特別番組 もふもふ王国inニューヨーク! ~12月26日がクリスマスじゃないなんて誰が決めたスペシャル~
「うおおおお!! おっはようございまぁぁぁぁす! もふもふ王国ですよろしくお願いします! こっちの美人が神埼で、そこの目つきの悪いのが二宮さんです! さて二宮さん! わたしたち今! ニューヨークにいます!」
「知ってる」
「見てください! あれが自由の女神ですよ! 大きいですね!」
「思ってたより迫力あるな」
「周りも見てください! みんな外国人です!」
「アメリカだからなー」
「はろー! ないすとぅーみーちゅー! あいあむじゃぱにーずこめでぃあん! もふもふ王国!」
「おいこらやめろ! いきなり通行人に話しかけるな!」
「だって! 旅行でテンション上がっちゃって! しかもクリスマスのニューヨークですよ!」
「旅行じゃねえ仕事! ロケ! ニューヨークロケなんだよ!」
カメラの前でふたりが話している。ふたりの騒がしさはニューヨークの雰囲気に負けていない。
ニューヨークロケを、このふたりに依頼して良かった。スタッフに囲まれながら、私はロケの成功を確信した。
あ。私は、しがないプロデューサーです。「もふもふ王国inニューヨーク」という特別番組を担当させてもらえることになりました。
さて、ふたりがクリスマスのニューヨークの町並みを歩きながら会話している。さすが、ロケの仕事は慣れてるだけあって、自然だ。
「それで、俺たちニューヨークで何するんだっけ」
「あれ? 聞いてませんでした? アメリカモフモフセンターの取材です!」
「アメリカモフモフセンター!? いやなんだそれ!?」
「モフリストのための研修施設ですよ。その他、モフリストの活動支援や、モフモフ啓発活動なんかもしています。世界中に支部があるんですよ」
「言ってることがひとつもわからない。モフリストって?」
「モフモフをすることで世界を良くしようとする、国際モフモフ協会の会員です」
「何もわかってないのに知らない団体の名前出さないでくれるかな!?」
「ちなみに、アメリカには他にふたつ支部があります。ロサンゼルスにあるカリフォルニアモフモフセンターと、シカゴにあるイリノイモフモフセンターです!」
「街の名前とセンターの名前が一致してなくてややこしい……」
「ちなみに他の国だと、イギリスモフモフセンターはロンドンにあるし、フランスモフモフセンターはパリにあります」
「じゃあ、日本モフモフセンターは東京にあるのか?」
「日本モフモフセンターは名古屋です! 東京には、新宿の東京モフモフセンターと、池袋の豊島モフモフセンターがあります!」
「法則がわからない……」
「簡単ですよ。その国で最初に作られたモフモフセンターは国の名前になるんです! だからリトアニアモフモフセンターはヴィリニュスにあるし、ベネズエラモフモフセンターはカラカスにあります!」
「よく知らない国の全然知らない街のこと言われても、わかんねえんだよ」
「ガボンモフモフセンターはムアンダにあるんですよー。ちょっと設立の経緯が特殊で」
「どこのどこ!? ガボンってなんだよ国か!?」
「アフリカにある国です!」
「というか、お前なんでモフモフセンターにそんな詳しいんだよ!?」
「勉強したので!」
「お前から勉強って言葉を聞く日が来るとはな……ちなみに、最初のモフモフセンターはどこだ?」
「オーストラリアのキャンベラにある、地球モフモフセンターですね」
「地球モフモフセンター!?」
「さすがオーストラリアですよね。カンガルーにコアラにクロコダイル。モフモフがいっぱいです!」
「最後のはモフモフじゃないよな!? いやそれ以前に」
「シドニーにはオーストラリアモフモフセンターもありますよ」
「オーストラリアモフモフセンターが別にあるのややこしすぎないか!? どうなってんだよ国際モフモフ協会!」
「では早速、アメリカモフモフセンターに行ってみましょう! おおー。街はクリスマスムード一色。街のあちこちにイルミネーションがありますね! なんか光ってて綺麗ですね! 光ってますね!」
