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第十四話 「きゃぴっ☆」

「あれ、その服って―――」


お昼過ぎ、ルシードさんから返されたボロボロの学ランをテントの中で眺めてたボクをレオナが覗き込んできた。


「うん、ボクがルシードさんたちに助けられた時に着てた服」


「へぇ……真っ黒だけどスーツとはまた違った感じね」


「学ランって服なんだけど、これを着て学校に行ってたんだ」


絨毯の上に上着を広げると興味津々に彼女は見つめながらちょんちょんと触る。

ボクが別の世界から来たと言う事を示してくれる唯一の品だけれど、同時に一番嫌な事を思い出させる品。


「随分ボロボロね……ボタンも1個取れちゃってるし、何だかユウの身体より少しおっきい?」


「見つかった時、血だらけだったらしいからね。でもどうしてそんな事になってたのか覚えてないの」


制服の事にあまり突っ込まれたくなくて動揺したボクは不自然な女の子喋りをしまい、レオナから少し首を傾げられる。

しまったと慌てながら髪をいじって適当な話題を探す。

……そしてここに来た日の事を思い出し、咄嗟に口にした。


「な、なんでも魔族が襲ってきたのはどうもボクの学ランのボタンを使って転移魔法?って言うのを使って結界を潜り抜けて来たらしくて……。あの襲撃はボクのせいでもあったんだ。ごめんねレオねぇ」


「何言ってるのよユウ! そのボタンを使って侵入して来たのは知ってるけれどユウは悪くないよ!

それにその魔族から私たちを助けてくれたじゃない」


「ありがとレオねぇ。ただやっぱり自分のせいもあるよねって思っちゃって」


「そう言う事言わないの―――怒るよ?」


言い訳を口にするつもりがずっと気にしていた事を話をしてしまう。

それに対し、いつもははっきりした声で話す彼女は小さな声でボクを叱る。

いつも見る眉根を寄せた表情だけどその瞳に篭っている物が気のせいかいつもと違った。

それが何なのか考える前に気圧されたボクはゴメンナサイと口にしてしまう。



「でも凄いよね。同じ紋章とか入った物があればそれを使って瞬間移動出来る方法があるって」


「転移魔術って言うんだけれど、全く同じ大きさで尚且つ同じ模様の物が2つあれば魔力を使って瞬間移動が可能なの。大きさによって距離が変わるんだけれど…まさかあれを使える魔族が居るなんて思いもしなかった」



―――3日前の魔族襲撃事件。

あの日、ヤツらは結界をすり抜けてこの駐屯地に侵入して来たらしい。

そしてボクが倒した一際大きい魔族の側にボクの学ランボタンが落ちていたらしく、それによってボクへ疑いがかかった。

それで目覚めたすぐのボクにヴィグフィスさんがボタンを突き付けてくると言う事になったとか。

事前にボクや学ランを調べていたルシードさんはそれが間違いとわかっていたらしいが、ヴィグフィスさんが聞く耳持たないのもわかっていたので放置。

まぁヴィグフィスさんも本気じゃなかったらしいけど「予期せぬ襲撃のせいで気が立っていたせいですまない」とわざわざ海パン姿になってDOGEZAしてきた。

誠意はわかるんだけれどあの人は何かとあればすぐに脱ぐから色々困る。


「学ランボタンでそんな凄い事が出来るなんて……スマホとかあったらどうなってたんだろ。そう言えばあの時、スマホは一緒に持ってたハズなんだけれどルシードさん知らないって言ってたな。どこ行っちゃったんだろ」


「それって前にユウが言ってた不思議な四角の板?どっかに落しちゃったのかな」


「あったら便利だったかなーとは思うけど……。充電器もないし持っててもすぐに使えなくなっただろうし、別に良いんだけれどね」


未練が無いと言えば嘘になる。

でも持ってたとしてもせいぜいアラームに使うかゲームするくらいで、有効に使ったとしても時計代わりになったぐらい。無くても問題ない代物だとボクは割り切った。


「やっぱりユウの話聞いてると何もかもが不思議ね。このガクランって言うのも構造は私たちの服と同じだけど材質は違うっぽい。麻でも綿でもないし」


「逆にボクはこっちの世界の方が色々驚きだよ。魔法があるなんて一番驚いたし、色々楽しい」


「私は聞いてるとユウの世界の方が楽しそうに思えるな。アニメとか見てみたい! あとはあとは、ユウの言ってるネトゲとか言うのも気になる!」



彼女は屈託のない笑みを浮かべながらボクの居た世界を羨ましがる。

しかしボクの心の中は一言呟く。

『あんな場所にはもう帰りたくない』、と。

帰る場所も大事な人ももう無い。

それら全てが過去の中で帰ってくる事はもうない。



「……そうだね。確かにレオねぇならセーラー服とかきっと似合うだろうし、可愛いからきっとクラスでも皆と仲良しになれたと思うよ」


「ほんと!? じゃあそのセーラーフクってローズが着ても似合いそうね!」


「そ、それはぁ流石にキビシイ……かも。学生服って基本的に20歳未満の人が着る物だし」


「そっかぁ。ローズって何でも似合うから大丈夫だと思うけれど……年齢制限があるなんて変わってるのね」


レオナの言葉にセーラー服姿のローズさんを想像してみる。

しかし見た目が25歳辺りの彼女には色々ムリがあるなと再生されたモデルを即デリート。

ローズさんはスタイル良いからどちらかと言えばOLとか……ナース姿が似合いそうだ!

