


転移魔法陣を抜け、待ち構えていた魔物の集団と遭遇し戦闘となった。

最初は順調だったのだけれどテンパったボクが指示を待たずに魔法を敵へ放ってしまい、そこから雪崩のように魔物の波が押し寄せた。

そしてその波におされてヴィグフィスさんがこっちに来ちゃって、お互いに擦り合いながら逃げ回り、ギリギリのところでルシードさんの召喚獣によって魔物たちは一掃された。


「その辺にしてあげたらルシード。ヴィグフィスは兎も角、ユウ君はここまでの戦闘は初めてなんだし」


「何事も始めが肝心なのだよ……とは言ってもさっさと進まねばならんのも事実だな。説教もここまでだ。ヴィグフィス、とりあえずそのクラシックパンツとやらは禁止だ!」


「……なっ!? 貴様このオレから誇りを奪う気か!」


酔狂な姿の彼はフンドシをはためかせながら必死に抗議するが却下され、泣く泣くどっかから出してきた鎧を身に着けては膝を抱えてしばらく凹む。

どんだけ露出好きなんだよ……。



「レオナ様とお前の誇りどちらが大事かなど問うまでも無いだろ全く……。

で、ユウもだ。次また先走りするようなら援護もあんなにタイミング良く、ギリギリ間で合うか……私も自信無いぞ?」


ニヤァっと今までにない程のデビルスマイル浮かべてはそんな事を言ってくる。

この言い方だとワザとギリギリで助けたに違いない……。そしてまたやるようならばどんな仕打ちが待っているか想像が付かない。二度としないように気を付けよう。


そんなやり取りを終えるとまた居城を目指しボクらは進む。

森を右手にし、ルシードさんが結界を張ってそれに沿っては時々遭遇する魔物と交戦。

数も少なくてボクもさっきに比べたら、と言う心境になり大分余裕が生まれる。

しかし歩きとは言え、かなり疲れる。

途中で何度か小休止があるけれどこんなに歩きっぱなしなんて殆どした事が無く、体力が低いボクにはかなりきっついものとなった。





「今日はこの辺りで休憩とするか」


時間的には早いのだろうけれど、ボクの事を気遣ってくれてルシードさんはそう口にすると大きめの結界を辺りに展開する。

体力の限界だったボクは、その言葉に足の力が抜けてその場で両膝を突く。


仰ぐ視界の先には仄暗いが赤く染まる空。

魔障の霧の影響で日中でも薄暗く、夕方になると朱が混じって何とも儚げな色となる。

自分の見知った空とは全く違う…疲れで朦朧としながら、改めて別の世界なんだなと再確認する。





「……あの、このテントとかどこにあったんですか? 荷物、ちょこっとしか無かったですよね?」


焚火を囲み、一息付いたボクは思わずそんな事を口にする。

周りには駐屯地にあったそれなりに大きなテントが3つ。

中の広さは軽く10㎡はあり、モンゴル民族が使ってたりする形に近い物で簡易式ではない。

組むのに1時間足らずで3つもだなんてまず無理だ。

そしてローズさんの前には食材に食器に調理器具……どこにあったんですかコレ。


「召喚術の応用でそこへ物とかをある程度収納出来るのよ。それに入れてさっき出したの。便利だけど難点は生物を入れると窒息で死んでしまうところかしら?」


それって便利そうですね、入ってみたいですと言おうとした瞬間にしれっと恐ろしい話。

窒息って事は酸素が無いのかな……てか試した人がいるんですね怖いよ。


「で、進行具合としてはどのくらいなのだ?」


ヴィグフィスさんが焚火で何かを焼いて晩御飯の用意をしながらルシードさんが広げる地図を覗き込む。


「術符の残数から言って……約18km近く進んだな。まぁ初日にしてはかなり進んだ方だろう」


彼はそう言うと縦長のホルダーのような物を覗き込み、中に入っている細い筒紙を見やる。

縁には色が塗ってあり、それが段によって塗り分けられている。


「そう言えばボク、聞き忘れてたんですけど居城までどのくらいあるんですか?」


「ああそうか、お前が居ない時に話をしていたんだったなすまない。目的地までは約80kmだな。地形が昔と大きく変わってなければその距離の予定だ」


80km……ただ歩くだけなら大体15分で1kmだった気がするから1時間に4kmとして20時間の距離。

でもさっき18km近くは進んだと言ってたから残り62kmでえーっと……15時間半?

