疑惑
数日が経って、リサは不安な気持ちを抱えていた。
記憶が戻らないからではない。
ヒューイとバートに対して、ある疑惑を抱いたからだ。
(あの二人は、私に思い出してほしくないのではないかしら……)
リサは記憶を取り戻すために、自分についての色々なことを訊いてみた。
けれど、彼等はあまり話してくれずに、無理をしては駄目だと、そればかりを言うのだ。
(私は早く思い出したいのに)
今分かっているのは、名前はリサ、年は十八、ヒューイとは七才差の夫婦で、結婚したのは去年の誕生日、子供はいない。それだけだ。
もっとたくさんのことが知りたいのに、一度に色々なことを詰め込まないほうがいいと言われてしまった。
彼等は何か隠している。
リサはそう感じていた。
彼等に疑惑を持つことは、とても辛いことだった。
信頼できる二人だと思っていたのに、その気持ちが揺らいでくる。
(私には、他に頼る人がいないのに)
ここにはバートの他に使用人はいない。
つまり、今この家には三人しかいないのだ。
そのことにも違和感があった。
いつもはもっと、たくさんの人に囲まれていたような気がするのだ。
それに、住んでいたのもここではないような気がする。
(記憶さえ戻れば……)
そうすれば、このすべての謎は解けるのに。
そう思うと、何が何でも思い出さなければいけないという気持ちになってくる。
(焦っては駄目)
そう自分に言い聞かせ、リサはどうすれば記憶が戻るだろうかと考えを巡らせるのだった。