第百十三話 「うわキツ」
厳格な顔付きをした大人達が立ち並ぶ王の間に自分も緊張しながら立つ。
今日は大迫轟の節に関しての会談があるとかでボクも呼ばれ、参加する事に。
遠目でも久々にレオナの顔を見れたのは嬉しいけれど……何とも居心地が悪い。
この場には他にニーアさん、リスリム、ルカさん、ヴィグフィスさん達の姿があり、
国の重役や関係者は此処へ集まっている。
皆は王族や貴族の人達に混じり、王座に向かって参列をする。
そしてボクもその中に混じって居るのだが……いくらか距離を取られてる。
こっちへ向く視線も複雑な物で言うまでも無く良い物じゃない。
……早くも胃が痛いです。
「やっほぉー♪ ユウ元気にしてたー?」
そんな中でデートの待ち合わせ場所に駆け付けた恋人みたいなノリの声が響く。
声に遅れてボクの方へパタパタと可愛らしい足音が届く。
あれ、この声って……?
逸る気持ちを押さえ、顔を向ければ女性が手を振っている。
慣れない場で緊張する自分は彼女の姿を前に緊張の糸が緩む。
同じく手を振ろうと腕を上げると、
「あ、クロカさ―――」
「このバカチンがぁあああああああっ!!!!」
「ほぐぅっ!?」
彼女の腕はボクの喉を目掛けて打ち込まれ、振り切られる。
久し振りの感動はラリアットで交わされ、気付けば自分の身体は宙を舞う。
一瞬映った視界には呆気に取られた大人達とレオナの顔が。
豪勢な絨毯の上に落下したと同時にその映像は中断され、頭の中で星が飛ぶ。
―――え、何でボクはラリアットなんてされてんの?
わけがわからない。
何故クロカさんにそんな事をされたか理解出来ない頭を起こす。
視線を向ければ腕を組んで仁王立ちする彼女の姿が。
とりあえずその形相と威圧からクロカさんがお怒りなのは察せた……。
「ユウ、私が教えた魔力コントロールの呼吸法サボってたでしょ!」
「……あ」
その一言で自分は固まる。
彼女の言う通り、毎日やれと言われてたのにいつからかやるのを止めていた。
レディースに就いた辺りからサボり始めて、その内それすらも忘れた。
けれど何でバレたんだろ……。
しかしそれで何でここまでキツイおしおきが……?
「ご、ごめんなさい。忘れて、ました」
とりあえず言われてた事をやっていなかったので自分は素直に謝る。
「そんなだから魔王に主導権譲ったり、ドラッグに負けそうになったりするのよ。
そうならない様にの事も含めて教えてたのに駄目じゃない」
溜息交じりの言葉に冷や汗が伝う。
え、まさかそこまでわかってて教えてくれていたのか……?
と言う事は大迫轟の節で起こる事も事前に知っていたハズだ。
じゃあどうしてあの時教えてくれなかったんだ。
そうすればもっと被害を出さずに――――――
いや、そうじゃない。
知っていたから渡竜の時期が早まるとか数が増えてるって事前に報せてくれた。
それに幾層封印璧が発動した事もいち早くリスリムに伝えようとした。
一から十まで教えて貰おうと言うのは甘えだって知った筈だ。
向けられない不満を彼女に向けるのは間違っている。
そう整理するとボクは噴き出した感情を落ち着けた。
「でも無事で良かったわ。大丈夫だとは思ってたけど結構心配だったんだから」
「い、いえ……」
そう口にする彼女は安堵や様々な物が入り混じった笑みを見せる。
そして無事を確かめる様にボクの頭に触れ、強く撫でてくる。
ああ、凄く懐かしいな……コレ。
「あ、そうそう! 見てよユウ!」
彼女へ視線を向けると両手で髪を指さしながらはにかんでいる。
顔を上げれば反応を心待ちにしている彼女が片足を上げてご機嫌な様子。
その動きに合わせて二つの髪が犬の尻尾の様にふわふわ揺れていた。
「それって、ツーサイドアップ……? 可愛いですね」
「そ! 前に言ってたからやってみたー♪」
ぴょんと片足を上げながらクロカさんは大はしゃぎ。
そんな微笑ましい姿を前に、
『うわキツ』
首元のジェムより久々に聞こえた声がボソリと遮った。
その一言にクロカさんはピタリと止まり、笑顔が凍る……。
そしてボクのジェムを鷲掴みし、浮かべていた笑顔がみるみる黒く染まる。
「キツ、何?」
『キツツ―――あだだだだだだだだっ!?』
「ごっめぇ~ん♪ 聞こえなかったからもっかい言って?」
『いや、ちょっとうわキツ言っただけだろ中身の年齢的に少しは自重し……
はぎゃあああああっ!!』
彼女の手の中のジェムはミシミシと。
そしてリンク越しのトシキは断末魔にも取れる叫び声を上げる。
あーあ。変な事言うから……。