それで考えても途中で戦闘とかあるのを考えると早くて目的地まで2日か。


「色々とあるだろうが明日はもっと進む予定だ。ユウもしっかり食って早めに休むと良い」


一同で食事をとると、ボクはレオナと一緒に早めに休む事となった。



「ユウ、かなり疲れたでしょ」


寝所で横になるとレオナがそんな言葉をかけてきた。

言われる通りボクの身体はアチコチ悲鳴を上げ、動くたびに関節からキシキシと音が鳴っていた。

ボクはベッドの上で突っ伏すと顔を上げる事も出来ずにモゴモゴとくぐもった声で会話する。


「元々動かない方だから結構きちゃったね。そう言うレオねぇは平気なの?」


一応ローズさんから貰ったクリームを塗り込んでいくらか落ち着きはしたけれど、日本育ちのゆとり少年には6時間近く歩き詰め&戦闘と言うのはハード過ぎた。


「私は魔王討伐の旅に出る前から基礎訓練の教育とか受けてるからそれなりに。あとは魔力の循環でいくらか緩和出来るし、まだ平気かな?」


「魔力にそう言う使い方があるんだ……。

ボクもそう言う風に使えたら―――あひゃぁああああ!? ちょ、レオ、レオねぇ、何してんの!!」


「えと、ま、魔力循環でユウの筋肉痛取ってあげようかなと思って……」


急にお尻を触られて思わず変な声を上げる。

動けないから逃げる事も出来ずにこれって色々ピンチじゃないっすか?とエマージェンシーコールが騒ぎ立てる。

しかしボクの警備サービスは只今警備員さん不在なのでコールだけ鳴ってる状況。


「そ、そっか。急に触られたから恥ずかしくて……ごめん。お手柔らかにお願いします」


うつぶせでいくらか観念してそんな事を口にすると彼女はふふんと鼻を鳴らす。

これは多分、胸を張ってドヤ顔してるな。


「任せて! ―――ただ、ユウには恥ずかしい事されたし、ちょぉっとだけいじわるするカモしれないけどねー」


やっばい。

これ、動けないのを良い事に色々いたずらされるパターン。とそう思った瞬間、ちっさい手がボクの脇腹を不規則な動きで襲う。


「ちょ、レオ、レオナやめっ! くすぐ……あはははひゃ! あはは!」


「何言ってるのユウー? これはちゃんとした魔力循環の手順だよ? はーい暴れないでー!」


まな板の上の魚と化したボクはマッサージと称したいたずらを受け、疲れ果てたボクはそのまま深い眠りに付いた……。







『ユウ……』


『……ゆう』


『………ずっと、ずウっと…………』


黒い黒い淵より目を覚ます。

長い長い眠りより揺り起こされて。


深い深い底より寄り集まって。

幾年も幾年も待ち焦がれた感情たちは懇願に仰いでは、口を開く。


『待っていタの』


それは想いにあった万感すらも同じく焦がれに焦がれ、言葉はただただ消し炭が落ちるかの如く零れ落ちる。

―――想いもそこに在る意味を忘れてしまえば、綴る言葉など全て塵芥と等しき。







「ユウはそのままヴィグフィスの左後方に注意して魔法をいつでも撃てるように待機。ローズはいつも通り支援と援護を」


第五外大陸に移動して二日目。

1時間ほど進んだところでまた交戦となった。

数は20体くらいでそこまで多くは無い。


ヴィグフィスさんが前方に躍り出て、彼の脇を抜けてくる敵をローズさんがほとんど撃ち落とす。

更にそれを抜けてくる敵をボクが狙うと言う作戦なのだが、正直やる事が全くない。

ヴィグフィスさんは一撃で複数の敵をなぎ倒す実力の持ち主で、今の戦闘でも半分近くを5分足らずの時間で倒してしまっている。

そこから2、3体がまばらに抜けてきても、ローズさんが打ち漏らす事はまずない為、実質2人で完封。


