第百二十話 「仔猫のいたずら」
「どう……しよ」
記憶が無い。
どうしてどうなったかわかんない。
レオナは裸で自分も裸。
ここはどこだと見渡せばレオナの部屋だと気付く。
仕事で何度かベッドメイクしたりしたが……
いやそれより一体何が?
「でもうん……」
しかし何があったかくらいはボクでも察した。
「ボク、シちゃったの……?」
じゃないとオカシイ。
てかボクからしちゃったのか?
それともレオナ……から?
いや、まてまてまて。
記憶に無いんだからまだわからない。
てかどうやるかなんて本でしか知らないぞ。
だから出来る訳が無い。
うん、未遂って可能性が―――
ちょ、ストップ。
マイブラザーよ。頼むから元気良くビルドアップしないで。
「ん……っ」
もそり、とボクの左横で眠るレオナが動く。
熱いのか掛布団をめくると陰を作っていた物が無くなり、
朝日を受けたレオナは小さく眉根を顰めて薄目を開いた。
もしかして起きた?
どうしよう……。
とは言っても身を隠す物も無いし、抱き付かれているから逃げれもしない。
「ユ……ウ。おは……よ?」
花びらみたいな小さな唇を動かしながら彼女はそう向けてくる。
そして微笑みながら仔猫の様にボクの胸に顔を埋めてきた。
うーん、レオナは何があったか全部覚えてるだろうし……
てかこれはボクも何か言わなきゃいけないよね?
だんまりって流石にアレだし、てか色々当たってて頭が働かないよ!
わかんないからってまさか変に聞けないし―――
ってブラザーはお願いだからそれ以上オーバーワークしないでっ。
「お、おはよ……レオナ」
熱暴走する自分は何とかその言葉を捻り出した。
ところどころ息が詰まって声になって無かった気もするけど、
鼓動が喧しくてそれすらわからない。
「ん……♪」
彼女は猫なで声と共に顔を擦り付けてくる。
動きと一緒に付いてくる髪の毛がくすぐったく、思わず笑い声が出る。
あれ、恥ずかしくないのかな?
しかしレオナ、仔猫みたいだ。
そんな事を思いながら髪を撫でていると仔猫は手を動かしてじゃれる。
そしてお腹の上とかをペチペチ叩いてきて―――
その手はふいにトレーニング中の彼の邪魔をしてしまう。
「…………」
「…………?」
同時に頭を撫でてた自分の手は停止した。
猫は上目遣いに「もう終わり?」とでも言いたげに見つめては催促してくる。
あの、先生……当たってます。
「………………あ」
ツン、と今一度彼女の手の感触が伝わる。
すると手に当たった物が何か気付いたらしく、
視線の端に映るレオナの顔がみるみる染まっていく。
そして彼女はゆっくり後ずさりしながら枕を抱え込んで背を向けた。
ボクも合わせる様にゆっくり背を向け、感触や映像がぶり返しては前屈み。
これ、どうしたら良いの?
「ご、ごめん……そう言うつもりじゃなかったの、その……」
消え入りそうな声で彼女はそう向けてくる。
寝惚けていた頭が一気に醒めたと言った所なんだろうか……。
しかしドクドクと打つ心臓の音のせいで彼女の声を上手く聞き取れなかった。
ちょっと、落ち着いてマイハート!
「へ、平気だから……うん、気にしないで」
「そ、そか」
「う……うん」
短いやり取りを終えるとそのまま互いに黙る。
会話が続かない……。
てか何を話したらいいかわからないよ。
「…………」
―――沈黙が続く。
背中を向けていくらか距離を作ってるせいで掛布団に隙間が出来て寒い。
頭を中心に全身熱いけど、裸のせいでめっちゃ冷えてくる。
いや、この場合は熱を持ってるせいで寒く感じるのかな?
