僕はゴブリンじゃない。
ある日町で道を歩いていると、見知らぬ皮鎧を着た女性に声をかけられた。
どこからどうみても冒険者だった。
「嘘でしょ! もしかしてあなたゴブリンなの? なんでこんな所に魔物が⁉︎ 」
剣に手をかけるその女性。
「僕はゴブリンじゃない」
こんなやりとりはいつものことだった。
「あら、ごめんなさい。でもそんな短い足だったら間違われるのも無理ないわ。ええ、本当にごめんなさいね。あ、待ち合わせの冒険者が来たみたい。それじゃあね」
女性はそうだけ言うと男性の冒険者と楽しそうに去っていった。
こういうやりとりを何度か経て、僕はゴブリンの醜さを知った。
僕は足がゴブリン並みに短い。
顔もイマイチだ。
でも人間なんだ。
だけど皆は僕のことをゴブリンだと嗤うんだ。
自分でも確かにゴブリンに似てると思う。
ゴブリンの村へ行って確かめに行ったぐらいだ。
その時ゴブリンは僕を人間だとは思わず襲いもしなかった。
それは、見た目は、変えられない。
だから僕はゴブリンを美しい存在にしようと思った。
ゴブリンに汚いイメージがなければ僕も嗤われずにすむんだと思ったからだ。
僕はゴブリンの教育を始めた。
始めは言葉も通じず苦労した。
でも、見た目がゴブリンにそっくりだったからなのかゴブリン達に襲われる事もなく集落に溶け込む事ができら僕は根気よく教育を続けた。
気がつくとすっかりゴブリンからは賢者として崇められていた。
生活水準を上げ、人間との争いも無くしたからだ。
どこかの物語のように女性を襲ってゴブリンは繁殖するわけでもない、誤解から生じた争いをなくすのは僕からしたら簡単だった。
これでゴブリンにもっと教えを授ける事ができる。
ここでは人間の街にいる時と違って、笑われる事はない。
「でも当然だよね。ゴブリンからしたら僕は人間並みに頭がいいゴブリンなんだから」
「ゲンジャサマ! ドウカナサレマジタカ?」
僕のことをゴブリンの賢者だと思っているゴブリンがいる。
彼は僕の考えた計算問題を必死に解いていた。
健気で可愛い生徒だった。
「僕はゴブリンじゃない」
「エェ、ナニガイワレマジタカ?」
「…そこ、間違っているよ。答えは92だ。」
「ア、サスガゲンジャサマデス! ガンバリマス!」
なんだか慕ってくれているゴブリン達を見るとゴブリンでいる自分の方が人間でいる時よりも誇らしく思えてくる。でも…………僕はゴブリンじゃない。
それからしばらく経ってゴブリンはエルフやドワーフといった種族と同じように人類の一員になった。
僕は満足した。
これでやっとゴブリンのふりをやめる事ができる。
嗤われずに人間として人生を生きていけるんだ!
ある日僕は、町で歩いていると見知らぬ色気たっぷりなお姉さんに声をかけられた。
「ちょっと、そこのあなた! あなたゴブリンなの⁉︎」
「僕はゴブリンじゃない」
「なぁんだ〜、ゴブリンだと思って損した。ゴブリンだったらすこしかっこいいし、お姉さん付き合っても良かったのになぁ……あははー、それじゃあね〜。」
僕は足がゴブリン並みに短い。
でも人間なんだ。
なのに皆は僕のことを嗤うんだ。
自分でもゴブリンに似てると思う。
それは変えられない。
だけど、どうしてだろう。
僕は嗤われるのに
ゴブリンは嗤われずにいる。
こうして僕は別の意味で嗤われるようになった。
僕はゴブリンじゃない。
ー完ー