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第十六話 「ローズさんのアイアンクロー」

2016/8/11 ルシードの幽閉されていた時期を300年前→200年前に修正。

今より約200年前。

とある大国を滅ぼし、それは突如現れた。


名は、魔王。


今となっては誰がそう呼び始めたのかわからない。

もしかしたらそれが自称していたのかもしれない。

だが今となっては知る術は、無い。


そいつのやる事はただ一つ。


全ての破壊。

ただそれだけ。


魔王は仲間を引き連れる事無く、ただ一体だけで全てを壊す。

この世界の人間を全て殺し、大地も、建物も何もかもを破壊して回った。


一夜にして都を焦土に変え

二日目で骸の山を築き

三日目で血の海原を作り

四日目で大地と海を穢し

五日目で国々を覆う魔障の霧を生む。


その霧より、穢れた魔物と魔族が数多と生まれ、人々は絶望の淵に立たされた。


そんな暗闇を照らす、最後の希望として魔王に向かう者達が現れる。


その者達はElfエルフと呼ばれ、唯一魔王に対抗出来る絶対的な力を持った存在であった。

長く長く続いた戦いの末……北の大地に魔王封印と言う形で幕が下り、人間の勝利となる。


そうしてその魔王の封印を護り続けるべく1つの国が設立され、長い平穏が訪れた。









「先程、全身に謎の痣を作り、そいつは意識不明のまま死んだ……」


ルシードさんの死と言う言葉にボクはビクリと身を震わせる。

二度も死を体感する経験をした為か、身体が思わず反応してしまった。


「謎の痣……? 病気か何かかかってたんですか?」


「いや、最初に私が診た時にはそのような物は無かった。

しかし容体が悪化したと聞いて駆け付けた時には既に全身へ痣がな……。調べてみたが病気では無く、何故か毛細血管と皮下組織の間に裂傷、打ち身みたいなものが全身に出ていたのだよ」


聞くからに痛ましい状況と言うか……あまり想像したくない。

打ち身、要するに打撲だよね。

ボクは痣とはいくらか付き合いがあっただけに痛みを思い出す。

そんな物が全身にくまなくなんて、想像をした先で身震いする。


「しかもその症状は体内、器官や食道にも及んでいてな。お前の元居た世界でこのような病気か何か、覚えはあるか?」


「事故とかで全身打撲ってありますけど全身にくまなく痣が出るって意味じゃないし……。ボクの国では少なくとも聞いた事無いです」


正直中2程度の知識じゃたかが知れてるとは思ったけれど、少なくともそう言う病気は聞いた事が無かった。

しかもそれが体内まで及ぶって多分、物理的に難しい。


「呪術と言う可能性は無いのかルシードよ」


「その可能性も考えたが一般兵に呪術など割に合わんし呪術は魔法魔術より手間がかかる。

しかも恐らくは界客そとびとに呪術も効かん。私としては界客そとびと特有の風土病みたいな物ではないかと睨んだのだが……それも違ったようだな」


確かに言われてみればボクの世界にあった病気が、何かの拍子に持ち込まれ、こっちで流行る可能性は充分にあり得るんだ。

現状どう言う条件でボクの世界の人間がこっちに来てしまうのかわからないし……。

そう言えば界客そとびとってこの世界にどのくらいいるんだろう?

あとは何年前くらいから来てるんだろうか。

考えたら色々聞きたい事あったんだよね。


「あの、ルシードさん、ちょっと聞きたいこ―――」


「ユウー! 上がった…………よ」



髪に珠のような滴を残したままの頬を赤くしたレオナが風呂上がりの良い香りを帯びて戻ってくる。

パサリと乾いた音を立ててめくれるテントカーテン、突然の主の戻りに硬直する男3人…。


「うぉおおおおおおおレオナ女王陛下ァぁあああああああッ!」


「きゃああああ! 何でヴィグフィスがいるの!? ローズ助けて!」


「アラアラ、ヴィグフィス。こんな遅く、女子の寝所でそんな格好してるなんてナカナカ面白いことしてるわぁ……最近ちょぉーっと調子乗ってるみたいだし、レオナに代わって私が第四でもたぁくさん叩き込んであげましょうか?」


「待てローズ! これにはキチンとした理由があるのだ! ユウ、ルシードよ静観していないで説明してくれ! オレはレオナ女王陛下のやっていたあの、えへぇぇええええええええ!?」


