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その店長、圧が強すぎる

城の最上階。


そこには、豪華な玉座に座る一人の男がいた。


漆黒の鎧を纏い、背中にはコウモリのような翼。


頭には二本の角が生えている。


魔神王、サタン・エル・ディアブロ。


かつて世界を恐怖に陥れた魔界の王であり、この『黒き捕食者』のオーナー店長だ。


「……よくぞ来た、人間どもよ」


魔神王が重々しく口を開く。


その声だけで、空気がビリビリと震える。


「我が城をここまで破壊し、配下を全滅させるとは……褒めて遣わそう」


「どうも」


俺は麺切り包丁をぶら下げたまま、玉座の前に立った。


「お前が店長か?」


「……テンチョウ? フッ、我をそう呼ぶか。まあ良い。我はこの世界の支配者となる者だ」


魔神王が立ち上がる。


身長は3メートル近い。


「貴様らの魂……極上のスパイスになりそうだ。我が肉体の一部となる光栄に浴するが良い!」


魔神王が手を掲げる。


その掌に、巨大な暗黒の球体が生成される。


暗黒消滅波ダーク・マター・ブラスト』。


触れた物質を原子レベルで消滅させる、最強の攻撃魔法だ。


「先生! あれは危険です! 防御不可能です!」


テトラが叫ぶ。


「回避してください! あれに触れたら、先生でも……!」


「(……デカいミートボールだな)」


俺にはそう見えた。


きっとあれが、この店の看板メニューなのだろう。


「試食といこうか」


俺は一歩も引かなかった。


魔神王が、黒い球体を投げつけてくる。


「消え失せろォォォ!!」


迫りくる死の塊。


その圧倒的な質量と魔力に、空間が歪む。


だが、俺には見える。


その球体の「表面」にある、空気との境界線が。


どんなに強力な魔法でも、物理現象である以上、そこには「抵抗」が存在する。


俺は、包丁を逆手に持った。


「……味見は『一口』で十分だ」


俺は包丁の腹で、迫りくる球体を「受け止める」のではなく、「受け流した」。


スキル発動――【絶対滑性】。


包丁の表面と、球体の接触点の摩擦をゼロにする。


ツルンッ。


軽い音がした。


魔神王の必殺魔法は、俺の包丁に当たった瞬間、まるで氷の上を滑るパックのように軌道を変えた。


直角に曲がり、天井へと飛んでいく。


「なッ!?」


魔神王が目を見開く。


ズドンッ!!!!


天井に穴が空き、空の彼方で黒い球体が爆発した。


空が割れたような衝撃波が広がる。


「ば、馬鹿な……! 我が最強の魔法を……弾いただと!?」


「弾いてねぇよ。『滑らせた』んだ」


俺は包丁を構え直した。


「味見は終わった。……大味だな」


「き、貴様……!」


「コクもキレもねぇ。ただデカいだけの見掛け倒しだ。こんな料理じゃ、客は呼べねぇぞ」


「おのれェェェ!! 人間風情が、知ったような口をォォォ!!」


魔神王が激昂し、魔剣を抜いて襲いかかってくる。


その剣速は音速を超え、衝撃波だけで石柱を切断する威力だ。


だが、俺には遅く見える。


「力任せに振るうな。素材が痛む」


俺は、魔神王の剣を、自分の包丁で「撫でた」。


キンッ……。


摩擦ゼロの接触。


魔神王の剣は、俺の包丁の上を滑り、コントロールを失って床に突き刺さった。


「ぬぉっ!?」


前のめりに体勢を崩す魔神王。


その隙だらけの首筋に、俺は包丁を添えた。


「料理ってのはな、ハートなんだよ」


俺の手首が返る。


「お前には、客への愛が足りねぇ」


スパン。


俺は、魔神王の首を「湯切り」の要領で斬り飛ばした。


抵抗はない。


魔神王の強固な皮膚も、筋肉も、骨も。


全てが俺の刃の上を滑り、分断された。


カラン……。


魔神王の首が、床に転がる。


その顔は、何が起きたのか理解できないまま、呆然としていた。


「……閉店だ」


俺は包丁を納めた。


静寂が戻る。


「さ、さすがです先生……!!」


弟子たちが駆け寄ってくる。


エリザ「悪の根源を、慈悲もなく一刀両断! これぞ『断罪』の極致!」


ミュウ「あの魔神王の装甲を、豆腐のように……! 先生の包丁さばき、勉強になります!」


テトラ「エネルギー保存の法則を無視したベクトル変換……このデータがあれば、新しい兵器が作れます」


「(……帰ってチャーハン食いたい)」


俺はどっと疲れが出た。


結局、この店は美味くなかった。


ライバルにもならなかった。


ただの「無駄足」だった。


「帰るぞ。腹減った」


俺たちは、崩壊を始めた魔神城を後にした。


背後で、城が轟音を立てて崩れ落ちていく。


それが、俺たちの「食い逃げ(?)」の証拠隠滅になったことは、言うまでもない。

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