その内装、動線が悪すぎる
『黒き捕食者』の本拠地(魔神城)。
その入り口には、身の丈3メートルはある巨大な鬼が立っていた。
手に持った金棒には、乾いた血がこびりついている。
「……いらっしゃいませーとか言えねぇのか」
俺は呆れた。
接客態度がなっていない。
俺が近づくと、オーガが低く唸った。
「グルル……人間か。ここは『選ばれし供物』以外は立ち入り禁止だ。失せろ」
「(会員制かよ……)」
俺はイラッとした。
一見さんお断り。そういう高飛車な店は、だいたい味が値段に見合っていない。
「俺は同業者だ。味見させろ」
「ドウギョウシャ……? 貴様も魔王軍の幹部か?」
「麺屋だ」
「メンヤ……? 知らぬ組織だ。ええい、邪魔だ! 死ね!」
オーガが金棒を振り下ろしてくる。
いきなり暴力か。
よほど味がバレるのが怖いらしい。
「ミュウ、どかせ」
「はいッ! 邪魔です、三下ァ!!」
俺が言うより早く、ミュウが飛び出した。
彼女の戦斧が閃く。
ズバンッ!!
オーガの金棒ごと、その巨体が真っ二つになった。
「いらっしゃいませ(死)!!」
ミュウが笑顔で叫ぶ。
「……乱暴にするな。店の備品を壊すと請求が来るぞ」
「すみません! ちょっと『ドアノブ』が硬かったもので!」
俺たちは、崩れ落ちたオーガ(ドアマン)を跨いで、店内(城内)へと入った。
中は薄暗く、床はネチョネチョとしていた。
壁には松明が燃え、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。
「……汚ねぇな」
俺は指で壁を擦り、顔をしかめた。
掃除が行き届いていない。
これでは衛生局の許可が降りないぞ。
「先生、気をつけてください。床に『圧力センサー』が」
テトラが警告する。
ヒュンッ!
壁から、毒矢が発射された。
俺は歩きながら、首をわずかに傾けた。
矢は俺の頬をツルリと滑り、背後の壁に突き刺さる。
「……なんだこの仕掛けは。アトラクション居酒屋か?」
「いえ、侵入者を排除するトラップです。幼稚な構造ですね」
テトラが指を鳴らす。
バチバチバチッ!
城内のトラップが一斉にショートし、爆発した。
「セキュリティシステムをハッキングしました。これで『自動ドア』は開きっぱなしです」
「(勝手口をこじ開けたのか……ま、いいか)」
俺たちは奥へと進む。
廊下は迷路のように入り組んでおり、無駄に階段が多い。
「動線が悪すぎる」
俺は溜息をついた。
「これじゃあ、厨房からホールまで料理を運ぶのに時間がかかって、麺が伸びちまうだろ」
「そうですね。敵の侵攻を遅らせるための構造でしょうが……配膳効率は最悪です」
「改装するか」
俺は、目の前の壁(耐力壁)を蹴った。
スキル発動――【絶対滑性】。
壁と床の結合部の摩擦をゼロにする。
ズズズズズ……。
巨大な石壁が、氷の上を滑るように横へ移動した。
「道ができたな」
俺は壁をどかして、ショートカットを作った。
「さすが先生! 『物理』的なリフォームですね!」
エリザが拍手する。
「この調子で、店の奥(玉座)まで直通ルートを作りましょう!」
俺たちは、壁を滑らせ、天井を落とし、床を抜いて、最短距離で進んだ。
道中、無数のスケルトンやゴーストが襲いかかってきたが、すべて「店員」だと思った。
「おい、水」
俺が注文すると、スケルトンが剣で切りかかってくる。
「サービスが悪いな」
俺はスケルトンの骨の関節の摩擦をゼロにした。
カシャン、ガラガラガラ……。
スケルトンは自分の体を支えきれず、バラバラになって崩れ落ちた。
「ひぃぃぃッ!?」
ゴーストが悲鳴を上げて逃げていく。
「なんだ、注文も聞かずに逃げるのか。教育がなってねぇ」
俺は不機嫌になった。
この店、味以前の問題が多すぎる。
「先生、最深部から強烈な『腐臭(魔力)』を感じます」
ミュウが鼻をひくつかせた。
「メインディッシュ(ボス)は近いですよ!」
「おう。店長を呼べ。説教してやる」
俺は麺切り包丁を抜いた。
この店の店長(魔神王)に、飲食業のイロハを叩き込んでやる必要がある。
たとえそれが、物理的な「叩き込み」になったとしても。




