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第9話 「ボクのゆとった肉体レベル」

2016/4/11 大幅修正

2016/9/22 銀の車輪の効果変更(効果減少、重複使用可能追加)

2016/11/24 描写の修正

「はぁ、はぁっはぁ……!」


生前、大した運動もしていなかったボクの身体は1分も経たず悲鳴を上げる。

足はガクガクと震えて、関節も激しく痛む。

思いっきり口を開けて呼吸をするせいで喉まで乾燥し、喉が張り付いて呼吸もままならなく。



「そいつらは襲撃してきたヤツよりかなり弱い。落ち着け!」


黒いバケモノたちから逃げ回るボクへ遠くからルシードさんのアドバイスが飛ぶ。

確かにあのバケモノと比べてサイズも小さくて動きは遅いけど……そう言う問題じゃないんだ。


2日前、ボクへ死と言う恐怖を植え付けたあのバケモノそっくりの黒いモンスターたちはひたすた自分を追い回してくる。

その動きは視点が定まらない中で何かを追い続けているかのよう。

落ち着いて対処すれば問題無く距離を取れるだろ。

頭ではわかっている。

しかしぶり返す恐怖が足をもつれさせ、自分は走ってはこけてを繰り返していた。


「くそ……! く、来るな! 来るなぁ!」


「カルルル……ッ」



恐怖は思考すると言う物をボクから奪い獲り、ただ逃げ回るだけの生き物へ変える。

鼓膜を叩く脈は熱を上げ、癒えてるハズのお腹の傷へ痛みを送る。

それは様々な物をフラッシュバックさせ、先程まで調子乗りネトゲスキルをぶっ放していた余裕はとうに消え去っていた。


体力が底を尽き、地面へ転ぶ自分の元へ寄る影。

どうにかしなきゃ、逃げなきゃ……と逃げの一手ばかりが頭を駆け巡る。

戦うなんて選択肢は欠片も無い。

そんな中、一つのスキルが思い出された。

それは移動速度を上げる支援系スキル……。


迷う暇は無い。

迫り来る一振りと同時にそのスキル名を叫ぶ。



「―――銀の車輪ラッド)ッ!!」


自分の周りにそよ風が吹いたかと思えば、突風によりボクの身体は宙へ打ち上げられる。


「うわぁああああああ!?」


もみくちゃになりながら空中で回転する中、自分は必死にバランスを取る。

水に浮かぶような不安定な感覚に翻弄されつつも、何とか浮かぶ自分は足元に広がる光景へ視線を向けて固唾を一つ。

張り付いた喉は喉を鳴らす事すらも困難にさせ、やっとの思いで息と一緒に唾を飲み込む。



「はぁ、はぁ……はぁ……」


そこにはボクの方を見上げ、獣のように叫び声を上げて体を揺らす4体の影が。


「ギシャァアアアアアッ!!」


「ガルァアア!!」



―――――怖い、怖い怖い怖い。


恐怖が自分の中でしつこく反響する。

自分を殺そうとしたアイツと被るからと言うのもあったけど、それとは別の物が顔を出している事に気付く。

目の前の影と生前、ボクをイジメていた連中の事がダブる。

執拗に集団で追い回すその姿、叫び声をいつまでもボクへ向けるその醜顔は思い出したくない物を掘り返してくる。


吐き気と共に込み上げた過去を前に自分の身は震え、気付けば歯がカタカタと鳴る。

入り混じる二つの恐怖は更に焦りを生む。

自分の中の焦燥は熱となって体中を巡り、胸を掻き鳴らしては冷静さをどんどん奪い去る。



「そうだ、召喚を……あの時みたいに強力なスキル! サ、冷酷なる戦乙女サンクリズル!」


冷静さを欠いたボクは迷わずその名を叫んだ。

自分の中にある思考は一つだけ。

―――アイツらをどうにかしなきゃ、

どうにかして、一昨日みたいに、どうにかして……。

倒さなきゃ。

確実に……

確実に、絶対に、目の前のヤツらを―――殺せるスキルを!




