第百十四話 「冗談ヤメテ。マジヤメテ」
「そ、そうは言われましても巫女様」
クロカさんの適当に思える言葉を前にリスリムは困惑を見せる。
それもそうだ。
他人の功績を自分の物にする。
それがどんな良い物であったとしても気持ちの良い話では無い。
正義感が強いリスリムならそれは一層だろう……。
「貴方、一個勘違いしてるわね。
功績を受け取ったからって事実が誤魔化されるって話じゃないのよ?」
彼女は子供に言い聞かせる様に指を向ける。
それは聞き分けのない子へ説いて聞かせる様な、そんな感じで。
「ここで貴方が功績を拒否したとしましょう。
そうなると功績の行先はユウになるわね。
単身で大迫轟の節にて多大なる功績を残した存在。
確かに凄く聞こえは良いわ。」
「……」
「けれどね、人を使う者……他国の王族や貴族にどう映るかしら?
彼らは結果だけで判断するわ。税収を数字で追うようにね。
そして指揮者の貴方を差し置いての評価に対し、不信を抱き兼ねない。
もっと言うとユウは独断で身勝手に動いたとも判断され兼ねないのよ」
その言葉にリスリムは反論を出来なくなる。
確かにそうだ。
そしてボクはあの戦いでリスリムの指示を受けて戦っていない。
更にはサテンフィン王国が襲われてると聞いて勝手に動いた。
結果としてどうにか出来たから何も言われていない。
―――しかし、身勝手が原因で状況が悪化していたならどうなった?
言ってしまえばそれらに目を瞑って貰ってる現状でもある。
それらを踏まえての……リスリムを功労者としてと言う話でもあるのだろう。
「更に言ってしまえば要談の際に貴方はレオナからユウを……魔王を預かった。
そしてその時交わされていた内容の一つに、
『レオナが魔王の手綱を取れているかの確認』が含まれていたと思うのだけれど。
違う?」
「……はい。その通りです」
「ここでもし断れば、魔王はレオナの指示すらも聞かなかったと思われるわ。
事情や事実は別としてね……。
ここだけの話と言ってもどうなるかなんてわからない。
何かの手違いで外に漏れるかもしれない。
人の口には戸は立てられぬ、と言ってね。
一度広がってしまえば止められられないわ。
それは10年前の事で貴方も知っている筈よ?」
彼女は釘を刺す様に目を細め、こちらを僅かに見やると言葉を続ける。
「その時、この一件の事が知れていたとしたらどうなるかしら?
人は物事を悪い方へ悪い方へ考える傾向があるの。
そしてそんな時、魔王の悪評もあいまって最悪はこう思われるかも。
『魔王はレオナ王女の指示も聞かない危険な存在』もしくは
『レオナ王女はコントロール出来もしない魔王を手元に置いている』と」
そう言う事か。
あの時、大勢の前でそれらを引き受けてボクもそれを了承した。
早い話が直接手綱を取る相手が替わっただけであって、最終的な責任はレオナにある。
ここで身勝手に動いたと言う評価をされれば、レオナの評価を下げる結果にもなるのだ。
「胸にある誇りは十二分にわかるわ。
けれど貴方も統べる者を目指すのなら、
下の者の気持ちをもう少し汲んであげなさい」
彼女はそう口にすると先程のおじさん達をチラ見する。
敵を蹴落とし、のし上がる場合なら功績を拒否するのが一番かもしれない。
……しかし、リスリムは他人を貶める事を良く思わないだろう。
「―――わかりました。功労の話、謹んでお受け致します」
彼は胸に手を宛てながら静かにそう答える。
その一言に先程の男性もほんの僅か、安堵の表情を見せる。
同時に張り詰めていた場の空気がいくらか緩んだ。
何とも複雑だけど、まぁ丸く納まるならこれがベストか。
「……『ドレスの裾を睨む』のもイイケド、程々にね」
彼女はそう呟くと自分の居た場所へ戻る。
何の諺だろう?
