Ⅳ
閉じる、という行為に人は何を連想するだろう。閉じこもる。遮断する。そして、守る。そこらへんが一般的ではないだろうか。正しいだろう。食べ残しも、引きこもりも、空気に触れさせないことで、傷付かないように、守っている。しかしそれだけではない。閉じるということは持ち運びが出来る、ということだ。箱をイメージしてもらえばわかりやすいだろう。またはスーツケースか。閉じる――閉じ込める。
そして私はまた、阿尾のアパートでご飯を食べていた。今日はレトルトのミートスパゲッティだ。
数回にわたる訪問の末、ようやく阿尾の部屋も見れるようになってきていた。
「ようやく歩くところも座るところもわざわざ作らなくてもよくなったね」
「心配しなくてもほっとけばまたそうなるよ」
「散らかさない努力をしろ」
ふぅ。片付けの過程で見つかった座布団に腰を下ろす。
「ところで、きみってこういう趣味なの?」
「ど、どこでそれを!?」
大袈裟にのけぞる阿尾の視線の先にある、私の手の中にあるのは一冊のエロ本だった。
「いや、違うんだよそれは……鈴空が来た時の為に……」
「お前は私をなんだと思ってるんだ!」
「いやまぁ、冗談だよ」
「ほんとに冗談?」
それにしてはやけに言い訳がましい言い方だったけど。
「うん、ほんとほんと。鈴空がここを片付け始めたあたりにわざわざ買って置いといた」
「冗談じゃない!」
なんでわざわざそんなことしてんだ!意味わかんねぇよ!
「あんまり慌てなかったし驚かなかったし照れたりも恥ずかしがったりもしなかったね」
「あんまりどころじゃなく呆れはしたよ」
わざわざ金かけてやるほどのことでもないでしょうに。
「それにしてもこのチョイスはどうなの」
そのエロ本はR18Gといって差し支えないエログロ本だった。
パラパラとめくってみるが、まったくもっていい気分にならない。そういう演出だと思っても、痛そうで、とてもじゃないけれどそれ以上見たくなくなって勢いよく閉じる。
「もう一回聞くけどさ、こういうのが趣味なの?」
「いや?」
「もしイエスと答えられたら今後の付き合い方を見直そうと考えるくらい」
「大丈夫だよ。俺もそういうものは苦手だ。だって苦しそうじゃん痛そうじゃん。可哀想」
けっこう普通の返事だった。
「まいっか。早く食べよ。冷めちゃう」
「鈴空が話し始めたんだけどね」
フォーク片手に話していた阿尾がようやくといった感じでスパゲッティーに手を伸ばす。
「それにしても鈴空、レパートリー増えたね。作れるのオムライスだけじゃなくなった」
「あんたがあれ食べたいこれ食べたいとか厚かましくも注文してくるからでしょ」
「だってさ、ごはん作ってくれるのは嬉しいけど、毎回オムライスばっかじゃ俺オムライスがトラウマになっちゃうよ。夢に出てきちゃう」
「夢に出てきたなら喜んで食べなさい」
ひでー、とか聞こえるけど気にしない。
そうして私は阿尾の家からひと振りのナイフを持ち出した。