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負荷幸録  作者: 認識
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ハバタキ~一章~

「ふざけんな、何で僕が毎日毎日町中走り回らなければ行けないんだよ!」

時刻はちょうど夕方6時。

高校の同級生達はきっと、部活に汗を流す者、や、友人と遊び楽しんで過ごしている者もいる事だろう。

それなのに僕は、高校3年生の貴重な放課後(僕は部活にも入っていないし、放課後一緒に遊びに行く友人なんていない)を使って僕は町を自転車で走り回っていた。

格好良く値が張るマウンテンバイク、ではなく、普通の通学に利用されるママチャリでだけど

そんな愛すべき自転車(名前はレッド・ラン・バス)を漕いでいた所、偶然見つけた公園で僕は休んでいた。

その公園は果たして公園と呼んでいいのか、呼んだら全国にある公園に申し訳ないと思ってしまう、そんな微妙な公園であった。

さすがにそれは言い過ぎだとは思うが。

遊具はブランコのみ。そのブランコも錆つき、

ロクに動いてはくれない。雑草は好き放題、荒れ放題に生えている。

多くの木々に囲まれ、今日は雲一つない天気なのに、光がほとんど入ってこない。そんな薄暗い公園で一人呟く。

「なんの為って妹の為なんだよな」

一人で呟くまでもなく自分のしている事は分かっているつもりだ

全ては妹の為に

親愛なる妹、無常 萌

成績優秀、スポーツ万能、性格もいい。

そんな僕なんかの妹にはもったいない自慢できる妹。

あんまり今の妹についても話したくないがそれを言っては話が進まないので軽く説明させてもらう事にする

妹は中学生になったその日いきなり、何の前触れもなく壊れた

正直壊れたと言っていいのかどうか僕にはまったくと言っていいほど分からないのだが、そんな僕にでも若っている事がある。

それは妹が・・・


感情を一切なくした


その事だけだ。

泣かない、笑わない、怒らない、悲しまない

喜怒哀楽を失い、それでも生活は普通にしている。(流石に学校には通わせていないが、)普通に生活している中で感情がない。もはやそれは僕にとっては地獄だった

僕はそれが怖かったし、恐がった。

僕はそんな妹を助けたい、と切実に思った

だって妹は僕を何回も助けてくれているのだから

例えば中学生に入りたての頃に・・・正直その事は語りたくは無いので簡潔に一言で言わして貰いたい。(自分で振って置いて申し訳ないが言いたくない事は誰にでもあるのだ。大人の対応を望む)

とにかく、

「僕は救われたのだ。」

と、妹に救われる兄は格好悪いと思われるかもしれないが事実なのだから仕方ない

そんな事は抜きにしても自分の家族をましてや、自分より年下の妹だ。

助けたいとは思うのは当たり前だろ?

そんな妹になってしまってから悲しみに明け暮れ一カ月がたった

そんなある日、僕は感情のない妹が待つ家に帰るのが辛くて、ゆっくり俯きと下を向いて家に帰っていた。妹が壊れてからは、いつも下を向いていたように思う。その日は強い雨が降っていてその雨を僕は傘もささず全身に受けて歩いていた。この雨は感情を失った妹の涙なのかな、と

そんな事を思った学校からの帰り道

「ブーブー」

と携帯が振動する。

そう、あの時は確か携帯電話が振動して・・・いない!

携帯はあの時振動なんてしてなかったはず。

あの時の事は鮮明に覚えているから、こんな場面で、僕の携帯は鳴っていなかった

と、言う事は、

「回想じゃなくて現実ね・・・」

そんな訳の分からい事(本当に訳が分からない)を呟きながら携帯を取り出し回想から現実へと意識を切り替える。

「うっ!」その携帯のディスプレイに表示されている相手は―僕の雇い主の名前であった

「うわー、これはかなり出たくないぞ」

できればこのまま出ないという手も無くはなかった。が、まったくもって、本当にできればそうしたいのだが・・・そんな事をすれば後で僕の身に危険が及ぶだけだ。ヘタしたら命が無くなってしまうかもしれない。そんな訳で、実際は電話に出る選択肢しか僕には残されていなかった。

電話一つで命の心配をしなければ行けない僕。

なかなか体験できないぞ?

貴重な体験だなー。

そんな体験したくはないけど・・・

僕はしぶしぶと携帯電話の通話ボタンを押した

「もしもし、なんですか?僕は今忙しいんですけど?」

電話の相手は僕の言葉にに、何故か楽しそうに

「こんな公園で回想がどうとか現実がどうって言っている奴が忙しいのかい?」

「・・・・・・」

全部ばれている!?

あれ聞かれていたのか!?

かなり恥ずかしいぞ。

可哀想な奴だと思われる!

