ハバタキ~零章~
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「世界は負荷で満ちている。君はそんな風に考えた事は無いか?」
この言葉をつきつけられた僕、無常 幸人は一体どんな反応をしたのだろう
笑って誤魔化したのだろうか?
反対の意見を生意気にも述べたのだろうか?
あまり思い出したくはない記憶だ・・・
それでも言える事はただ一つ―
そんな言葉を平気で言える男に出会ったと言う事だけだ
黒い和服が良く似合う、この世の不幸を具現化したかのようで、それでいてよく笑う男の―台詞だ。
その頃の僕は、生意気にもこんな事を思っていたような気がする。
知る事は出来なくても考える事は出来る。数学で答えは出なくても計算をして見る事はできる。それと同じ事だ、つまりは人が人を幸せにする事なんて・・・できやしない。
と。
「そんな事は無いんじゃないかい?」
と、誰かが僕言う。
この言葉はきっと、黒い和服の男の台詞―では無い
あの男は口が裂けても、例え地球が滅亡に向かっていた所で、破滅に向かう途中であっても、
こんな事は
こんな台詞は、
絶対に言う奴で無かった。と、僕は言い切ろう
それならばこれは―
彼女の言葉だ。
「幸せを知らないなら教えてあげればいい。たったそれだけの事だろ?」
違うのかい、と彼女は問う
確かにそうなのかも知れない。
でも、それが出来ないからみんな、少なくても僕は苦労しているんだ
彼女を否定するように―あの黒い男はこんな事を・・・
なんて事無いかのように呟く
「よく人生はプラスとマイナスが等しくなる様にできていると。君はどう思う」
と、独白の様でそれでいて人に意見を求める
幸せ《プラス》を知る物が不幸を感じる事はできる。だが、不幸しか知らない者は幸せを幸せだ。と、とらえる事が出来るのだろうか?
とらえるだけで、感じるだけで、所詮は他人事。どんなに頑張った所で自分の身に起こるリアルな体験ではないのだ。
だから、『ちゃんと考えろ』と言うのは無理な話なのかもしれないが、
僕はそう考える事に意味があるのだ、と声をおおいに張り上げて言おう。
もしも人びとが、人の心を考える事を止めてしまったら・・・
なんて、そんなカッコいい事を言わせてもらってはいるが、実際お互いの考えを知る事なんてできやしない。それが僕の、たどり着いた結論であった。
過去の考えであった。
まったく今になって思うと本当に赤面ものだ。恥ずかしくて言葉も出ない。
だが、そんな事をしっかりと考えていたと思うと自分に拍手をしてあげたい気分である。
しかし、実際に世界の裏側を見て、触れた僕は―
素直に拍手を送る事は出来ないであろう。正確には、裏を知った事よりも彼女に出会ったことの方が大きいのだとは思うが・・・。
そんな僕に―彼女は言う
「それが幸せと言う事ではないのかな?君は幸せ者だよ」
「・・・・・・」
これが、こんな事が幸せと言う事なのか?こんな悩んでばかりいる人生が?
失ってばかりいる人生が?
彼女は続ける
「悩む事も、失う事も、生きて行く上では無くてはならない者だ。たとえそれが不幸だとしても。だから君に手伝ってほしいんだ。不幸と幸せを考え、それを求める君に・・・」
僕は悩む。
言われたとおりに、自分の不幸と僕の望む幸せ《プラス》を、
「・・・・・・・」
僕はどうすればよかったのだろうか?
これは僕の青春の物語。