ボクらに助けを求めるクレイジー海パンさんはローズさんのアイアンクローを受け、そのままどこかへ引き摺られ。

そうだよね、こんな遅くに男がパンツ一丁で女の子の部屋にいるとか、ボクの世界でも通報案件。

仕方ない事なんだヴィグフィスさんと呟いて、ボクは彼へ向けて合掌。


「えーっと……。お、お風呂空いたよユウ。一体何があったの?」


「私がユウに用があったもので、それに付いてきたヤツが少々興奮してこのような事に……申し訳御座いません」


「そうだったのね。私は大丈夫よ……ただ、ローズがやり過ぎなきゃイイケド」


先程にっこり笑いながら、静かに怒りを露わにしたローズさんをレオナは心配する。

普段大人しい人ほど怒ると怖い……そんな言葉を思い出す。


「遅くまで失礼致しました。ごゆっくりお休み下さい、では私はこれで」


「―――ルシードさん、あとでお聞きしたい事があるんですが良いですか?」


その場を後にする彼はボクが何を知りたいのか察したような顔を浮かべると、頷いて返してくれた。






「もしやお前が聞きたい話は界客そとびとに関する話じゃないか?」


お風呂から上がると時間を合わせてくれたルシードさんは自分専用のテントに招いてくれた。

中は書類っぽい物がごちゃごちゃとしていて、中には魔法陣みたいな物を書いてある紙もチラホラ……。

乱雑とした作業机の上にはボロボロな本が何冊か山積みで、早い話が散らかりまくってた。

腰を掛ける場所が無いのでボクはベッドを椅子代わりに勧められ、ルシードさんはカップに何かを注いでる。



「はい。界客そとびとがどのくらい前からこの世界に来てるのとか、どのくらいの数の人がいるのとかちょっと気になって……」


「その質問にはあまり答えられそうにないな。っと、熱いから気を付けろ?」


「あ、どうもありがとうございます」


彼はマグカップをボクに渡すと、愛用の木椅子に腰を掛ける。

ボクはその渡された物を冷ましながら、ゆっくり口に含んでその味に噴き出しそうになる。


「~!? ―――げほっ! ルシードさんこれ、お酒じゃないですか! ボク未成年ですよ!」


「ん。酒がどうした? ユウは酒苦手だったか」


「と言うよりボク、お酒飲んじゃいけない歳ですよ! 見た目11だし、中身もまだ14です」


「そうなのか? レオナ様も時々嗜まれるので気にしていなかったが……飲酒制限は10歳では無かったのか? ふむ、それとも私の勘違いか」


ああ、そうか。

世界が違うんだから法律とか色々違うんだよね…お酒とかお正月に飲んでたお屠蘇ぐらいだったから、思わず焦っちゃったよ。


「ボクの世界だと20歳未満は飲酒禁止だったんで……。家で飲む事はあってもちょっとだけだったんで、すいませんがボクにはまだ早いです」


「そうだったのか。失念していたよ……」


彼は残念そうにマグカップを回収すると別のマグカップに何か注ぎ、「茶なら大丈夫だろう?」と申し訳なさそうに笑いながら手渡してくる。



「で、界客そとびとについてだったな。正直この世界にどのくらいの数が居て、何年前から界客そとびとが来ているかはわからない。

それなりに生きていたと言っても、幽閉されていた時間が長かったのでな」


「ゆ、幽閉!? ルシードさんってそんなに悪い事してたんですか……」


「大昔にちょっとな。お陰で200年近く檻の中さ」


―――200年? あの、どっかの大樹か何かですか?


「えーと、ここの世界の人ってそんなに、長生きするんですか……?」


「ああ……お前にはまだ言っていなかったな。私は、魔族なのだよ」


彼は平然とそう口にすると、左目にかけている逆三角型の眼帯をめくる。

その下からはルビーの原石みたいな塊が部屋のランプの明かりを受けて、キラキラ光る。

……魔族ってこの間、ボクを襲ったのと同じって事だよね?って事はこの人は元々敵側……?


「とは言っても襲撃してきた魔族とはまた別物だがな。いや、あの魔族たちの方が我々にとっては異質と言うべきか」


魔族と言う単語に、思わず身構えてしまったボクへ向けられる申し訳なさそうな

表情を彼は向けた。


「す、すいません。ちょっとビックリしちゃって」


「気にするな。黙っていた私が悪い。―――で、話を戻すとだ、いつからかと言うのはわからない。だが200年前には界客そとびとと言う言葉も既にあり、実際に居たよ」


まだ14年程度しか生きていないボクには想像も付かない次元の話。

元の世界で200年前って言えば確か……江戸時代?

学校で習った歴史でイメージするけど余りに漠然としていてよくわからないや。


「まぁ踊狂ようきょうにでも聞けば調べてくれるだろうが……そろそろ霧が薄れる時期に入る。それも難しくなるな」


「霧……ですか?」


ボクの言葉に彼は頷く。

そして思い出す霧の言葉の含まれた話を…。

この間、ルシードさんから教えてもらった魔王の伝承。



『五日目で国々を覆う魔障の霧を生む。


その霧より、穢れた魔物と魔族が数多と生まれ、人々は絶望の淵に立たされた。』





「魔王の居城の在る第五外大陸の霧が薄まる。そしてそれは……魔王との最終決戦の狼煙となる」


彼は瞑目してそう口にする。

それは戦いに赴く覚悟を決めた声……と言うより、どこか儚さを含んでいる。

そしてボクはその言葉に3日前、ルシードさんから聞いた話を思い返していた。


何故、たった4人で魔王を倒しに向かうのか。

どうして、誰も助力と言えるほどの助力を出さないのか。

何で、第一王女が自ら戦いに赴く事になったのかを―――。

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