僕は慌てて(今更だが)あたりを見わたす。

しかしどこにも人影など見付ける事は出来ない

「どこにも人なんていないのに、何で僕の行動がばれているんです?」

「何をいっているんだい、君は?あたしはこの公園にいるぜ」

「そんな馬鹿な」

「馬鹿じゃない?今のところ馬鹿は君だろう。考えて御覧よ。君の意思でね」

電話の相手である雇い主はあきれたよう笑って続ける

「まったく君は本当に鈍いね、上を見て御覧?」

上?

上、っていても僕は木陰で休んでいるんだから当然そこには大きな木がある。

木しかないと表現しても問題は無いよ?

これだけだけど―そこで僕は思い当たった

「ま、まさか!」

「そ。その『まさか』だよ」

見上げていた木から人が落ちてきた・・・

もう、それは彗星のごとく落ちてきた

クレータが出来たかと思った位だ。

恐竜の後を追う事になるのかと身構えてしまった・・・

正確には『落ちてきた』のではなく、『飛び降りてきた』のだが。

普通この高さから降りたら怪我するよね?

大丈夫なのだろうか?

僕の心配は虚しく何事もなかったかのように携帯を閉じて、僕の顔を見ながら話しかける

「驚かさないでくださいよ、愛夢さん。だいたいどうしてこんな所にいるんです?そもそもこんな昼間に何してるんですか?」

「どうしてって言われてもねぇ。強いて言うならこの木は寝心地・・・じゃなくて何か大層なエネルギーが眠っているみたいなんだよね!そう、調査だよ」

ニッシッシ

と、豪快に笑って見せる愛夢さん

「・・・・・・・」

今完全に寝心地って言ってたよね?

笑顔で誤魔化されないよ?

それじゃあ、何?この人、人に働かせて自分はこんな所で寝てたのか?

そんな訳で僕の雇い主の登場であった

 愛ノ瀬 愛夢

職業、カウンセラー(自称)

年齢 永遠の十七歳(自称)

「・・・・・・」

これを見てもらえば分かる通りに・・・

怪しさ満開の女性である。

自称しかない。

ここまで来ると名前も本当かどうか怪しいものがあるな・・・

カウンセラーが木の上で昼寝するか?

もしかしたら、する人も居るかも知れないけど。

ちなみに僕に言えるのは多分十七歳は嘘だという事だ。どんなに頑張っても見た感じ二十代は確実だ。(言い切ったぜ!)

そもそも、僕だったらこんな怪しい人にカウンセリングとかして欲しくない。

むしろカウンセリングを紹介してあげたいくらいだ

「今、君は何かとんでもなく失礼なことを考えていないかい?」

「考えてません!」

背筋を伸ばしながら即答する

目上の人には当たり前の態度だろう?

別に怖がってる訳じゃないんだよ?

「なら、いいが。そんな事よりどうしてそんな貧相な顔して公園で休んでいたのかい?」

僕はその質問に、「あなたと初めて会った日の事ですよ」とさっきまでの回想を話す

「ああ、あの日か。あの日はよく覚えてるよ、

確か雲一つない快晴だったよな・・・」

そう言って彼女は懐かしそうに雲一つない空を見上げる

「忘れてんじゃねえか!」

怒りの余り言葉遣いが乱れてしまった

あなたと初めて会った日は大雨でしたよ?土砂降りでしたよ!?

マジでそう言う事言われると凹むから・・・

「分かってるって、もちろん冗談に決まっているだろ?」

僕は彼女に疑惑の視線を向ける

「ん?何だい、その目は?」

この人なら本当に忘れているかもしれないからな。

忘れた事を認めないで嘘で誤魔化そうとするタイプだね。

僕の偏見だけど

「で、何であの日の事を思い出してたんだい?」

「なんとなくですよ、なんとなく」

「なんとなく思いだすって事はあり得ないさ、その記憶が必要だから思いだす。違うかい?」

そんな事言われても普通の高校生である僕に分かるはずもない質問だ。って、上手く話題をそらされた気はするが。

実際にそらされている

その質問はともかく出会った日の事を思いだしていた理由は・・・

「ただ、本当に妹をあなたが救ってくれるのかなって、不意に考えちゃいまして。妹を救えるかどうか、って事を・・・」

疑って申し訳ありません、と僕は続ける。

「何を謝ってるんだい?あたしみたいな胡散臭い奴は疑って当然だよ」

「そう・・・ですか」

どうやら自分で胡散臭いと分かってるようだった。分かってるのなら直せと言いたいがそんな度胸はもちろん僕にはない。

「それにそう言いながらも、君は今もあたしの仕事を手伝ってくれてるだろ?」

「そりゃそうですけど・・・」

彼女から僕に与えられた仕事。

それはこの町に現れる『負荷』の回収だった

そう言えば『負荷』について全く触れてなかったのでここいらで、ちゃんと触れておこう

このページには何回か戻ってくる気がするな

何故だろう?