「モフモフセンター以外の話題で急にIQ下がるのなんでだよ」
「ちなみに、モフモフセンターでもクリスマスは大事なイベントです」
「なんでだ?」
「クリスマスといえばトナカイ。トナカイといえばモフモフ。モフモフセンターは、世界中の子供たちにプレゼントを配るサンタさんのトナカイの応援もしています。あ! 見えてきました! あれがアメリカモフモフセンターです!」
ニューヨークの市街地の一角に立つ、簡素な三階建てのビル。このビル全体がアメリカモフモフセンターらしい。
「ほら。窓にトナカイの絵が描かれてます! クリスマス仕様ですね!」
「クリスマスにサンタ無視してトナカイだけに注目する奴を初めて見た。というか、モフモフセンターでけえな」
「アメリカにはモフリストが大勢いますから! だってカウボーイの国ですからね!」
「カウボーイ今の時代ほとんどいないけど!?」
「他にもモフモフ従事者は大勢いますから! こんにちはー!」
いきなり正面玄関から入る神崎さん。二宮さんとテレビクルーたちが慌てて追いかける。中にいた、愛想の良さそうな女性が笑顔で答えた。
「Hello!」
「はろー! ないすとぅーみーちゅー! あいあむ神埼! こっちは二宮さん! よきにはからえー!」
「お前の英語力、不安しかないんだけど」
「二宮さんも全然話せないじゃないですか!」
「そうだけど。お前の英語力を頼りにするのが嫌なんだよ!」
英語が必要な場面があれば、我々スタッフが対処するしかなさそうだ。
「こんにちはー。もふもふ王国さんですね? ようこそいらっしゃいましたー」
先程の女性が、少々カタコトながら、しっかりした日本語で返事した。
スタッフの側も抜かりがない。モフモフセンターの広報には、日本語が得意なスタッフがいると。彼女がそうだ。若い女性。日本文化にも詳しいと聞いている。
「はじめまして。アメリカモフモフセンター広報担当の、キャサリンです」
「キャサリンさん! よろしくお願いします! さっそくですけど、モフモフセンターでは今、どんなお仕事をしているのですか?」
「はい。クリスマスの夜にサンタクロースが世界中の子供たちにプレゼントを配ります。その際、ソリを動かす八頭のトナカイたちの体調のチェックを、世界中のモフモフセンターや、北アメリカ航空宇宙防衛司令部と連携して行っています」
「航空宇宙……?」
「聞いたことがある。ノーラッドだ。毎年クリスマスにサンタクロースが世界のどの位置にいるかを追跡して、公表してるって」
「まさにそれです。追跡データから、こちらでトナカイの状況を観察。問題があれば対処します。代わりのトナカイを用意して、医療班に回すとかですね。こうすることで、モフモフの健康を維持しつつ、クリスマスを潤滑に進めることができます」
「なるほど! トナカイさんがどうしてあんなに元気なのか、ずっとわからなかったんですけど。こういう仕組みがあるんですねー」
神崎さんがわかりやすい反応をしている。二宮さんにとっても興味深いことらしい。
トナカイ追跡班は、さすがクリスマスシーズンの特別体制なだけあって、大世帯だ。いくつものモニターが並んで、その前に何人ものスタッフが座っている。トナカイ一頭一頭の健康状態をくまなくチェックする。そんな体制が準備されていた。
「ここで、モフモフセンターで働いている人に話を聞いてみましょう! こんにちはー! じゃなかった。 はろー。お話し大丈夫ですか?」
「後半日本語だったら通じないだろ。どっちにしても」
「イーサンだ」
「え?」
「イーサン・ジョブズだ。日本語はわかる。一時期勉強していたからな」
「そうなんですか! 見ましたか二宮さん! わたしくらいになれば、向こうの方から日本語が出来る人が寄ってくるんですよ!」
「調子に乗るな。イーサンさん。うちの馬鹿が失礼した」
「いいんだ」
「ではイーサンさん! あなたにとってズバリ、モフモフとは何でしょうか!?」
「……。サンタクロースは、みんな好きだ。小さい頃の思い出だ。だから、この仕事をしている。サンタクロースのために」
「なるほど!」