何かよくわからなくなってきたぞ。
「あ、あのね。
旅の時みたいにまた一緒に寝たいなーって思って……その」
「う、うん」
「でも時間も時間だったから着替え頼めないし、
だから下着で一緒に寝たんだけど……熱くて……」
「そ、そか」
「私も、脱いじゃった……うん」
要するに酔っぱらってたボクを部屋に連れてきて、
一緒に寝てたら熱くて脱いじゃったのね。
って事はボクも酔っぱらって熱くて脱いじゃったってトコなんだろうか。
そうなるとお互いに裸だけどそう言う事はしてないんだね。
……良かった。
しかしだからと言ってこの状況がどうにかなる訳でも無かった。
こんな時、アニメとかなら―――
と、記憶を辿ってみたけどロクな展開の物が無かったので即却下した。
だってえっちな展開かロクでも無い展開になる2つしか無いんだもん。
「ユウ、隙間が空いてるから……ちょっと、寒いね?」
「そ……だね」
そう言ってレオナは背を向けたままこちらに少しだけ身を寄せる。
合わせてボクも少し、レオナに身を寄せる。
しかし依然として寒い。
すると彼女もそう思ったのかまた少し、と動く。
自分も僅かに、と身を寄せる。
そして互いにちょこっとずつ、ちょこっとずつと身を寄せ……
ついに背中があたる。
「……」
当たっている部分が過熱した金属みたいに熱を持ってアツイ。
しかしそこ以外は冷えた空気が流れ、温度差を前に一層肌寒さを覚える。
暖かいけど……寒い。
ぶるりと身を震わせていると、別の暖かみが背中に添えられる。
この感触は……指だ。
「ユウ、寒いの?」
「う、うん」
「じゃあこっち向いた方が、隙間出来ないし……寒くないよ?」
その一言にドクリと心臓が激しく叩かれる。
血圧が上がりすぎたせいで視界の端に星が散らばり、息が詰まる。
口から心臓が飛び出そうってあるけど、まさにそれだなコレ……。
「そ、そそっち向いたらその、2人とも服脱いじゃってるから……えと」
「……旅の時にいっぱい見てたのに、今更……じゃない」
はい……その通りですね。
でもだからと言って向き合うってのは無理です。
だってお互い裸だし、しかも逃げ場もないし、それに見えちゃうし、
しかもリトルブラザーはいつも以上にバンプアップしてヤバイいし……
そんな事を頭の中で並べ立てていると背に触れている指が僅かに動く。
それは『こっち向かないの?』と訴えている様で、
自分は湧き続ける言い訳にフタをした。
―――そして、背に温もりを伝えてくる彼女とボクは向き合った。
「…………」
「…………」
向き合った先のレオナはリンゴの様に顔を染め、
必死に恥ずかしさを堪えてる様子だった。
同じくボクも熱が上がり、上手く視線を合わせられない。
掛布団があると言ってもいくらか隙間が出来てる。
そのせいで彼女の控え目な胸が布団の中で見え、ボクはいくらか距離を作る。
考えたら彼女の方もボクの体が見えてる状態だし全部見えてるよね。
……かと言って近寄る訳にも行かないしなぁ。
「……んっ!」
「ほぐっ!?」
再び優柔不断が騒ぎ回る中、一喝する様にボクの鳩尾へ鈍痛が走る。
何かと確認すべく視線を落せば柔らかなブロンドがボクの胸の上で広がり、
小さな手が同じく胸の上に添えられていた。
「こ、こうしたら見えないし恥ずかしくないから!」
「見えないけどそれ以上に恥ずかしい状況じゃないかなっ!?」
「は、恥ずかしくて顔も合わせられないのは回避出来てるから!」
レオナさんによる超理論が展開される。
その理屈はおかしい。
「そ、それにユウ前に言ってたじゃない! つ、付き合おうとか恋人って!」
「確かに言いはしたけど……っ!」
「付き合ったり、恋人って言うのはこんな事をするんだって聞いたよ!」
「色々誤解のある知識得てますねレオナさん!?」
一体誰からそんな話を……ああ、恐らくローズさんだな。
そうに違いない。間違いない。
だって彼女がほくそえんでるのが思い浮かぶもん。
……今度会ったら文句言ってやる。
「あれ……じゃあこれって、間違ってたの?」
「間違っては無いけど何と言うか順序と言いますか……」
「順序?」
その言葉と共に彼女はもそりと顔を出す。
恥ずかしいけど開き直った自分は身を寄せたまま、見つめ返す。
「あ、そっか」
するとレオナはゆっくり顔を近付けた―――
「……ん」
それは仔猫が甘えて唇へ顔を寄せる様に。
ただ仔猫と違うのは毛だらけな感触じゃ無く、
柔らかくて凄く熱くて、しっとりしてて……良い香がした事。
「これで、順序通り……?」
顔を離した彼女は恥ずかしさを誤魔化す様に笑みを見せながらそう答える。
すると彼女の唇が触れた部分を中心に発熱を始める。
熱は爆音を伴って唇から全身を走り、何か言おうとしたが全部弾け飛んだ。
そして沸点を超えた自分の脳はブルスク吐いたPCみたいに停止する。
「あ、あれ? ユウ、ユウ?」
毛並みの良い仔猫のいたずらに耐え切れなくなったボクの頭は煙を噴く。
そしてキャパオーバーに異音を上げるとそのまま強制シャットダウンした。
もうお前ら早く結婚しろよ()




