昔から伝わるお話
それは、昔から伝わるお話。
昔々あるところに、小さな国とその国を治める王様がいました。王様は綺麗なものが大好きで、自慢の宝石の数々を磨くことが日課です。
ある日、そんな王様は言いました。「我が国の星たちはとても綺麗だから、星たちには一日中空で輝いてもらおう」と。それを聞いた星たちは、王様の願いを叶えようと毎日毎日朝から晩まで煌めくようになりました。王様は、これで一日中綺麗な星たちを眺めていられると大喜びです。
しかし、間もなくして王様は言いました。「太陽と月があると、星たちの輝きがあせてしまう。太陽と月には、この国を照らさないようにしてもらおう」と。それを聞いた太陽と月は、怒りました。「私たちが居なければ人間は困るだろうに。だが、人間が困っても私たちの知るところではない。王がそう言うのならば、私たちは出て行こう」太陽と月はため息をついて、小さな国から出て行きました。王様は、星たちの輝きの邪魔をする者がいなくなったと大喜びです。
それから、しばらく経ったある曇りの日のことです。王様は再び言いました。「雲たちがいては、星たちの輝きが楽しめない。雲たちには、この国に入らないようにしてもらおう」と。それを聞いた雲たちは、怒りました。「自分たちがいなくては雨も降らないし、雪も降らないのに、なんて失礼なことをこの国の王様は言うんだ。もう、一生この国には来ない」雲たちはそう宣言して、小さな国から去ってしまいました。王様は、これで星たちの輝きを存分に楽しむことができると大喜びです。
けれど、しばらくたったある日、今度は星たちが怒りました。「四六時中輝き続けるなんて、とんだ重労働だ」そう言って、星たちも小さな国を飛び出してしまったのです。
そうして次に怒ったのは、かの王様と、ついには小さな国の国民たちです。王様は、星たちが出て行ってしまったことに。国民は、太陽と月が去り、雲たちが去り、さらには星たちまで王様の我儘の所為で去ってしまったことに。
だから、王様と国民は考えました。この問題を解決するにはどうしたらいいのか。
考えに考えて……。そして、思いつきました。「そうだ。太陽も月も、雲も、星もいないのならば、空にそれらを描いてしまえばいいんだ」
もう空には月も太陽も何もないけれど、空はある。空というキャンパスだけはあるのだから。
こうして我儘な王様によって、太陽も、月も、雲も、雨も、雪も、虹も、嵐も、星もなくなってしまった小さな国には、空を描くという仕事ができたのでした。