第十七話 「………もぞっ。」
「霧……ですか。話を聞いてる感じだと、普通の霧じゃないのは何となく想像は出来るんですが」
ボクは質問を投げかけながら少し冷めてきたお茶を口に運ぶ。
何と言うか……紅茶にオレンジとりんご混ぜたみたいな香りが強く、結構すっぱい。
眠気さましみたいにスッキリするな…。なんて思ってるとルシードさんが質問に対して口を開く。
「前に話した魔王が生み出した魔障の霧だ。それは魔力その物なのだが、どう言う訳か人間にのみ悪影響を及ぼす。しかも一定の場所を漂うと言う厄介な物でな……それがあって迂闊にヤツの居城に踏み込めんのだ」
魔障と言う言葉に覚えがある。確かヴィグフィスさんの亀甲縛りイベントの時、テントへ来た青年が口にしていた覚えがある。
それでレオナが頼まれて、治療しにテントを出たんだっけか……。
「現状我々を狙う魔族、魔物もその霧から生まれた物で、Elfを持つホワイトプリンセスと言われる存在を特に狙う。まぁ魔王を倒せる唯一の存在を狙うのは当たり前の話ではあるがな。っと、話を戻そうか。今話していた霧がそろそろ薄れる……その時期を狙って我々は魔王の居城を目指すつもりだ」
「薄れるって事は晴れると言う訳では無いんですね。そう言えば魔王の居城ってどこにあるんですか?
考えたらボク、この世界の地理全然知らないです」
その言葉に彼は散らかった作業机の上を漁り、何かの皮で出来た何かをボクへ見せる。
結構ボロボロだったけれど元の世界でも覚えのある代物。
―――地図だ。
「今我々が居るのはディーリスのカーレル山駐屯地だ。そして魔王が居るのがこの第五外大陸。霧が予定通り薄れた場合、ここを目指す」
ボクは彼が指差したその場所に固まる。
いや、場所と言うより、距離に。
「あの、ルシードさん……この場所から第五外大陸って何十? 何百kmあるんですか?
しかもこれ、大陸じゃなくて島だし、海まで相当距離あるじゃないですか。これならこのグラッセスかトーキツから目指すのが普通じゃ―――」
思わず考え無しにベラベラと喋るボクを前に呆然とするルシードさん。
何かわからず、目を白黒させる彼を前にボクも黙り込む。
「ユウよ。お前、ローズから国の名前は聞いていたりするのか?」
「……? いえ、今この地図を見て初めて知りました」
ボクは怪訝な色を浮かべる彼に首を傾げてしまう。
意味がわからず何を当たり前な事をと言いそうになるが、改めてボクは地図を見やる。
「……お前は文字がわかるのか」
「文字は学校で習ったの……で。―――あ。」
よく考えれば見た事も無い文字。
綴られた文字は筆記体っぽいけど、どう見てもアルファベットではない。
だが何度目を通しても字を理解出来る。何と言うか…文字を見ると脳内で勝手にフリガナを打たれるような感覚だ。
「……よくよく考えれば界客がこの世界の言葉を喋れる事も不思議な話だ。知人に界客が居たが普通に会話も読み書きもしていたな……。そこまで考えもしなかったが、変な話ではある」
彼は顎に手を宛てるとふむふむと何か勝手に独り言を始める。
ルシードさんって常識人だけど何か興味のある事になると、そっちへベクトル向いちゃって自分の世界に入っちゃう傾向があるんだよね。
召喚士とか言ってたし、そう言う不思議な現象とかの事になると夢中になっちゃうのかな?
「おっと、話の途中ですまない。文字が読める事はまた今度にしよう。
で、移動に関してだったな……? それについては転移施設を用いる。200年前に使われていた物が幸いにも、第五外大陸の魔王居城近くに残っているのだ」
「転移施設……ってこの前、襲撃に使われたヤツと似た物ですか?」
「基本的にそうだな。違うのは移動出来る距離と移動出来る量が違う。魔法による障壁なども専用の物でなければほとんど効果を受け付けず、通過出来る」
確かにその方法なら一気に移動出来るし距離は関係無くなるな……。
なんて便利なファンタジーなんだろうか。
と思っていたけど後から「必要な魔力が半端ないがな」と付け加えられた。
何でもかんでも便利なだけでは無かったみたいだ。
「そう言えば霧が薄まるっていつ頃なんですか?」
そろそろ霧が薄まると言う話をされたけど、具体的な話を聞き忘れていた事に気付き、おもむろに尋ねてみる。
「この様子ならば5日後……遅くても10日後には薄くなる。またはっきりした事がわかれば改めて伝える。その間、レオナ様を頼む」
「―――はい、わかりました」
その後、残ったお茶を一気に流し込み、時間も時間なので戻るようにとルシードさんに言われたので寝所へ戻る事に。
そして入り忘れていたお風呂に入ってから戻ると、レオナは既にベッドの上で静かに寝息を立てていた。
ボクは彼女を起こさないようにそろりと布団に身を滑り込ませ、掛布団を口元まで持ってくる。
………もぞっ。
はい、本日もやってきましたレオナのだいしゅきホールドのお時間。
専用の大好きなクマのぬいぐるみを抱き締める少女のように、がっしりと抱き付いてきました。
これはボクもあとで隠れてもぞもぞしなきゃいけなくなってしまう、などと考えつつ、何とか眠ろうと目を閉じ………………………………
「――――なんか眠れないんだケド」
おかしい。
流石に抱き付かれて興奮してるのはある。
しかしここまで眼が冴えてるのはおかしい……何でだと思い返して、一つ思い当たる節が。
「そう言えば、ルシードさんがくれたお茶、やたら頭スッキリしたよな」
そんな事を思いつつボクはレオナのホールドによる、悩ましい感触でまた明朝まで苦しめられた。
レオナさん、抱き付くなとは言いません。なのでせめてブラは付けて下さい。
お願いします何でもしますから………。
―――そしてあのお茶が徹夜する人御用達の飲み物だったと知るのは数日後だったりするが、また別のお話。