そんなでボクはレオナと一緒に後方で結界に護られ、一方的な戦闘をただ傍観する。

彼女はと言えば、真剣な眼差しでその光景を見守っている。

時々一瞥するけどレオナは油断大敵、と言った表情。

やる事が無いからって暇だなんて考えたボクとは大違いだ。

レオナの心構えを改めて感じたボクはバツが悪くなって辺りを見回す。


―――しかしこの大陸は木々はあるけど異様だよな……。全て灰で出来たみたいな色だし、昨日から小鳥の囀り一つ聞いてない。

何と言うか、灰色の絵具で絵の中に閉じ込めたような異様さと、物悲しさを覚える。


「―――ふえっくしゅ!!」


「……ユウ大丈夫?」


「ご、ごめん。ちょっと我慢出来なくて」


戦闘で巻き起こった砂埃がここまで来ちゃったのだろう。

ムズムズと鼻をくすぐる衝動を抑えられずに思わずくしゃみが出る。

昨日も戦闘中にくしゃみ出そうになったんだよなぁ……今まで空気が綺麗な環境で生活してたせいもあって、ちょっとした砂埃とかでもクシャミしちゃう。

困った物で。


「……妙だな」


敵のほとんどが殲滅された辺りでルシードさんが曇った表情で訝しげに辺りを見回す。

森の木々が風を受けてガサガサと乾いた音を立てて、葉と枝を擦り合せる。

仄暗い空の下のせいでその音さえも不気味に聞こえる。


「ヴィグフィス、下がれ!」


声を上げる先へ視線を向けると多くの人型の魔物が空中から降ってくる。

どこから現れたのかはわからない。

その声に後退したヴィグフィスさんの元に落ちるいくつもの黒い落雷。


「魔族……! ヴィグフィスこっちへ―――きゃぁ!」


「チッ! 思ったより来るのが早い!」


地を這う黒雷は暴れ回ってはローズさんを掠める。

前方のヴィグフィスさんは襲い来る敵の攻撃と落雷を間一髪で躱しながらこちらへ向かおうとするが数の暴力がそれを許さない。


レオナが堪え切れずに立ち上がり、十字架を呼び出す。

ローズさんは先程の攻撃のせいで体勢を崩してて援護が無理。

ルシードさんは術を発動するが群れる蜘蛛の子みたいな敵の前に処理が追い付かない。


一撃、二撃とヴィグフィスさんの身を掠る爪撃。

その攻撃で体勢を崩した彼に目掛けられる追撃の数々。

―――まずい。

魔術は無理だ。魔法もあんなに固まってたらきっと巻き添えになる。召喚も無理だ。

一転した戦況に混乱すると同時に一つのスキルを思い出す。


「―――女神の光楯イージス!!」


絶対防御の盾。

叫んだと同時に展開する光の楯たちはボクらへ展開すると、ヴィグフィスさんを襲う攻撃の数々を一気に弾き返す。

その一瞬の隙で体勢を立て直すと大剣を握り直し、彼は腰を深く落してカウンターを打ち込む。

その一撃は風を起こし、嵐のように容赦なく辺りの敵へ牙を剥くが喰らったのは4、5体のみ。

その攻撃を身を捻り、空中へ交わした影たちはまた落雷と共にヴィグフィスさんへ敵意を込めた爪と牙を剥ける。


……待て、盾がボクらにも展開・・・・・・・

そう疑問に感じた瞬間、スキルを唱える。

いくつもの…何十、何百ものスキルが発動するイメージして。


炎帝の剣ティールケナズッ!!」


パッシブスキルの旋律の一モノフォニー効果を受けて、空に現れるいくつもの並剣たちは灰色の風景を朱色に変えると火の矢の如く敵を目指す。

それはこの世界であのバケモノと戦った時と同じ物だ。


降り注ぐ火は蛇のようにうねり、仲間の間を掻い潜り風を切って飛んで業炎を伴い全ての敵を撃ち落とす。

爆炎に焦がされ消し炭となった魔族たちは、塵芥と化した身を風に撫ぜられた。



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