『おい巫女テメ……ジェムの中と外からのダブルで攻撃やめ』
「ごめんなさいが聞こえなーい♪」
『ゴメンナサイが聞こえなーい♪』
『いやぁああああああああああああああああ』
叫び声の途中でプツリとリンクが途絶える。
やっばい、ニコニコしてるけどすごく怖いよクロカさん。
「う、うをっほん!!」
ワザとらしい大きな咳が響き、ボクはビックリする。
そう言えば会談で人が集まってるの忘れてたよ……。
「時詠の巫女様。
再会を喜ばれるお気持ちは判りますが、そろそろ宜しいですかな?」
紳士を形にした様な老人が一人、腰を折りながら恐る恐るそう口にする。
その言葉でクロカさんも我に返り、「あらごめんなさい」と身を翻す。
しかしボクも結構変わったと言うか。
前だったら大勢の人の前でお喋りとか出来なかったよ。
そんな事を呆然と思い返しながら自分は会談に参加した。
「――――――よって、大迫轟の節に於いての一の功労者は、
セディンカーマリアル・パーディンズ・リスリム様とここに」
「待て」
粛然と話が進み、多くの人間が黙ってそれを聞く中でそれを止める声が上がる。
視線を向ければ目が覚めるような真紅に身を纏った彼の姿が。
そんな彼はオールバックのブロンドに軽く触れ、鼻を鳴らす。
「確かに大迫轟の節の戦いで我が白英団率いる王国騎士団は命を賭して戦った。
しかしその様な物を受けれる程の功績は出していない」
「で、ですが山脈に於いて奮闘したのは事実で―――」
「それ以前に国を襲撃した渡竜を防いだのは誰だ?
そして要談に於いて交わした内容は何だった?
民を、自国を、他国を裏切って全てを失った前国王と同じ事柄を貴公らは行う気か」
リスリムの一言に貴族の男は押し黙る。
前にキサラギさんが表に出た要談の際、魔王の手綱を取れているか示せとレオナは言われた。
その為にボクは大迫轟の節に参加し、戦った。
そしてそれは全て3年後に行われる選帝の為だ。
しかしそう考えると功労者として評されるのはリスリムに取ってプラスじゃないのか?
変な言い方、黙ってれば自分の功績となって選帝に有利になる。
「王になる前より国民を、国を裏切る事をする気はない。
その裏切りを自分以外が知らずとも、だ」
そう言う事か。
初対面の時からキツい性格だったけど、彼は一貫して真正面から物事に挑んでいる感じだ。
リスリムは発言のせいですごく傲慢で高慢に見える。
けれどそれらは全部、正々堂々と立ち向かおうとする故なんだな……。
「……少々失礼致します。お二方とも落ち着いて下さい」
そんな中、細身の男性が静かに会話に割って入る。
彼は軽く髭に触れながら、一瞬こちらを見やっては視線を戻す。
あの人って確か……要談の時に魔王が戦えば良いとか叫んでた人だな。
「シヴィン公がこの様に言われていた事には理由がありまして……。
今回の一件、要談の際にレオナ様よりリスリム様の元へ魔王が預けられた。
そして此度の戦いに参戦した形になったかと思います」
「あぁ」
「よって魔王に関する指揮権が一時的に移った形になったかと存じ上げます。
その為、功績に関してもリスリム様へ向いたと言った事情が御座います」
「確かにそうではあるが……物は良いように聞こえるのは気のせいか」
「いいえ。指揮は立派な功績でありましょう。
故に戦闘へ参加する直前、魔王が負傷者を治療した件もその一つでありまして、
それらを全て顧みての話です。ご理解頂けますか?」
問いに返事をしようとしてリスリムは固まる。
そうだ。
自分は『戦闘に参加する直前』に負傷者を治療なんてしていない。
ボクが攫われている事実を誤魔化す為にリスリムがそんな嘘を付いたと聞いている。
そうなるとさっき言っていた言葉に矛盾が生じる。
『王になる前より国民を、国を裏切る事をする気はない』
ここで受け入れれば自分で言った事、全てが嘘になる。
リスリムに言葉を向けた男性は冷酷な視線を見せたまま返事を待つ。
その表情は陥れようとかそう言った者じゃ無く、何か訴える様な。
……こう、甘い事を言うなとでも言いたげだ。
沈黙の中で誰も彼もが静かに続きを待ち、誰もがそこに割って入れない。
―――かと思えば彼女は尻尾の様にサイドの髪を揺らしながら前へ出る。
「良いじゃない? 受け取っちゃえば」
クロカさんは長話に飽き飽きしたと言った顔をしながら軽いノリで話に割り込んだ。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致しますー。




