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第十八話 「変な事に使っちゃダメだからね?」

「よう! 嬢ちゃん今日も相変わらずはえーな!」


「……スクさん、レーリンズさんおはようございます。見張りご苦労様です。もう足は大丈夫なんですか?」


「おうよレオナ様のお陰でこの通りよ! まぁ無かったら無かったで何とかしたけどよ! ガハハ!」




ボクは眠い目をこすりながら、駐屯地で夜間から早朝まで見張りをする兵士2人と挨拶を交わす。

彼らもボクの事を女の子と思っているらしく、駐屯地内では「嬢ちゃん」が定着していた。

顔だけじゃなく声も女の子っぽいし、その上ドレスまで着てればそう思ってしまうのも仕方がない話か。



まだ日が昇り切らない時間で、空は仄暗くてまだ明るくない。

空気も結構冷え込んでいて、吐く息が時々白くなる。

日本で言うと暁って時間だっけか……。


そんな事を思い出しながら時々すれ違う見張りの人挨拶しつつ、水汲み場の近くに赴く。


「~~っ! ……つっめった!」


日本の神社にある、手水舎みたいな形の水汲み場で顔を洗う。

なんでも魔法陣を使って水脈を引っ張って、水が湧くようにされてるらしい。

ほんと万能だねファンタジーパワー。

湧水だからかその水は氷水のように冷たく、寝惚けたボクは一気に目が覚める。

強めにタオルで顔を拭い、一息付く。


「あら、いつも早いわねぇユウ君。またレオナが寝かせてくれないのかしら?」


「……おはようございます。ローズさん、そう言う変な言い方はあまり良くない気が」


「ふふ、やーね! 私変な事言ったかしらー?」


後から来たローズさんがボクの横に並んで、悪戯に微笑みながら挨拶をしてくる。

見た感じ、今起きた……って様子じゃないな。

欠伸を軽く噛んでるし、恐らく徹夜明けなのだろう。


―彼女はその長い髪を括り、団子のようにすると大きな髪留めを刺す。

そして石鹸を使って顔を洗い始める。

……ボクは気が付くとそれをぼーっと眺めていた。


パシャ、パシャと、手に掬われた水が顔に向けて、かかる。

それが珠のような滴になって彼女の頬を伝い、

また掬われた水が、顔へ向けて…と繰り返され、

そしてローズさんの長い睫毛にも朝露のように水が珠を作り、

まだ昇っていない仄かな陽の明かりを受けて、雫が薄ら光り―――



「……ユーウくーん? 女の身嗜みをマジマジと見る物じゃないと、お姉さんは思うのだけれど」


呆けたボクの目の前に来る眉根を寄せたローズさんの顔。

ズイっと顔を寄せられ、我に返ったボクは後退りしながら慌てて謝る。

すると彼女は鼻をちょんと触り、「冗談よ」と笑みを浮かべた。

……からかわれた。

まぁ、確かに女性の洗顔してるところをマジマジ見るのは失礼だったなと反省。






「―――飲み物は何が良いかしら? ラーズ? それともリンカ?」


「えーっと、出来ればお茶で。もしあるならあの酸っぱいのが良いです」


「酸っぱいの……あぁ、レンティオね。あるわよー」


あの後、彼女の自テントにボクは招かれた。

朝食にまでまだ時間もあったし、レオナを起こすにも早いのでローズさんの言葉に甘えて時間を潰す事に。

彼女がお茶を淹れてる間、ボクはテーブル前に座りながら暇になって、軽く辺りを見渡す。


部屋の中には鏡台、タンス、ベッド、テーブル、机と椅子。

必要な物だけ置いてるって感じだけど、女性の一室だなって雰囲気。

母さんの部屋を思い出すなぁなんて思ったけど、言ったら確実に怒られるじゃすまないから言わないどこう。


暫くすると湯気立つマグカップを渡され、ボクはそれを口に運ぶ。

彼女はマグカップをテーブルの上に置き、ボクの横に座り……


「―――あの、ローズさん?」


「なぁにユウ君? どうかしたのー?」


「いや、あのですね、どうしてボク、抱き付かれてるんですか」


「ん~? だぁって最近忙しくてレオナとあまりスキンシップ出来てないしー、人肌恋しいしー。そうなるとこうなるでしょ? ね?」


後ろから抱き付いて首元に顔を埋めながらこんな事を言ってくる。

前半部分の言ってる事はわかるけど、後半が何故そうなるのか意味がわかりません。

暴れて逃げ出そうにも覆い被さるように抱き付かれ、伸びる腕は逃がすまいとがっしりボクをホールド。

抵抗すれば抵抗する程に顔を摺り寄せて、レオナとは違う甘い香りと、とても弾力性の強い柔らかい物が、ふにゅんっと背中に。


「……ローズさんすいませんあのお願いします離れて……下さい」


「どうしたのユウ君、お耳まで真っ赤よ? お姉さん変な事したぁー?」


猫なで声でそう言いながらまた押し付けられる、柔らかい物。

今度は身体を傾けながら、押し付ける圧を変えてクスっと笑う。

この柔らかさと感触……ローズさんも、付けてないっ。


「―――ローズさん、あの、柔らかいのがですね? すっごく、当たってるのでほんと困りますやめて下さい恥ずかしいのでほんと勘弁して下さい」


「……えー? 何言ってるのユウ君。あててるのよ?」


「ボ、ボクが動揺するのわかっててそう言う事するのやめて下さい!

毎回、下着の時もそうだし、どうしてそう言う事するんですか!