スキル名を叫ぶとオーロラが辺りを包み、白銀の鎧を纏い白翼を広げた美しい少女が目の前に姿を現わす。

彼女は剣色の髪を風に靡かせ、ゆっくり顔を上げる。

外見は10代半ば程で、小柄な彼女の右手には不釣り合いな2m近い長槍が鈍色を放つ。

凛とした顔立ちに青い瞳、名の通り冷酷を色として宿したような光を宿す。

彼女は瞳に酷薄を込め、おもむろに目を動かすと目下の光景を前に一笑してみせては槍を大きく振りかぶる。

その動きに合わせて彼女の長い銀髪は美しい曲線を描き、ボクは見惚れてしまい我を忘れる。



―――次の瞬間、真っ白な閃光が地面から立ち上ると後から空気を割く振動が押し寄せる。

爆風は砂を巻き上げ、波のようにボクの元まで押し寄せる。


しかしボクを守る形で目の前に立つ彼女によって風はこちらまで届く事は無かった。

そして爆発によって起きた白霧のような煙が晴れるとサンクリズルは首を傾ける。

地面があった場所をじぃっと見つめ、彼女はおもむろに自身の唇へ指を宛がう。


先程まで4体の影があった地面には一つの巨大クレーターが出来上がり、穴の内側は熱で溶けたガラスみたいにキラキラ輝く。

……文字通りチリ一つ残さず4つの影は消え失せ、彼女はその結果をつまらなさそうに目を細めると吐息を口にし、仕事を終えたと言った様子で髪をかき上げるとそのまま姿を消した。









「―――あれだな、お前は術に対して体力が低すぎるな」


突然の実技で短距離50m走でベストタイム10.8秒と言うボクのゆとった肉体レベルが露呈してしまった。

とは言っても隠すつもりも無かったし、平和な日本で育ってる以上そんなに体力がある方がおかしいんだ。などと脳内で言い訳を続けながらルシードさんの言葉を前に黙る。


「術の方は言う事が無い。正直、宮廷術師と肩を並べるレベルだ。

しかしだ、力を扱う為の諸々が欠けている。特に先程の召喚は試し打ちでこの威力となると……実戦で仲間が巻き添えになりかねん。あれは私の指示が無い限り使わないで欲しい」


「確かにこれは危ないですね。そうします……」




ボクはサンクリズルが開けた大穴へ視線を向けてそう答える。


目の前に広がる大穴からは未だに黒煙が立ち上る。

爆心地の淵は衝撃によってめくれ上がって、タケノコが生えてるみたいに周りを囲っている。

漫画とかでよくある、隕石が墜ちた後みたいな状態が目の前に広がっている。

そんな惨状を前にして、流石に彼の言葉に従わずなんて出来るハズもなく……。


会話の中で宮廷術師とかなんかカッコイイ単語が聞こえたけど、予想外の戦闘とかのせいで話の殆どが右から左に流れていた。


フヴェズルングの時は一切被害が無かったからからどこか楽観視していた。

そして今回はテンパっていたせいもあって考え無しにサンクリズルを使ってしまった。

それらがあいまって今回の状況となってしまった訳だけど……襲撃を受けた時にサンクリズルを使ってなくて良かったと惨状を前にボクは身震いをしてしまう。



そんな結論に至るとヴィグフィスさんを先頭に数人の兵士の姿がこちらへ向かってくるのが見える。



何事かと思えば召喚による爆発が駐屯地まで見えたらしく、また魔人による仕業だと勘違いして出動したとの事だった。

その後、レオナたちまで合流すると言った事態にまで発展し、大騒ぎとなった。


そしてボクは指示無しに召喚魔術サンクリズルを使うのはやめよう、と改めて心に誓った……。








「……して、奴らの状況は?」


陽が射し込む一室、白髪の初老は鷲のような眼光で部屋に入ってきた仮面の若者に視線を向ける。

左手には高級感漂う杖を握り締め、その佇まいはどこかの上級貴族の一人と伺える。

部屋の中には彼が様々な方法で手に入れたと思われる芸術品や美術品の数々が並ぶ。

それらは窓から差し込む光を受けて淡く光る。


「は。カレール山の駐屯地にて魔族5体による襲撃を受けますが、10分足らずで例の界客そとびとによる召喚が目標を全て撃破。その後、問題の界客そとびとはサテンフィン王国第一王女率いるガーディアンナイツに加入したとの報告です」


