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涙
「思い出してしまったんだね」
ヒューイが哀しげに言った。
「私のために……」
「リィ……泣かないで」
ヒューイがそっと手を伸ばしてきた。その指が涙を拭うのをリサは悲しく感じていた。
「逃げましょう」
「どこに?」
「どこでもいいわ! どこか遠くへ行きましょう」
しかしヒューイはかぶりを振った。
「僕は自首するよ」
「兄様!」
リサは悲鳴のような声を上げた。
父が死んだことも、自分の出生もどうでもいい。ただ兄が罪を犯してしまったことだけが悲しかった。
「リィ」
ヒューイが困ったように名前を呼ぶ。そしてリサを優しく抱き締めた。
(いつだってそう。いつも兄様は私のことばかり考えて……)
リサの結婚が決まった時も、ヒューイは同じように彼女を慰めてくれた。
そして言ったのだ。この結婚は無かったことにしてみせると。
(私のせい……)
結婚を破談にするには、きっとほかに方法がなかったのだろう。
こんなことになるのなら、自分は誰が相手でも結婚したのに。
リサは兄の腕の中で泣いた。
泣き疲れて眠ってしまうまで、ヒューイは彼女を抱き締めて慰め続けていた。