雪ノ下蒼乃と新米お姉ちゃん
「…きみ、両親は?」
「いないよ」
雪がちらちら、降っていた。
ここの空気はすこぶる悪いからどこか薄汚れた色をしていて、それは目の前に立つ人の髪色に似ているなあ、と呑気に眺めていた。
「ひとりぼっちなの?兄弟とかは…」
「知らないよう、そんなの…」
わたしと同じ路地裏に這うような暮らしでも、悠々とお貴族様みたいな暮らしだとしても見分けがつかないだろう。
そもそもにおいて、わたしは血と埃とその他もろもろにまみれていて元の瞳や髪、肌の色なんて分からない。
「うーむ、名前は?」
相手はうんうん唸りながら訊いてきた。最近は専ら生意気なガキと呼ばれていたんだけれど、流石にこれはちがうと分かる。
「とくに、なし」
「ええー?なにそれ…感想じゃないんだからさあ…」
がしがし綺麗な灰色の髪を掻きながら…、どうやら困っているみたいだ。
少し考えてから、その人はぽんっと手を打つ。
「あのさ、私もひとりなんだよね。孤児」
ほら、孤独を分け合うってあるでしょう。よくあるはなし。
「一緒に住まない?ここからちょっと遠めだけど、如月ってところ。他に住人もいるから寂しい思いはしない…、逆に騒がしいぐらいだし、ね?」
遠くを指差しながら目をきらきらさせて提案したその人は、わたしを無理やり立たせて汚れをはたき落とし自分のコートを羽織らせた。
その人はついでにわたしの髪も叩いてフードを被せ、おぉ…と難しい顔をして唸る。
わたしはその人の服装に目を奪われていた。肩が剥き出しでぺらぺらの薄着なので寒々しい。
「帰ったらお風呂入ろうか。きみ、髪が真っ青で綺麗だからつやつやになるまで洗おうよ」
私も寒いし、とけらけら笑ってからその人はふっと真面目な顔つきで寒い、優美さんにコートかなにか、借りにいこうかな…とつぶやいた。
「なら、わたしはコート要らないから」
コートを渡そうとすると、両手で防御される。
若干苛つきながら理由を訊くと、途端にその人はにやけた。
「きみは私の妹にするって決めたからね。もし妹がいたら、とことん甘やかすって決めたんだから…ね?」
そして期待するように見つめられる。
妹にはコートを被せるものなのだろうか。
わたしは少し考えて躊躇しつつコートのフードをかぶった。
ぶかぶかで顔が半分以上隠れた。
ぱあっ、と花が開くように笑った。
…嬉しそうにお姉ちゃんは笑った。
それから手を繋いで、これからお家と呼ぶ場所にわたしとわたしのお姉ちゃんは帰っていった。
わたしのお姉ちゃんができた日