『負荷』

人びとの負の感情の集まりの事を言う。本当はもっと複雑のようだが、僕はそう理解している。

感情は表に出る。

そうやって出た感情の中に混ざりし裏の感情。最初は小さな負だが―

それらはやがて集まり大きなエネルギーへと進化する。 それを僕、と言うか彼女達は―

『負荷』と呼ぶ

とにかくその『負荷』を回収しなければ、

回収できずにそのままにしておくと、大変な事になってしまう

具体的に言うと、やがてその『負荷』は人に取り憑く。

人に惹かれる。

取り憑かれた人は負の感情に、感情を喰われ―体を意志を奪われていく。

そうなってしまったら『負荷』の思うまま、否、自分の中に眠る負の感情により、破壊や人を襲う事を繰り返すようになってしまうのだ。

人を遥かに超えた力で・・・

そうなる前に『負荷』を回収する事、それが僕に与えられた仕事だった

それに・・・感情を喰う『負荷』。

僕はそれが妹に関係している気がしてならなかった

以上『負荷』の説明でした。

「それにしても『負荷』の出現率高くないですか?みてくださいよ。これを!」

僕は愛夢さんから与えられていた携帯電話型探索器(形は最新のアイフォンだ。ちょっとびっくり)を見せる

「ありゃ、これはまた・・・」

携帯に表示されている地図には沢山の赤い点が表示されていた

「こんなにあったんじゃあ、きりないですよ!」

「その文句はあたしに言うのではなくあの男に言ってくれよ」

あの男・・・・・・

僕の脳裏にあの黒い和服の男が浮かんでくる

・・・思い出したくない奴を思い出してしまった。

「嫌ですよ、本当に迷惑な男ですね。まったく。居なくなっても迷惑だ。地獄でおとなしくしてれば良いんですけどね」

「いや、彼は死んでないって」

若干引き気味の愛夢さんであった

本当に僕にとってあの男はトラウマだ。

「そうなんですか?どんな場所よりも地獄が似合う和服野郎だと思うんですけどね」

「和服は関係ないよ・・・」

「それとも天国ですか?せいぜい天使にでも甘えてろって言うんだよ」

「だからあいつは生きてるって。そう言わずに、ね。これも妹さんの為だよ?」

「うっ」

妹の為、か。

そう言われたらやるしかないな

「それは分かってますよ。そもそも本当なんですよね?妹を直すのに大量の『負荷』が必要だって事は」

「本当さ、負の感情は言ってしまえば感情の宝箱だ」

「表現が古くないですか?」

「何を言う!優れた表現に古いも何も無いだろう」

「例えばナウイとか。今使ってる人なんていますか?流行はその時だけですからね」

そう思うと毎年変わるって言うのは楽しみな半面冷たい事だな

「何を言う!ナウイだってきっとまだ使われてるさ!」

「感情、ですか。でもそれじゃあ・・・」

これ以上言葉について語ると話が進まなそうなのでここら辺でスルーをした方がいいだろう

攻めるだけが勝負ではないのだよ。

目に見えない事が大切なようにな!

見える事が全てじゃない、攻めるだけが勝負じゃないって事さ!

サンキュー、☆の王子様

☆にすると全然印象変わるな・・・

って、そんな事よりも、『負荷』からじゃ負の感情しか手に入れられないじゃないか!

「それはいらぬ心配だよ?」

僕の考えなどお見通しと言わんばかりに素早く答える

「例えば君は何かの試合で負けた事はあるかい?」

その質問の意図が掴めぬまま中学生の時に入っていた部活を思い出す

「それはありますけど・・・」

「君はその時、どう思ったんだい?」

「それは悔しかったですけど・・それが何か関係あるんですか?」

「あるとも。悔しいと思えば練習をもっと頑張ろうとその場だけでも思うだろ?」

「その場だけって・・・」

それは言う必要無いだろ・・・

しかしそんな僕の言葉には反応せず

「そう言った感情はとにかく純粋なんだよ。まあ、怒りとか悲しみもそんな感じかな。それが『負荷』からはほんのわずかだけど集める事が出来る。その純粋な感情を妹さんに与えれば―そうすれば妹さんは治る」

「そうですよね。何回も説明してもらってるんですけど本当に妹が助かるのか信じられなくて」

流石に疑ってばかりで愛夢さんは気を悪くすると思ったのだが

「あたしは君のそう言った所が好きだよ。地味眼鏡」

「本当ですか!そう言ってもらえ・・・」

あれ?今さりげなく悪口言わなかったか?

地味眼鏡?

「そんな事言ってないよ?隠密眼鏡君」

「隠密眼鏡って!意味が分からない!」

なんだよ、隠密眼鏡って!?

隠密って地味の一個上のランクだったのか?

でもちょっとカッコいいぞ?

「ほら、休憩はもう終わりだよ、早く回収しないと人に取り憑いちゃうよ?」

人に取り憑かれると大変だ(あった事無いけど)

「くっそう!お~ぼ~え~て~ろ~!」

僕は噛ませ犬な台詞を言って公園を後にした



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