初めて結愛と出会った記憶
僕らは部屋を飛び出した零火を追っている。
また人を傷つけてないか心配だ。
彼女を助けてあげたい。
街は雨に包まれている。
僕の体を冷たくしていく。
人込みが多いこの街で傘をさしたままじゃ走りにくかった。
結愛は見失わずについて来てくれている。
そういえば、結愛と初めて出会った時もこんな感じだったな。
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1年前。
僕と結愛は出会った。
その日も軽い雨が降っていた。
傘を持ってなかった僕は1人、病院で雨宿りしていた。
「あの、一緒に帰ります?私の傘で。」
見たことない人だな。
・・・誰だろう?
「あーやっぱり覚えてないよね。」
「ん?」
「うんうん。気にしないで、何でもないわ。」
僕と君はどこかで知り合いだったのかな?
この異世界に来てから初めて人間に会ったけど全く見覚えない。
「一人で帰ります。お構いなく。」
僕はずっと一人で生きてきた。
これからだって一人だけで元の世界に帰ってみせる。
僕は雨の中歩きだした。
「待って。家まで送らせて。風邪を引いちゃうから。」
彼女は僕の隣で傘をさしてくれた。
甘い香りが漂ってくる。
懐かしい香りだな・・・。
この香りを嗅ぐと、どこか切ない気分になる。
大切なものを失ってしまった時の切なさ。
「僕は1人で生きたいんだ。」
彼女を置いて家まで走り続けた。
安い家賃のボロボロで小さい小屋が僕の家だ。
仕事もまともにできず、賃金は物凄く安かった。
「くしゅん。」
不意にくしゃみが出てしまった。
背後から足音が聞こえてくる。
「やっぱり風邪引いちゃったのね。私、医者だから看病してあげるね。」
僕は彼女の親切も無視して無言で小屋のドアを閉めた。
彼女は何度もドアをノックしてくる。
・・・どうしてそんなに必死なんだろう。
「お願い。ドアを開けて。」
あまりにも必死だから仕方なくドアを開いた。
「外は雨で寒いから、部屋に入っていいよ。」
「ありがとう。」
雨で濡れてしまった体を彼女は優しく拭いてくれた。
「これぐらい自分で拭けるよ。」
「ごめんなさい。」
別に・・・謝らなくてもいいのに。
「それで、どうしてあんなに必死だったの?」
彼女は安心したように微笑んでいる。
「私、あなたの友達だったの。優矢は覚えてないみたいだけどね。元の世界では大切な友達としていつも慕ってくれたわ。もう一度、優矢の友達になりたいの。ずっと傍にいたい。」
僕に・・・友達が?
彼女が傍にいるだけでどこか幸せを感じる。
「それと私が医療方法を教えるから一緒に医者になってほしいの。この異世界でも一緒に困っている人を助けたい。」
彼女の言葉は何故かすべて信じられる。
僕もずっと望んでいたのかもしれない。
正直、元の世界のことはあまり覚えていない。
記憶があやふやでいる。
本当は孤独がずっと苦しくて寂しかった。
誰かと一緒に居たい。
お互いのことを信じあって安心したい。
「わかった。どうしてか君と一緒に居たい感情が溢れてくる。君の名前は?」
「ありがとう!!私は結愛。これからもずっと一緒に居ようね。」
結愛は笑顔で僕の両手を握った。
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思えば、不思議な出会いだったな。
まるで運命が決まっていたような出会い。
結愛と一緒に居ることで生き甲斐も生きる幸せも生まれた。
結愛には、すごく感謝している。
「ぎゃー!!?」
唐突に悲鳴が聞こえてきた。
「優矢!遠くを見て!!家が燃えているわ。」
結愛が指をさした先、真っ赤な炎に包まれていた。
心配していた惨事が起きてしまった。
・・・このままじゃ零火はクロイドになってしまう。