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第二十一話 「かなりのシスコン」


「ゆきねぇーってなにがすきなの?」


「――何が好きって言われても、ばく然としてるよー、悠」


夕方、姉さんと手を繋いで夕日が赤く染める道をぽてぽてと歩く2つの影。

学校帰りに保育園へ姉さんがボクを迎えに来て、一緒に帰るいつもの光景。


5歳のボクは「ばくぜんってなぁに?」と首を傾げ、小学5年生の姉はランドセルを背負い直すと「んーと」と一つ唸っては軽く説明してくれる。

それに対してわかったのかわかってないのかとりえず「ふーん」と答えて頷く5歳児。



そしてそれを理解したと受け取ったのか、姉さんは好きなものを口にしていく。


「一番好きなのはお母さんと悠。あとはお母さんが作った手作りシチューと肉じゃがでー、この前、お母さんが貸してくれたロクシ何とかって高い香水!バラの良いにおいがね、すっごく良い香りなの!他はねー」


姉さんは繋ぐ手を大きく振りながらぶんぶんと続ける。

今思えば好きなものを口にして恥ずかしさを紛らわせる為にこんな事をしたんだろうな。

まだ小さなボクはその振りにいくらか体を持って行かれるけど、それが段々楽しくなってきゃっきゃと笑う。

そしてはしゃぐボクの両手を握って姉さんは大股で一緒に歩く。


「でも何で急にそんな事聞くの?」


「えっとね、ゆきねぇってそろそろオタンジョービだっておかーさんがいってた。だからおねーちゃんにすきなものききだしてっていってた」


「そっかぁ。でも悠、そう言うのはさりげなぁーく聞いて、話しちゃダメなんだよ?」


「なんで?」


何かあると「それってなぁに?」か「なんで?」が口癖だったボク。

それに対して姉さんは面倒臭がる事も無く、必ず答えてくれる。

母子家庭だった為か、彼女は姉でありながら母親のようにボクの面倒を見てくれていた。


中学高校と上がるにつれて腐女子化が加速しても、姉さんのそう言う所は変わらなかった。

とは言ってもケンカする時はしっかりしてたし、何でも全部優しくって訳では無かったけどね。









「―――」


髪に誰かが触れる感触。

ゆっくり、頭を撫でる誰かの手のひら、伝わる温もりと甘い香り。

時々何かがボクの耳近くをくすぐり、覚えのある独特の匂いが鼻の奥を過ぎて行く。

寝てるボクの頭を姉さんがこうやって撫でてくれたなぁ…。

それが好きで、目を覚ましても寝てるフリをしてまた寝ちゃってとか何度かあったっけか。

色々思い出すとボクってかなりのシスコンだったんだなぁなんて今更ながら再認識。


ボクは目を開けるのが勿体ないなんて衝動に駆られ、懐かしい感触に甘える。



「………ごめんね、ユウ」


消え入るような、弱々しい一言。

その言葉で眠りに落ちようとしていたボクの意識は引き戻され、反射的に身を捩る。

そして布が擦れる音で更に目が覚め、薄っすら目を開く。


「―――ん……っ」


差し込む光が眩しくて細くしか開けない視界にぼやけた輪郭。

肌色、金色、白…。


「ユウ、おはよう」


レオナが覗き込みながら微笑み、頭に触れてくる。

頭の下には柔らかい感触。覚えがある感触だけど…


「わ、わぁ!?ごめんレオねぇ!思わずぐっすり寝ちゃったよ」


膝枕されてる事に気が付いて飛び起きる。

レオナは手紙書いてたハズじゃ?何で膝枕?と寝惚けた頭で考えるけどどうしてそうなったのかやっぱりわからず、あわわとボクはただ狼狽える。


「別に良いのに。ユウってば寝てる時の方が素直よね」


「……あ、え、んーっと…へ?」


「眠ってる時は『すきー』とか『おねーちゃん』とか『もっとー』とか言って、膝枕も自分からおねだ――」


「NOOOOOOOOOOOOOOOOOッッッ!!」


全部説明される前に絶叫しながら両手で顔を覆って勢いよく、突っ伏す。

いくら覚えが無いとは言え寝惚けた自分の全てを赤裸々に説明され、平然と出来る鋼のパッシブスキルは持ち合わせていない。

しかも相手は好きな女の子、そして寝惚けて甘えていたのは夢で見た姉さんに対して。

罪悪感やら羞恥心がぐっつぐつと煮えたぎる鍋にぶち込まれて掻き回されるみたいなそんな感情。

嗚呼、ボクは何故眠ってしまったりしたのか、などの後悔と後の祭りと言う名の具材が惜しげも無く鍋へ投入されては、心の中で酷い煮込み料理が出来上がる。


「我慢はダメなのよユウってば。私はユウよりお姉さんなんだから、甘えて良いんだから。寝てる時は、その人の本当が出やすいし我慢してる物が出るんだって、ローズが言ってたわ」


おずおずと顔を上げた先でフフッと笑いながら小さく胸を張る彼女の姿。

綺麗なエメラルドの瞳が気のせいか、僅かに潤んでいる…。


彼女の言葉でこれまでの事を色々と思い出すと、気が付けば身を起こして彼女の顔を正面から見つめる。


「じゃあ……甘えよう、かな」


「ん? 良いよ。おいでー」


ベッドの上で改めてお姉さん座りしなおし、手招くレオナにボクはゆっくり抱き付く。

彼女は「へ?」と抜けた声を漏らすけれど構わずボクは自分の胸に彼女の頭を抱き込むようにして、頭を撫でる。

ドクドクと凄い早さで自分の心臓が早鐘を打つせいで、触れる身体と手が震えるけれど、構わずぎこちない動きで撫でる。


「ユ、ユウ? 甘えるってこれ逆じゃない?わ、私は平気だし、大丈夫だから」


わたわたと慌てるレオナ。

その言葉にやっぱり、と言う言葉が頭を過ると、逃がすまいと思わず腕に少し力が籠る。



――毎晩、一緒に寝る時にレオナは必要以上に抱き付いて来ていた。

最初は甘えてるだけだとしか思わなかったけれど、先程彼女が言った通りに人間は寝てる時ほど素直になってその欲求や願望、寂しさなどが表立つ。

そして彼女の置かれてる状況や、何かとボクが我慢している事に気付いたりする点を考えると…彼女も何かしらを抱えていると言う答えに行き着く。


姉さんもボクが何かあると受け止めたりしてくれたけれど、ほとんどがさり気無くで深入りはしなかった。

それに対し、レオナは「こうでしょう?」とあえて口にしてくる事に違和感を持つ。

そうやって組み上げていくと彼女は気付いて欲しいけれど、口に出せない物を抱えてる状況にある…それに気が付いたボクはレオナを抱き締める衝動を抑える事が出来なかった。




「レオねぇが自分で言ったんじゃないか。ヘーキとか大丈夫って口にする人ほど、我慢してるって」



静かにそう口にすると引き離そうとしてた彼女の小さい手は、ボクのドレスを弱々しく握りしめていた。


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