優しさが欠如した世界
零火と友達になれた僕らは仲間として一緒に活動することになった。
新しい依頼を求めて、病院へと向かった。
争いが絶えない異世界では溢れるほどの患者がいる。
僕の仕事は傷ついた人の治癒のみ。
本当は異世界も争いのない世界に変えれたらいいなと思っている。
でも、僕の能力じゃ武力で支配者を決めるこの世界で勝ち上がることはできない。
ひたすら救うことしか術はない。
「爺さん、依頼達成したよ。」
膨大な依頼を一人で整理している優秀な爺さんらしい。
恐らく、爺さんも能力者なのだろう。
ちなみに人間ではない。
「おお、やりおったか。お主達の活躍はこの病院でも有名になってきておるぞ。」
有名になる為に頑張っているつもりじゃないけど素直に嬉しい。
結愛も喜んでいるみたい。
「おや?新しいお仲間かな?」
「はじめまして・・・零火です。」
零火は頬を赤らめながら恥ずかしそうに挨拶をしている。
僕達が最初に零火と出会った時とは別人みたいだ。
本当の彼女に戻れて本当に良かった。
「優矢君と結愛ちゃんはとても優しい人じゃよ。安心していいぞ。」
爺さんとの付き合いはもう1年ぐらいになる。
医者の活動を始めてから毎日お世話になっている。
この世界で信頼できる一人だ。
「爺さん、新しい依頼はないですか?」
手を耳に添える爺さん。
結愛と同じ検索の能力種なのだろう。
「見つけたぞ。お前さんが好きそうなのがあるぞ。」
爺さんは僕らに依頼内容を提示してくれた。
それは戦争の激戦区への救援。
医療部隊が壊滅状態にあるらしい。
かなり危険である上に、報酬もあまり良くない。
「その戦争には女性や小さな子供も無理やり参加させられているのじゃ。助けてあげてくれんかの?」
誰かが助けなければ死んでしまう。
もし危険な状況になれば、僕が盾になることもできる。
助けてあげたい。
「わかりました。引き受けます。結愛と零火は大丈夫?」
「助けに行きたいわ。」
「あたしも行きたい。」
結愛と零火は頷いてくれた。
「お主らは本当に心の優しい人じゃのう。」
僕らは戦争の医療班として救援する依頼を引き受けた。
危険な依頼だ。
結愛と零火は絶対に護りたい。
僕達は激戦区へと向かった。
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「爺さん。本当にいいのか?あの戦争には強い能力者がいるみたいだぜ。」
白いフードを被った青年が爺さんに語りかけている。
「彼らなら大丈夫じゃよ。それどころかこの世界変えてくれるかもしれないぞ。優しさが大きく欠如したこの世をな。」
爺さんは陽気な口調で青年に返事をした。
「心配じゃったら追いかけたらどうじゃ?好きなんじゃろ。彼らのことが。」
「少し気になってるだけだよ。」
青年は白いフードを深く被り、静かに病院を去った。