表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

少年と白いドラゴン

 宮廷竜画師選抜試験当日。

 会場には大勢の人間が集まり、緊張と期待の熱気に包まれていた。

 

 

 少年も会場に集まった人間の一人だった。

 

 少年はこの国の貴族の三男坊で、跡継ぎの嫡男、その補佐の次男と違い、家での役割がないため国の役人になることを望まれていた。そして、少年は望まれるまま国の役人になることを決め、望まれるまま、ドラゴンに選ばれるという偉業を成すことを決めた。

 


 少年は竜画師になりたいわけではなかった。少年は空を描きたいわけではなかった。

 ただ、少年はドラゴンに選ばれたかった。ただ、少年は認められたかった。跡継ぎにもなれず、政略結婚にも使えない、要らない三男坊だと言われたくなかった。

  


 会場に集まった人間は、庶民から国を代表するような貴族まで、人種、年齢、職業問わず、様々であった。しかし、そんな中でも少年のドラゴンに選ばれる自信は揺らがない。

 

 此度の宮廷竜画師選抜試験用のドラゴン二頭が、会場に運び込まれる。白い鱗のモノと緑の鱗のモノ。

 

 間近から見た本物のドラゴンの、なんと見事なことか。

 

 金剛石にも負けない固さの鱗 。ギョロリと周りを見渡す立て瞳孔の瞳。口から覗く鋭い牙と細長い蜥蜴のような赤い舌。

 どんな物語のドラゴンも、どれだけ上手い絵画のドラゴンも、本物のドラゴンの美しくも恐ろしい迫力を表しきれてはいまい。

 

 少年はそこでようやく、自分が成そうとしていることがいかに難しいことなのかを、実感したのだった。



 事前に割り振られた番号順に、一人ずつドラゴンと対面していく。一人に与えられる時間はわずか五分。この間にドラゴンに認められなければ、竜画師への道は再び三年間閉ざされる。認めなければドラゴンは見向きもせず、認めればドラゴンは(こうべ)を垂れるのだという。

 

 少年の番号が呼ばれる。

 少年は緊張した面持ちで、ドラゴンの眼前に立った。微かに震えるかの手が、白いドラゴンに伸びる。

 少年は、白いドラゴンの金色の瞳の奥に、自分の海色の瞳が映り込むのを見た。

 

 白いドラゴンが、その手に頬を寄せる。

 ざらざらとした頬の鱗はひんやりと冷たく、しかし、同時に命の温かさも感じられる。それは、少年の知らない感覚であり、少年の知らない感情を生んだ。

 感動、とでも言うのだろうか。白いドラゴンに触れた時、少年は確かに胸の高鳴りを感じた。いつもより、少しだけ上がった体温。速くなった脈拍。

 少年にとって、ドラゴンは未知のもので。ドラゴンと接することも、未知のもので。

 

 少年は白いドラゴンに頬を寄せて囁いた。まるで、愛しい恋人に睦言を告げるように。

「私のドラゴンになる気はないか?」

 白いドラゴンは何も答えなかった。けれど、決して頬に添えられた少年の手を、払い除けようとはしなかった。

 少年は白いドラゴンから三歩ほど離れると、姫に誓う騎士のように、恭しくドラゴンの前に跪いた。そして、少年は言う。

「私の名はティオルド・ランドバルト。どうか私に、お前に乗って空を飛ぶ権利をくれないか」

 少年の海色の瞳と白いドラゴンの金色の瞳が交差する。今度は、金色の瞳の奥には何も写っていなかった。

「我が名をつけておくれ、小さき主よ」

 白いドラゴンはそうそっと囁いて、頭を垂れた。

 膝をついた少年の目の前に、白いドラゴンの顔がある。

 

 それは、少年が白いドラゴンに主と認められた瞬間だった。

 

 会場にわっと悲鳴と歓声が上がる。誰もが、この新しいドラゴンの主に感嘆の声を漏らした。しかし、その声は微塵も少年の耳を通ることはない。少年は誰を気にするでもなく、ただ白いドラゴンに夢中であったから。

 


 そうして、白いドラゴンは少年にリュオールと名付けられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