いくらちっさいからってボクも男なんですよ! そう言う事されたら反応するんですよ! レ、レオナもそうだけどどうしてみんな付けてないんですか!」


思わずカーっとなって真っ赤になりながら捲くし立てる。

寝不足もあって冷静になれず、思った事を言いまくった。

そうだよ、レオナも寝る時にブラ外して寝るもんだから寝惚けて抱き付いてきた時に、色々当たってそれのお陰でボクは睡眠不足まっしぐら。

夜中に一人抜け出して誤魔化したりとかするけど、そんなんじゃとてもおっつかない。


「んー? 付けてないって?」


「ブ、ブラ……ブラジャーですよ! レオナも寝る前に外すから、抱き付かれた時に色々当たってボク眠れないんですよ! ネグリジェ一枚だからモロだし、柔らかいし、良い匂いするから余計に意識しちゃうし、横見たら無防備に可愛い顔で寝てるし!」


「あら……あの子、私相手でもあまり甘えないのにユウ君、随分仲良しさんなのね。

でもねーユウ君、女の子はブラ付けてると寝る時にすっごく苦しいの。特にお姉さんくらいになるとねー。わかるでしょ?」


「―――わ、わかる訳ないでしょ! ってまた押し付けてこないで下さいってばっ!」


子犬を抱える少女のように、彼女はその腕をほどく事をしない。

暴れてもダメ、大人しくしていても好き放題撫でられてダメ……八方塞とはこの事だ。

ハァッと溜息一つ、ボクはそのままなすがまま大人しくする。

そう言えば姉さんとむかーしこんな感じでじゃれ合った事もあったなー。




「……そう言えばローズさん、そろそろ霧が薄れて第五外大陸って場所に向かうって聞いたんですけれど、本当に5人だけで行くんですか?」


ボクはどうしてか、今は口にすべきではないであろう話題を彼女に振る。

いや、わかっている。

明らかに不利な戦いに赴く皆に対しての不安が、消えない。

そしてこうやってくっついて、自分の弱い部分が顔を出してきてしまった。

ボクは怖いんだ。


「そうねぇ、駐屯地のみんなには転移魔法陣を守って貰わなきゃいけないし、色々な事情で他国は介入出来ないから悲しいけれど今の人数よ……。大人数で攻めればこちらの狙いがすぐにばれるでしょうし、色々面倒になっちゃうでしょうね」


「色々とルシードさんから話は聞きました。でもボクは、わからないです。だって前の国王がやった事を、何でレオナとか皆が危ない目に合ってまでどうにかしなきゃいけないんですか?」


「――それがこの世界での、決まりだからよ。あなたの世界でも少なくとも何らかの決まりがあったと思うわ。……そう言う事よ」


彼女は抱き締める手を解くと、頭にそっと触れてくる。

ワガママを言う子供を言い聞かせる母親のように、優しく。


ボクはあの日、ルシードさんへ対して大言壮語を吐いた。そして自分の力を使ってみんなを助けたいなんて生意気も考えた。

しかしそう強がっても、怖い。

簡単に自分の命は粗末にしたくせに、他人が死ぬかもしれないと言う事実に恐怖する。

そして思う。

何で理不尽だってわかってるのにどうしてこの人たちは、そんな素振りを一切見せないのだろうか、と。

出会ってからボクはみんなが弱音を吐いたりしてるのを見た事が無い。

しかも魔王なんて存在と戦うと言うのに、馬鹿やって、騒いで、笑って。

確かに色々とそれに向けて準備をしたりしてるのは知っている。

けれど誰一人として、そんな陰りを見せる事が無い。


「……でもねユウ君。もし魔王と戦って戦って、どーしても無理な場合はみんなでコッソリ逃げちゃおうかって言う話もしてるのよ?」


「え……?」


パンっと掌を合わせると彼女はニッコリとそんな事を言い出す。

ルシードさんからはそんな事を聞いていない。

そして彼女はローブの首元に指を引っかけると、大きく開いて手を突っ込みゴソゴソし始める。


「ちょ、ちょっとローズさん何してるんですか! み、見え……胸見えてますよっ!!」


露わになる彼女の肌から思わず目を背ける。


「はい! これなんだけれどね、カーディアルを抜けた先にある小国まで飛べる転移魔法をかけた道具なのよ」


そう言って彼女が手にするのは5つの菱形の青い石。

表面には文字が彫ってあり、そこへ金が流し込まれて紋様がくっきり浮かぶ。


「ルシードや私は良いけれど、レオナはまだ14歳でしょ?

命を投げ出すには早すぎるわ。だからこれで誰も追いかけられない遠くまで逃げようって話。丁度昨日の夜中に出来たばっかりだったのよ。折角だから今、ユウ君に渡しておくわ」


彼女はそう説明するとボクにその一つを手渡す。

その石はボクの世界だとラピスラズリによく似ている。

そして彼女はにこやかに笑うと「変な事に使っちゃダメだからね?」と念を押す。

その言葉にボクは先程の事を思い出し、真っ赤になる。

そんなこんなやってる内に朝食の時間となり、ボクはレオナを起こすのを理由にして逃げるようにその場を後にした。







食事後、ルシードさんにお願いして早めの時間からスキルの練習をする事に。

ネガティブな考えをローズさんに言ってしまって、毎度の自己嫌悪に陥ってたのを振り切る為に早く練習したかった。

そしてもう一つ、確認したい事があって、彼に無理を言ってみて今に至る。



ボクはこの世界に来てネトゲスキルを扱える。

それは魔法、魔術、召喚スキルと言うなれば任意アクティブ系スキルを使っていた。

なら、発動させずに習得した時点で機能してるスキルはどうなってるのか? と疑問を覚えたのだ。



うまく行けばかなりの戦力になる……。

ボクは固唾を飲む音を押さえながら手を広げる。


「―――いきます」


手に込めた魔力を解き放つと同時に、渓谷は光に包まれる。


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