その部屋で若者は片膝を突く。

従者が王にこうべを垂れるそれと同じその光景。

絶対的な服従と敬意をもって彼は膝を折っていた。


「そうか。これで時詠ときよみの言う通り、これから先どうなるかわからんようになるな」


フォッフォと身体を大きく揺らして初老は満足そうに笑う。

年寄りが縁側で自分の庭を眺めながら笑うかのように。

しかし、その瞳の光は鈍く……冷たい。


「三ヶ国にすれば魔王討伐で姫君に亡き者にでもなってもらう方が穏便に事が運び、何もかもが丸く収まる。しかしそれではつまらぬからなぁ……お前もそう思うであろう? ナユキよ」


顎へ手をあてながら年寄りは一つ唸る。

今まで自分が張り巡らせた物事は結局は自分の掌の上で転がり、そして今と言う地位を築くに至っていた。

が、この年になっても常々思っていた。


つまらない、と。


昔は刃向う者が沢山いた。

その度に策を練り、自分の出来うる想定する全てで迎え撃った。

しかしある時期を境にそれは無くなった。


今回の件も自分が提示した通りに全てが進んでいた。

しかし彼はどこか何か、を期待していた。

何か引っ繰り返る事を。

だが取り巻く国々の重臣、王ですら機嫌を取るようにヌネスのやる事に何一つ反対せずヌネスが言う事全てに対し首を縦に振った。

気が付けば何もかもが思う通り、物事は全て自分の掌の上と言う退屈さ。


しかしそれを狂わせるてくれると思われる一つ、界客そとびとの少年と言うピースが現れた。


「ヌネス様が常々仰る『イレギュラーがあるからこそ面白い』

私は、出来うる事ならば予測不可能な問題はあまり起こしたくない性根にあります。

故に御期待に添える返答は難く……申し訳御座いません」


「生真面目過ぎるなお前は。少しは踊狂ようきょうのようなゆとりの一つでも持ったらどうだ?

まぁ良い、お前は引き続き三ヶ国へ呼鳥ゲート準備及びElfエルフの準備を急がせろ」


「はっ」


片膝を突き、こうべを垂らす彼はこの方はまた悪いクセをと言う言葉を飲み込む。

そして受けた言葉を拝命するとその場を後にする。


「……さて、どうなって行くか見物ではないか」


無音の部屋の中で椅子の軋む音が響く。

老人が身を預けたその椅子はキィ、キィ、っと同じ感覚でリズムを刻む。

そして彼はこれから始まる演劇を待つ観客の一人のように思いを馳せ、瞑目する。


まだかまだかと劇を静かに心待ちするように。


冷酷なる戦乙女サンクリズル


 北欧神話における複数の半神を指し、

 とても乱暴な、とても残酷な等の名をを冠するヴァルキュリアの一体。

 

 属性  :無

 タイプ :召喚型魔術

 詠唱時間:基本詠唱60秒 スキルLv1毎に詠唱時間12%カット 

      スキルLv5の場合無詠唱

  消費MP:450 スキルLv1毎に消費MP45増加 最大消費MP855

 効果範囲:指定セルを中心とした9*9セル範囲攻撃

 攻撃倍率:MAXレベル5 魔法攻撃力1800% スキルレベル1毎に+200%

 攻撃方法:無属性による2連続魔法攻撃 スキルレベル毎に1追加 

      最大7回攻撃

 効果時間:持続時間5秒 

 攻撃対象:モンスター、ギルドメンバー、パーティーメンバー 

      クールタイム60秒

      習得可能職業・トリックスター 





銀の車輪ラッド)


 ルーン文字における移動や車輪などを意味する。

 

 属性  :風

 タイプ :支援系魔法

 詠唱時間:基本詠唱10秒 スキルLv1毎に効果時間10秒増加 

      スキルLv5の場合、合計60秒増加

  消費MP:200 レベル1毎に消費MP20増加 最大消費MP280

 効果範囲:画面内指定キャラ(最大20人)

 魔法効果:キャラクターの移動速度+50%、回復速度+20%、

      詠唱時間-10%(クールタイム除く)

      浮遊効果あり(地面設置系スキル一部無効化)

      重ねがけ可能(最大10回)

 効果時間:基本効果時間300秒 最大360秒 

 効果対象:自キャラクターを含むプレイヤーキャラクター全て 

      クールタイムなし

      習得可能職業・トリックスター 

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