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王子を不幸にしかしない婚約破棄

王子が不幸になる婚約破棄~憧れの人の正体 編~

『王子が不幸になる婚約破棄~ ○×編~』と似たようなタイトルがありますが、それぞれが別の話になっています。


続きはありません。

俺は、カイ・ ディノス。

この国の第四王子フィクショナル・ビッグライアード様の護衛だ。

頭の痛いことに、フィクショナル様は我が最凶の幼馴染ことシナモン・クリームチーズ公爵令嬢が自分の婚約者だと思い込んでおられる。

シナモン嬢が、自分の家の権力を使い他家を押しのけて無理やり自分の婚約者の位置に付いたと。

はっきり言って、あの女に限ってそれはないと断言できる。

それについては、この国独特の『王位継承権』の資格を持つ方法から話そう。

ごくごく簡単で単純に、功績を立てること。

つまり、『ドラゴンを一人で倒すこと』だ。

この世界では、ドラゴンは人を食らう『悪者』。

国民が税を納めるのが義務ならば、王族や騎士の義務は国民を守るためにドラゴンを倒すこと。

だが、フィクショナル様は王族として生まれたのにもかかわらず、ドラゴンが一人で倒せない。

初めてフィクショナル様がドラゴンと対峙した時、フィクショナル様はその場で失禁して気絶された。

その場を偶然通りがかったシナモン嬢が、秒殺でドラゴンを倒した。

俺が、彼女に逆らわないことを心に刻んだ瞬間だ。

まあ、その後いろいろあり、フィクショナル様の王位継承権放棄を条件に、シナモン嬢の功績は表向き国民たちにフィクショナル様の功績として伝えられるようになった。

俺がどうこう言える立場ではないが、国民の前で王族として見栄を張りたいフィクショナル様だからこそ選んだ選択だろう。


クリームチーズ家。

王家に次ぐ戦闘力を持つ一族。

現在の目標は、めんどくさい爵位を捨てて強敵に会いに行き泣かすことらしい。

あの一族の総意は、一般人には理解しがたい。

国王様は、爵位を捨てたいクリームチーズ家現当主に泣いて縋ってあの手この手で引き留めているようだ。

ちなみに、シナモン嬢はフィクショナル様のことは全く眼中にない。

自分よりも、弱すぎるからだ。

シナモン嬢は、五歳の時にはすでにドラゴンを一人で倒すことができた。

祖父によると、あの一族は五歳になったら親に連れられて山に行き、ドラゴンの目の前で問答無用に放置されるらしい。

そして、目の前のドラゴンを一人で倒して家に帰って来いと。

それが当たり前なんて、なんかおかしいだろう、あの一族。


騎士の訓練を終えて寄宿舎に戻る途中、フィクショナル様とシナモン嬢が見えた。

無視して通ろうとしたのだが、先輩たちがシナモン嬢を恐れていて、それでも気になるから俺に様子を見に行ってこいと命令してきた。

なんで、俺が...

すると、聞こえてくるフィクショナル様の声。

「シナモン・クリームチーズ公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!」

えぇぇっ―――――!?

まだ、フィクショナル様はシナモン嬢と婚約していると誤解されていたのか!?

気になってついてきた先輩は俺を盾にして、口を顎が外れそうなほど大きく開いて驚いた顔をしている。

「俺は、貴様がミシェルに嫌がらせしているのを知っている!ここ一年のことだ。俺の目は誤魔化せないぞ!」

ミシェル嬢は、ものすごく辺境にある田舎娘。

ものすごく魔力があるということで、学園に強制入学させられた田舎娘。

ミシェル嬢に纏わりついている男どもがいるが、彼女はそれを心底蔑んだ目で見ている。フィクショナル様以外だが。

それにしても、フィクショナル様が王位継承権を放棄していて正解だなと不敬にも思ってしまった。

何を誤魔化せないか知らないが、ここ一年、不穏な空気で国に攻め込もうとするドラゴンをシナモン嬢を始めとしたクリームチーズ一族が、前線に出てドラゴンを倒してアドレナリン出しまくりでハッスルしていたからだ。

さらに言うと、シナモン嬢がドラゴンを倒す時、フィクショナル様を思い浮かべると軽く瞬殺できると嗤って言っていた。

自称・沸点が低い、他称・怒ってるとこを見なことのないシナモン嬢をキレさせるフィクショナル様はある意味すごいのだろう。

もちろん、俺には真似できない行為だ。

フィクショナル様がシナモン嬢を罵倒し続けるごとに、見物人が多くなってくる。

そして、その見物人たちと俺と先輩はこの場の気温が下がるのを肌で感じ取り、顔色が悪くなってくる。

不敬罪にならないなら、今すぐフィクショナル様をボコリたい!!!

