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別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話  作者: くうや
第六章 男の娘メイド・竜戦編
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第九十八話 「ぷっぷくぷー!」


『魔術部隊、忘却の白塵マヴェアスを今一度張れ!』


『そ、それが先程より詠唱しているのですが術が一切発動しません……』


『何!?』


忘却の白塵マヴェアスを強制解除され、体勢を立て直すべく指示を下すとその様な返答が彼に届く。他の部隊長や騎士団長たちはリスリムの指示を待ち、部下へは臨戦態勢のまま待機を命じる。


「おおっと仲良く楽しく内緒話で? 

良いですよ構いませんよ。しかし忘却の白塵マヴェアスはお使いになれませんので、お気を付け下さいご了承下さい?」


空に浮かぶ長身の彼は警告を述べながら指を動かすとギザギザの歯を剥き出しにしながらニタリ、と笑う。

リスリムは少女と同じ白ローブと言う点でこの一件が何者かの企てであると推測し、姿を隠すと言う事は知れると不味い立場の人間であろうと推測する。

そして、突然現れ一瞬にして100人がかりの魔法を打ち消した事と、未だに妨害を行っている点を考え……相当な手練れだと判断した。


「―――宮廷魔術師でもそこまでの手練れは3人程しか知らないな」


彼は苦笑しながらそう呟くと魔導会話で戦線を下げるように指示を出す。

空を見上げれば先程まで混乱していた竜たちは落ち着きを取り戻し、こちらをいつ攻撃すべきかと言った様子で頭上を飛んでいる。

時折、竜が上げる呻き声には熱がこもっている事が伺え……

そこに怒りがあるのをリスリムを始め、皆言わずとも察した。



「にしては閼伽アカの方、折角の原竜リントブルムをこんなにダメにして?」


「だぁーってぇ……クーちゃん来ないんだもん」


休日にリビングでだらしなく寝そべるように彼女は大竜の上でゴロンと転がったままで喋る。

そして拗ねた素振りを見せると頬を膨らませては不機嫌を露わにする。

そんな彼女の姿を前に長身の影はハァ、と深い溜息を吐いては首を振るとこめかみに手を宛てる。


「貴女ですね、そんな事を仰るから『アカちゃん』などとあだ名がですね?」


「しーってるよー! ぷっぷくぷー!」


「……拗ねるのは良いですが、今の状況を少しは―――」


突如、ドォン! と

二人の会話を遮る爆発音。

それは5m近くを包む火炎を見せ、周囲を赤く染める。

しかし魔法魔術無効化と火耐性を併せ持つ大竜はそんな一撃にも顔一つ変えず、目の前の光景に欠伸を一つ噛んで見せた。

そして爆炎が晴れると煤一つ付けていない白ローブの長身が現れる。


「……やはりお前も効かないか。リントリムアの木より作ったローブか、灰を浴びているな」


「ほう? ご明察、と行きたいですがハズレですかね?」


予想通りかと苦笑するリスリムは魔法を放った腕を下ろし、

その光景を目の前にして強敵だと認識した騎士たちは固唾を飲む。

日が傾きだし、黄金色が混じる日差しを背に竜たちは大きく翼を動かし、威嚇して見せる。



そんな中、白の長身は首を傾げ、嗤うと大きく手を上げた。

竜たちはその動きに待ちに待ったと言わんばかりに大きく吼え、声は大気を揺らす。


「さぁ此処は戦場。語り合うならば力で、剣で、命にて。

流れる血は川となり、重なる骸は山となり、響く叫喚は戯曲となり!!」


嬉しそうにそう叫び、ローブをはためかせて笑う影は舞う。

そしてその言葉と同時に竜は猛り、激情を乗せた咢を大きく開いて群れる騎士たちへ襲いかかった。















「ク……ッソ! なんっだよこのAlp量は……!!」


容体が悪化する悠の周りをどす黒い渦が入り乱れる。

その中で逆風に踏み止まるようにしながら妖精姿のキサラギは必死に手を伸ばす。

悠の魂と精神をレインボージェムの中へ引き込もうとした際、強い拒絶が起こり彼の中のAlpが外へ噴き出した。

ルシードは無い力を振り絞り、Alpが暴走する悠の身体を覆い被さる形で必死に押さえ付ける。


ウメコとゴロウはAlpの抑制を、トシキは器へ悠の魂と精神を定着を任された。

そしてキサラギは悠の肉体……DNAよりケディフェリスに冒される前の身体を作り出そうとしていたが、何度も失敗をしていた。

と言うのもAlpの暴走も原因であったが、もう一つ―――


「既に身体全部、ケディを許容した形で……記憶してやがるとか……ッ! ッッけんなァアア!!」


彼女は奔流に抗いながらそう叫ぶ。

悠の肉体より器を作り、それへ彼の魂と精神とAlpを移して正常な状態へ戻そうと言う考えであった。

しかし既に彼の身体……髪から爪先まで全てがケディフェリスを受け入れた形で定着をしており、

今の悠のDNAをいくら使って再生しても意味が無い状況となっていた。


だが彼女が狼狽えたのはその様に僅かな可能性すらも潰え、成す術を失ってしまっただけではなく……

目の前で横たわる悠の表情が恍惚へ蕩けた物へと変わっていたからだった。

二度と見たくなかったそれを前にキサラギは唇を噛み締める。


―――まだだ! まだだまだだ、まだだ!

