待ち合わせ。
あれから数日、これから我が編集さんである栞さんとロケハンという体のデートに駆り出されるらしい。
どこに行くかも聞かされてないし、なにより栞さんは結構楽しみにしているみたいだ。
前日の夜には
「ちゃんと仕事してる? 明日はロケハンなんだからちゃんと早めに寝て備えとくのよ?」
「大丈夫、仕事は自分なりに頑張っているつもり。ロケハンって言っても実際にはどこに行くの?」
「ん? あ~いやそれは明日の楽しみってことで、ふふっ」
遠足前に忘れ物が無いかを確認する母親の如くいきなり電話をかけてくる栞さん。
どんだけ明日のロケハンが楽しみなんだよ、っていうか明日どこに連れていかれるんですか僕は!?
「まーまーまー、そんなに心配しなくてもいいから」
当の本人からその言葉を聞くと余計に心配になってくるんですが栞さん。
「ん~、わかったよ。じゃあとりあえず今日は早めにプロット書くの終わらせて寝る事にするよ」
「はいはーい、それじゃあ明日は近所の駅前に8時集合ね」
それだけ言ってすぐに通話が切れた。
とても簡素な連絡でしかも追加の通話料金が発生する直前で切るとか、僕の携帯の契約内容まで把握してるんですかね栞さん……。
なんかすべて把握されてるような気がしてきた、怖い、寝よう。
明日は久しぶりに達也と出かける。
付き合ってた時もまともに二人で出かけた事なかったし、久しぶりというより初めてかもしれない。
「あー、なんか変に考えすぎて緊張してきた。そう! 別に今更緊張する事でもないしいつも通りにしてれば問題ない。……よね」
鏡に向かって小一時間、もう一人の自分と会話しているかのように自問自答を繰り返している。
「あ、明日着ていく服ってなんかあったかな。これは……なんか露骨よね。これなら……んーでもなぁ。それならこっちなんかどうかな? でも、こっちのほうがいいかもしれない。あぁーどっちの方がいいのかな」
すでに悩み始めて1時間といったところ。
やっぱり自分では判断しきれない、そうだGoogle先生に聞いてみよう。
先生ならいくつかのパターンで助言をしてくれるかもしれない。
――デート 服装 シンプル
素早く検索ワードに慣れた手つきで単語を羅列していく。
先生によって提示されたいくつかのパターン、自分が持っている服に照らし合わせて長く、とても長く吟味した。
「自分でもわからないけど、なんでこんなに私は浮かれてるんだろう。達也と付き合ってたときもそりゃ楽しかった、でも今の私は当時よりも浮かれている気がする」
達也と喧嘩別れしてからというもの、ただ自分は仕事のみを生きがいにしてきた。
自分自身でも悟っていた、たぶんこれから先もずっとこんな排他的で消費的な日常を送っていくのだろうと。
そんな時に達也と再会して、一緒に仕事をするようになってからというもの、以前よりもなぜかとても自然体で達也と接することが出来ている気がする。
仕事以外にも気になることが初めてできた。
多分それは達也の事なんだろうけど、今ここでそれを認めてしまったら今後の仕事に支障が出るかもしれない。
そんなことはわかっているつもりだった。
でも、やっぱり自分には嘘をつきたくない。
そんな思いが最近の自分の中で葛藤していた。
「デート……か……ふふっ」
明日の勝負服である白い無地のワンピースを優しく抱きかかえながら、そっと瞼を閉じた。ただ一人の事を想いながら。
「あぁー、眠い」
時刻は午前7時55分、待ち合わせの駅、我ながら良くこの時間に起きられたと褒めたい。
それにしても今日はやけに眠い。
あれから早めにプロットを切り上げる予定だったけど、結局なんだかんだで夜中まで作業してしまった。
「なんで夢に栞が出てきたんだ……」
「え? 今なんか言った?」
「うおぁ! いきなり僕の視界にフェードインしてくるなよびっくりするじゃんか!」
栞がいきなり声をかけてくるもんだからびっくりしちゃったよ。
朝から心臓に悪い……。
ただでさえ僕は低血圧なのに。
「改めておはよう達也、昨日はよく眠れた?」
「おはよう栞、んーまぁまぁ眠れたかな。今結構眠いけど」
あくびをしながら僕が答えると、栞はそこらか黙って突然喋らなくなった。
あっれ、なんだこの微妙な間は。
「達也」
「はい」
「まず私にいう事があるんじゃないの? ほれほれー」
あれ、何か栞にいう事とかあったかな。
特に思い浮かばないなー。
よし、ここは当たり障りのない天気の話題を提供することにしよう。
「き、今日はいい天気だね。ほら、雲一つ無い天気だよ?」
なぜだ? なぜ栞さんはヒマワリの種を口に含んだような顔になってるんだ?
プッくりと膨れた栞の頬はリスみたいに愛らしい物があった。
「達也、今日はデートなんだよ? まずは私の服装を褒めるところから始めないと」
言われてみればいつものスーツ姿じゃない、今日は白のワンピースだ。
太陽光に乱反射して白いワンピースの色彩はより協調され、バランスの取れた栞のシルエットが浮き出ていた。
こうしてみれば栞って出るところは出てて引っ込むところは引っ込んでて、結構スタイルいいよなぁ。
顔に関しても整ってて目鼻立ちもくっきりしている。
「おーいってばー」
うん、やっぱり栞はスタイルがいいな。
特にすらっと伸びた健康的な色の脚なんて最高なんじゃないか!?
「おい……」
「はい?」
「いきなり黙り込んだと思ったらなにジロジロ見てんのよ!!」
「ぐふぅあッ」
こうして僕は今日という1日の始まりにとてもスナップの効いた裏拳を食らった。
栞さんは一体どこで格闘技覚えてきたんですか……。
こんにちは、冬乃之です。
最近は雨が多くなり梅雨をひしひしと感じております。
さて今回も短いですが投稿させていただきました。
次回から編集さんと物書き君のデート回になります。
さて、元恋人とのデートに彼らはどんな事を想い、どんな行動をするのでしょうか。
それは次回にて。
今回の話も勢いが8割ほどでの執筆でしたが、よろしければ最後までご覧ください。
改善点などありましたら遠慮なくコメントしていただければと思います。
Twitterの方はだいたいリアルタイムで見ているので何かありましたらご連絡くださいませ( ´∀`)