俺やこの場にいる人たちは、今現在は自分の身が一番かわいいのだ!

だって、目の前で冷気を発しているシナモン嬢がいるのだから。

いつも以上に素敵な笑顔から、彼女がブチキレているのがよく分かる。

俺を盾にしている先輩は、腰を抜かしているぞ。

もう、やめて!フィクショナル様。

お願いだから、今すぐにシナモン嬢に土下座して謝ってこの場から俺たちを解放して!

俺たちの願いもむなしく、フィクショナル様はシナモン嬢に罵倒し続ける。

ほんのちょっと思ったことなんだが、フィクショナル様の愛しのミシェル嬢は今のフィクショナル様の行為に引いてないか?

気になって、ミシェル嬢の方を見ると俺たちと同じように顔色を悪くしている。

ものすごくものすごくものすごくものすごくものすごく(、以下略)遅くやって来る王様。

もう俺は、俺たちは我慢できなかった。

遅れてきた王様と俺たちは、全力でシナモン嬢に謝り倒した。

その中に、ミシェル嬢も交じっていたのは当然のことだろう。

フィクショナル様が気付かれないようなので、俺はミシェル嬢に声をかけた。

「ミシェル嬢も、シナモン嬢に謝っているのか」

「カイ様。シナモン様を見ていると、なぜか全力で謝らないといけない気がして」

「やっぱりな」

「でもでも、フィクショナル様はすごい方なんですよ。私が五歳の時に、ディルモニア村に来て、ドラゴンを叩きのめしたんですよ!それ以来、私、フィクショナル様をお慕いして...」

あっ、先輩は腰を抜かしながら意識をどこか遠くに飛ばした。

器用なことするな。さすがは、先輩。

そこに何の前触れもなく突然、現れるドラゴンたち。

殺気を辺り構わず溢れさせるシナモン嬢。

失禁して、気絶するフィクショナル様。

フィクショナル様が、腰を抜かして尻もちする姿に驚きを露わにするミシェル嬢。

シナモン嬢の邪魔にならないように移動するその他(もちろん、俺を含む)

シナモン嬢は、周りを気にせずドラゴンたちを滅殺していった。

そんな中、ミシェル嬢は

「もしかして、あの時村を救ったのはシナモン様だったの!?あのお姿、戦いぶり。間違いないわ。あの時いたのは、シナモン様だったのね!」

今でも語り伝えられる伝説『ディルモニア惨殺事件』。

辺境すぎるところにあるディルモニア村。

そこでは、公式任務、クリームチーズ一族としてドラゴン退治のデビュー戦としてディルモニア村にシナモン嬢が行った。(他の親族は、より厳しい戦場に行っていた)

そして、シナモン嬢は予定通りに一人で過剰戦力。

その場にいた者たちによると、「ドラゴンに同情心が湧くのは初めてのことだった。やはり、クリームチーズ一族と敵対しないようにしよう」と決意を新たにした瞬間だったそうだ。

シナモン嬢が、ドラゴン退治したその後はまさに『惨殺事件現場』のような有様。

さらに不気味なことに、シナモン嬢は返り血一滴も浴びなかったそうだ。


シナモン嬢が、ドラゴンたちを倒し終わった頃にミシェル嬢がフィクショナル様の失禁している状態に驚いた。

「フィクショナル様のお尻の辺りが、濡れているわっ!どうしてっ!?」

あの時から今でも変わらぬフィクショナル様に対して、ある意味涙が出る。

気が付いたフィクショナル様は落ち着いたようにして言った。

その状態でカッコつけても、間抜けなだけですよ!