あとはそうだな…綺麗な人だから着物とかも案外着こなしちゃいそう。


「……ユウ?」


レオナが眉根を寄せながら不機嫌を露わにする。


「え、な、何?」


「なんかヴィグフィスが下着姿になった時みたいな顔をちょっとしてる……鼻の下、伸びてるし」


「うぇ!?」


変態代表ヴィグフィスさんと似た顔をしてると言われて思わず顔を隠す。

確かにローズさんでほんのちょこっといかがわしい想像はしたけれど、あんな海パン姿で叫びながら愛を求める人と同じ顔になってたなんて…。


「え、えへ! そーんな事ないよ☆」


「………ユウって時々そう言う変な動きするよね。可愛いから良いんだけれどさ」


漫画辺りだと「きゃぴっ☆」とでも効果音が付きそうな明らかにあざといぶりっ子スマイルをしながらほっぺに指を立てて誤魔化す。

どっかのアイドルとかがやりそうな仕草なのだが、これも姉さんに叩き込まれた女の子スキルの一つ。


『「えへっ!」なんて吐くリア女はロクなのが居ない。しかし男の娘がやれば全ては許される。それは私たち腐の想いもそこにあるから…っ!!

だから恥ずかしがらないで悠、あなたは可愛いのよ!』とかよくわからない事を言われながら覚えさせられたこの仕草。

こないだダメ元でやったら予想以上に効果があって最近よく使ってる。

しかしこれやると後から火が出るくらい恥ずかしくなる諸刃の刃なんだよね…。


「さて…これどうしよっかな」


ボクは気を取り直してボロボロの学ランと向き合った。

レオナは「直して着ないの?」って言ってきたけれど11歳の身体になっている今のボクには大きすぎる。

しかもイジメの事を思い出しちゃうから二度と着たくない。

でも何故かな、前の世界に対してのほんの僅かな未練が後ろ髪を引く。


「………うん、捨てちゃおう」


ボクは思い切る事にした。

正直、こんなあちこち破けまくった服を着るなんてまず無いし、直す意味も無い。

どうせ荷物になるだけだし、持っていても仕方ない。

しかしそう口にしたと同時にレオナが学ランを持って行かせまいと両手で絨毯の上に押し付ける。


「な、なんで? ユウが居た世界の物なんでしょ? 大事な物じゃないの?」


「そうだけどもうこれは着られないし、邪魔になっちゃうかなって。

……レオねぇこそどうしてそんなに嫌がるの?」


「………」


彼女は俯いてただ黙る。

けれど学ランを握る手の力は弱まる事は無い。

その手は叱られた女の子がスカートの裾を握り締めるかのようにそのまま、強く。


「あんまり、良い思い出が無いんだよね。学ラン……」


話すつもりが無かったのに気が付くとポツリと呟いてた。


「レオねぇにはちゃんと話してなかったけど、元の世界に帰ってももう、家族は居ないし…あそこには何も無いから。だからこれもいらないんだ」


3年前、母さん姉さん3人で買い物の帰りに居眠り運転のトラックにボクらの乗った車が巻き込まれる大事故が起きた。

それにより2人は帰らぬ人となり、ボクは伯母に引き取られる事になるけどうまく行かず。

何もかもがどうでも良くなったボクはどんどん塞ぎ込み、学校でもイジメられるようになる。

―――そしてそれらを理由にして、ボクは昔住んでたマンションの最上階から身を投げた。


口にすればフタをしている様々がズルズルと当時の痛みと一緒に出てくる。

そんな理由でこの世界に来てからもなるべく思い出さないよう、喋らないようにしてた内容だった。



「……ご、ごめんなさい」


「気にしないで………レ、レオ…ナ?」


彼女は震えながら抱き締めてきた。

ボクの頭を抱え込むように抱き付き、頭に触れる手は小刻みに震える。

そしてそのまま小さく「ごめんなさい」ともう一度囁く。

何だろう……ボクに謝っているにしては何かが変。

それが何かわからないままボクは彼女の背中に手を回して、ゆっくり抱き付いた。


「大丈夫だよレオねぇ。もう昔の事だし、もうヘーキだから」


「……大丈夫とか平気って口にする人ほど、我慢してるんだってローズが言ってたわ」


「ぬぐっ……。でもそうは言っても難しいよ。どうしたら良いかわかんないし」


「じゃあ私にいっぱい甘えていいよユウ。ね」


どうしてそこで甘えて良いと言う事になるのかわからなかったけれど、ボクはなすがままレオナにしがみ付くみたいに身を預ける。


……考えたらこうやって誰かに抱き付くのって3年振りなんだっけ。

そう言えばこんな風に誰かに、胸に引っ掛かった物を口にしたのって母さんと姉さんが居た以来だっけ?




―――ふいにそんな事を思い出すと、涙が自分の顔を濡らしていた。


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