なんて思っていると弱々しいナビが説明をくれる。
『綺麗なドレスに泥がはねない様、神経質になる話から出来た言葉だなぁ。
確か見境なく潔癖になりすぎるなって意味。てか好い加減、夜花どけし……』
なるほど。
そんな関心をしながら会談を見守る。
様々なやり取りが数時間に及び行われ、夕方にやっと終わった―――。
『どうしたし、何か食わねぇの?』
「そう言う気分じゃないよね……うん」
トシキの声に苦笑交じりに答えてはボクは目立たない様に静かにする。
会談の後、晩餐会が始まった。
魔王封印と大迫轟の節が無事に終わったと言う名目らしいが……
何とも居辛い空気だ。
レオナの近くに行こうかとしたけど多くの王族貴族に取り囲まれ近寄れない。
行き場を無くしたボクはそそくさと退散し、壁に張り付いて煌びやかな光景を眺める。
そして未だに畏怖を抱かれているのか自分の近くには人が来ず、今に至り―――
「あら、馬鹿ね。こう言う時は遠慮するものじゃないわよ?
そんなだから男の癖に小さいのよあなた。ホラしっかり食べなさい」
「そうですよ魔王封印体サマ。
その様な貧弱で脆弱で貧相な身体付きではいざと言う時に何も出来ません。
ですので、レオナ様の事もお考えになってキチンとお食べ下さい。さぁ」
うん、一人じゃなかった。
むしろ一人にして欲しかったのに苦手な人ツートップがどうしてか両サイドに立つ。
そして高圧的なコメントと一緒にお皿のオススメがグイグイと……。
『なーんでぇユウ、モッテモテじゃねぇか? レオナ居んのにイイのかなー?』
冗談ヤメテ。マジヤメテ。
「ちょっと。私が折角持ってきた物を食べられないって言うの?」
「このニーア・ネヴィリウム、
魔王封印体サマがその様に厚意を無碍にする方とは存じませんでした」
「まって! まってまって! そんな一気に渡されても食べれないからっ!」
傍から見ればどっかの漫画ゲームよろしくなハーレムみたいな状況。
両手に花って言葉がわかりやすいけど……トゲと毒持ちの花はキツイです助けて。
「じゃあ早く」
「食べて下さいませ」
あんなにキツイ当たり方してたのに急に何なのさ?
特にルカさんとか初対面に近いボクをボコボコした以来のにどう言う事なの?
意味わかんないんですけど……。
そんな事を思いながら根負けした自分は渡された物を渋々食べる。
嗚呼、お肉おいしい。
味を噛み締め、ボクは僅かの間だけ現実逃避した。
「ところであなた、レオナの傍に行かないのね?」
「人がいっぱいだし、あそこを割って入る勇気は無いよ」
「ふぅん……」
また罵倒でもされるかと身構えていたけれど、軽く流された。
色々言われるのも嫌だけど、興味無さげに反応されるのも悲しい物があるな。
「どーもーこの度はぁーお疲れ様でしたー。どもー」
聞き覚えのある間延びした声と共に長身の男性が自分の前に来る。
彼は身嗜みの良い姿とは裏腹にだらしない動きで手を振ってくる。
この人、ボクが攫われた時に協力してくれたって言うリスリムの従者の人だ。
確か……
「あら、のびシャツみたいなペリアじゃないどうしたの?」
「いえー折角ぅーこう言う場なのでーご挨拶をと思いましてぇーはいー」
「あ、あの……この度はどうもありがとうございました」
「いえいーえー。
主様に言われた事をしただけなのでーお気になさらずー。って主様ー?
リースーリームーさーまぁー?」
彼は手を振ってそう答えると後ろを振り返る。
するとペリアさんの5m後ろで後退りするリスリムの姿が。
何なんだ一体……。
「こーゆー肝心な時にぃ、今一歩踏み出せないんですよねぇー主様はー」
「な、何か御用だったんでしょうか、その、リスリム様は」
「此度の件でお話があったみたいですけどー困りましたねー。
まぁあなたにからかわれたのをー、
未だに引き摺ってるってのもーあるんでしょうがー仕方ないーです」
その一言に冷や汗が伝う。
ボクは初対面のリスリムへトラウマを擦り込む様な事をした。
やばい。
頭に血が上ってあんな事しちゃったけど、従者の人に話す可能性もあったんだ。
後悔先に立たずとは言うけれどこんな形で戻ってくるとは……どうしよう。
「とは言ってもーリスリム様はすーぐ調子に乗るのでー、
丁度良いお薬でしたがー。
ですがあまりからかわないであげて下さいねー。
あのお方はですねーああ見えて実はー結構純粋な所があるのですよー。
ですからーあの後ぉーたぁいへんで大変で―――」
「おいペリアぁ! おお、お前、適当な事を口にするなあ!?」
少々気になった話は赤裸々色の彼によって止められてしまった。
やっと暗い話から抜けましたね。