「父上、俺はシナモン・クリームチーズ公爵令嬢と婚約破棄したい。許可を頂けますか?」

「息子よ、婚約破棄も何もないだろう。お前とシナモン嬢は、婚約していないぞ」

「ウソだ!!! なら、なぜ俺に文句を言ってくる。それに、カイルは俺の護衛のくせに態度が悪い」

「それは、学園内ではお前が問題を起こす対策として、シナモン嬢とカイルに監視役を頼んだからだ。シナモン嬢はドラゴンを〆る、カイルは近衛騎士見習いが本来の役目だが、王族としての自覚が全くないお前が心配でな」

フィクショナル様を貶しながら、心配する王様。

この王様も中々に、器用なことをされる。

俺も見習いたいものだ。

そして、恐る恐るミシェル嬢は王様に発言の許可を求めた。

「王様。発言の許可を頂けますか?」

「うむ。構わん」

「ディルモニア村を救ったのは、フィクショナル様ではなくシナモン様なのですか?」

「騙すようなことをしてすまない。そうだ」

王様は申し訳なさそうに、それでもしっかりと事実を答えられた。

「そうなのですか...」

その答えに、ミシェル嬢は肩を落とした。どこか哀愁が漂っている。

そして、ここで割って入るのが空気を読めないと定評のあるフィクショナル様なのである。

「ミシェル、俺はお前を愛している。この愛を貫こう!」

「......」

フィクショナル様の呼びかけに無言になる、ミシェル嬢。

当り前だ。

自分の住む村を救ってくれたとして、尊敬し慕った人が実は本当の恩人ではなく偽りに彩られた人と知った。

これでは、呼びかけにすぐに返答することは無理だろう。

「......、なら、女の子でいる意味はありませんね」

はっ?

女の子でいる意味?

どういうことだ?

確かに、ミシェル嬢はそこらの貴族女子よりも女の子らしい。

男が理想とする、まさに『女の子』そのものなのだ。

まさか、そんなはずはないよな。

ミシェル嬢の数々の行動や態度を思い出し、背中から冷や汗が大量に流れてきたように感じた。

心なしか、俺の顔色が悪い。

ミシェル嬢、お願いだからあなたは『女の子』だと言ってくれ!

「ミシェル?」

空気の読めないフィクショナル様は、ミシェル嬢の言葉の続きを待つ。

「実は私、いや、僕は『男』なのですよ」

そう言って、かつらを外し、男の姿になるミシェル嬢。

「あっ、僕、ミシェルじゃなくて、本当の名はマイケルです」

王様も驚きをあらわにされている。

それもそうだろう。

ミシェル嬢は、男の理想を体現しすぎた『女の子』であったのだから。(王様は、フィクショナル様の学園生活の態度の報告書で、ミシェル嬢のことはもちろん知っておられる)

「ミシェル―――――――――――――!?」

顎が外れるほどに口を大きく開けて驚く、フィクショナル様。

愛した少女が、実は男なんてショックだな。

「ウソだろう!?ミシェル。お前は、シナモンを恐れて嘘をついてるだけだよな!そうだよな!」

ミシェル嬢、いやマイケル君はそれを鼻で嗤った。

それでも、マイケル君を抱きしめようとしたフィクショナル様をマイケル君は嫌悪の表情を浮かべて、腕を振り払った。

その勢いで投げ飛ばされるフィクショナル様。

彼は、どれだけ貧弱なんだ。

結果、20m以上離れた城の壁にフィクショナル様は体をめり込ませた。

すっげー、馬鹿力だ。

フィクショナル様をなかったことにし、シナモン嬢の前で跪くマイケル君。

「シナモン様、愛してます。結婚してください」

もう、何も言うまい。

それにしても、マイケル君はものすごく尊敬した目でシナモン嬢を見つめている。

「もちろんですわ。マイケル様」

とりあえず、なぜそんな簡単に答えたのか疑問に思ったがすぐ近くに来ていた人物、シナモン嬢の父が疑問に答えてくれた。

「シナモン、良い方を見つけたものだな。マイケル、わが家に歓迎しよう。シナモンと同じ年で、それもドラゴンを一人で狩れる男がいなくてな。娘は、婚約者すらいなかったのだ。ん?式は、準備できたらすぐでいいな」

と鼻歌を歌い、颯爽と去って行った。

クリームチーズ一族の婿の条件は、「単身でドラゴンを狩れること」。

「無理だろ、その条件」と思ったが、それを体現した男の子が目の前にいた。

今日は、驚くこといっぱいの日だな。

疲れた俺は、腰を抜かし意識を抜かしたままの先輩を引き摺り、その場を後にした。

早く帰って、今日は寝よう。




その後_____


フィクショナル様は、正式に廃嫡された。

市井に堕とすと、そこに暮らす市民に被害が行くため、屈強な男たちが管理する屋敷に監禁された。

ムキムキマッチョは、俺には耐えられない。


シナモン嬢とマイケル君は結婚して、一緒に楽しくドラゴン狩りをしているそうだ。

読んでくださり、ありがとうございました。

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