なんか手があンだろ! 諦めンなクソが!

肉体はここにあんだ、正常な肉体に戻れる切っ掛けさえあれば……!


自分の知り得る知識、経験、記憶を一気に遡る。

彼女はもっと早く悠へ警告を促していれば、朝に自分が一緒に居たらと次から次へ沸き起こる後悔を振り払いながら手段を探す。

砂粒程だろうと可能性があるならば、ゼロではないと言い聞かせ―――


『どう……すんだよキサラギさん。こっちにもユウの感覚がチョイチョイ来てて、早くしねぇと……』


「わーってるよ! クソ……なにか、なにか……!」


ウメコたちに混じって制御を手伝うトシキが零す声に彼女は乱暴に返答する。

急がなければ、早くどうにかしなければケディフェリスの影響をこっちも受けてしまう。

精神体のトシキたちは感覚を共有している為、容易に伝播する。

それは内に秘めている界客そとびとを内包したAlpにまで影響が及び……封印されている魔王体まで強く影響する。

そうなってしまえばフラッシュバックした過去と共に魔王体のAlpも暴走し、200年前と同じかそれ以上の悲劇が起きる。

それだけは避けるべきだ、どうにかしなければと焦りは警鐘を無駄に叩く。

そして、


『ああ、そう……だよ。ハチミツ……みたいな色してるくせに……比にならねぇ程、甘ぇんだ……っけ』


「ッ!? おいトシ坊!!」


虚ろな笑い声を含んだトシキの声を前にキサラギは叫ぶ。

……ダメだ、こんだけのAlpを抑制しながらなんて土台無理な話だったんだ。

彼女はそう諦めを覚え、同時に後悔を含んだ過去が溢れ返る。

それは元の世界で死に、この世界へ転移してすぐに貴族に捕まり…………狂い水漬けにされた日々を。

正気を失い、ただただ黄金色のそれ欲しさに貴族の言いなりになった過去。

愚かしく、無様だと今では吐き捨てる過去の行いを思い出し、


「こが……ね? 黄金色? きん……いろ」


唾棄する過去の中で見たケディフェリスの色を前に、彼女は別の物を思い出す。

それは最近見た物だが、自分の視界から見た物では無い。

そしてそれは―――もしかしたらとキサラギの目に光が戻る。



「ルシード! 動けるか!? ユウの胸、胸ポケットに小袋が入って無ェか!!」


ルシードは彼女の言葉に無言で彼のドレスのポケットへ手を伸ばし、震える手で中を探る。



「ある……な。中にはボタンらしき物と、転移宝石が入っていたが……」


彼は小袋より出てきた二つのそれを手の上に乗せて見せる。

そこには藍色の石と―――黄金に鈍色を見せる学ランのボタン。

それは第五の地で悠がお守りとして常に身に付けていた二つで、今回の作戦でもお守りとして持っているのではと睨み、その予想通りに彼は身に付けていたのだ。



「上ッッッ等ォ!!」


目の前で薄く光るボタンを前にキサラギは大声でそう答える。


「おいオメーら全員一旦ユー坊とのリンクを切れ! そンでゴロウとトシキは器への定着! ウメコはAlpの抑制に集中しろ!」


『了解なんよ!』


『しょ、承知したでござる!!』



彼女の指示に従い、悠との繋がりを切る一同。

そして悠の影響を強く受けていたトシキは糸が切れた人形のように突然横倒しになる。

それに対し、今まで静観をしていた夜花ヤファが無言で身を寄せて彼を起こす。


『わ、悪ぃ。ちょっくらキたわ……』


『だいじょーぶ? あの呼吸法したら少し落ち着くと思うから、吸ってー……ゆっくり吐いてー』


彼女に言われるまま呼吸を行い、いくらか落ち着いたトシキが向ける視界の先には学ランボタンから悠の情報を抜きとるキサラギの姿。

いや、厳密に言うと学ランに付着している悠の血液を集めている。


『ああそっか……。ユウの奴はこっち来た時に怪我してたんだっけか。それでボタンに付いてる血を使って―――』


悠はこの世界に来た時、自殺した直後の状態で転移した。

服は血塗れであちこちに疵を作り……そしてその後、悠は学ランボタンをお守りとして身に付けていた。

ボタンを念入りに洗浄でもしていたなら話は別だが、そんな事をしてるハズも無い為、微量であったが裏面に血糊が残っていた。

キサラギは血糊よりDNAを引き抜いて肉体再生に回すが……時間が経過していたせいもあってか引き抜いたDNAでは欠損が見られ、キサラギは歯軋りをする。

そしてそんな彼女を見ていたルシードは腰に帯びたナイフを引き抜くと、自分の腕へ薄く線を引く。



「肉体の情報が足りんのだろう? 私の血を、使え」


彼はそう口にすると、赤い滴が伝う左腕をキサラギへ向けた。


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