思い出
「リサ様。そろそろ部屋に戻られたほうが」
バートに言われて、そういえばだいぶ身体が冷えてきたと感じていた。
「そうね。戻るわ」
もう少し、雪の上を歩いていたかったけれど仕方がない。
(もう少しで、何か思い出せそうな気がしたのだけれど)
焦っては駄目だと思いながら、やはり早く思い出したいという気持ちが湧いてくる。
「リィ」
ヒューイの声が聞こえて、そちらを見た。
心配そうな顔をした彼が近付いてきて、そっと手を伸ばしてくる。
「風邪を引いてしまうよ。早く部屋に戻ろう」
そう言って、彼はリサの身体を温めるように抱き締めた。
そして促されるまま、リサは彼にもたれて歩き出した。
その時ふと、前にもこんなことがあったな、と思った。
その時、自分は泣いていて……
「リィ? どうしたんだい」
ヒューイの問い掛けに、思い出そうとした何かが霧散した。
それを残念に思いながらも、リサは「何でもないわ」と首を振って彼に答えた。
「無理に思い出さなくていいから」
優しい声で彼が言う。その言葉に安堵しながら、同時に不安も感じていた。
(思い出さなきゃ駄目なのよ)
何か、とても大事なことを忘れている。そんな気持ちが常に付きまとっていた。
「リィ。……僕が君を愛してることを忘れないで」
ヒューイの言葉に、リサは顔を上げた。
彼は真っ直ぐに彼女を見ていた。
「ヒューイ……?」
彼の様子に疑問を感じながらも、リサはそれ以上問うことはできなかった。