うん? なんか受け答えが変だったような。神崎さんが予定にない人に予定にない質問をしたから、変な形になってしまったのかな。
答え自体は納得できるものだ。彼がこの仕事をする理由が、よくわかる。いい感じに編集して、放送に使わせてもらおう。
その後も、施設の中を色々見せてもらった。自然公園の管理人養成プログラムや、牧場主向けの施設。さらにモフモフの歴史を紐解く施設など。
知られざるモフモフの歴史を知れたふたりは、かなり勉強になったという様子。
その後、夕方近くになって。
「ここがあの有名なダイナー、アフタヌーンティーですね!」
ニューヨークの片隅に建つ一軒のダイナーに入る。夜はバーもやっているとのことで、静かな雰囲気ながら通好みの店として評判となっている。取材の一環ではあるが、お店の邪魔をしないように少数のスタッフで伺っている。
「こんにちは! 抹茶フラペチーノ。クリーム増量で」
「ここ、スタバじゃないぞ」
「ええっ!? でも、アメリカにもスタバはたくさんあるじゃないですか!」
「ここがスタバじゃない以上はフラペチーノは頼めないんだよ」
「むむむ。じゃあ、キャラメルマキアートぷりーず」
「Sure」
今ので通じるらしい。やはり英会話はノリと勢いなのか。キャラメルマキアートがある店でよかった。
「二宮さんは何にしますか?」
「ジントニック」
「おっけー! じんとにっくぷりーず! そうだ! あと、チョコレートケーキが評判らしいですよ! 頼みましょう! えっと、メニュー? あ。これか! ケーキ! でぃすけーき! チョコレートのやつ! つーぷりーず!」
また、注文が通った。いざとなればスタッフが代わりに注文するつもりだったが、問題ないとは。
程なくしてチョコレートケーキが来た。食べる前に、番組用にインサートを取らないといけない。ケーキのアップの映像だ。こればかりはスタッフの仕事。照明を当てて、美味しそうに撮る。腕の見せ所だ。
「食べたいー! お腹すきました! 二宮さん離してください!」
後ろで神崎さんが、早くケーキ食べたいからと暴れている。今すぐにでもケーキにかぶりつく勢いだ。羽交い締めにして押さえている二宮さんの苦労がわかる。
インサートを撮るのに時間はかからない。早めに解放された神崎さんは、早速ケーキに食らいついた。
「おい。神崎。芸能人らしく食レポしろ」
「えっ? 甘くて美味しいです! なんかこう、チョコレートって甘いんですね!」
「チョコレート初めて食った奴の感想!?」
「スポンジも柔らかくて美味しいです!」
「素直に褒められる性格はいいと思うんだけどなあ。あと、店の中だからもう少し静かにな」
「はい!!」
「だから」
必要とあらば無理やり口を塞ごうと考えている二宮さん。けど、神崎さんは自然と静かになった。
なにか見つけたからだ。
「二宮さん二宮さん。あの人」
「うん?」
「ほら。さっきのイーサンさん」
「あー……」
見た顔がいた。バーの喧騒の中で、カウンター席でひとりで飲んでいた。
モフモフセンターで働いていた男に、神埼さんはすかさず近づいていく。
「はろー。また会いましたね! 仕事終わりですか!?」
「君は……ああ。さっきの。そうだよ。仕事が終わって、やることがないから飲んでる」
「なるほどー。まだ早い時間ですけど」
その通り。さっきインタビューをしてから、モフモフセンター内を取材して、他にもニューヨークのスポットは観光している。けれど、そこまで時間が経ってるわけじゃない。
普通の勤め人はまだ仕事をしている時間だ。
「俺、バイトだから。学生なんだ。シフトの時間が終わっただけ」
「なんだ。そうだったんですか」
「残念そうだね」
「ええ。まあ。なんというか。モフモフのために、この仕事以外考えてませんってタイプの人にしたつもりですから! バイトかーってなって」
「おい。失礼だろ」
「いいんだ。単に、近くにいた人インタビューしただけなんだろ? たまたま俺だったってこと。悪かったな。モフモフ好きのコメントがとれなくて」
「いえ。それはいいんです。ただ、気になって」
珍しく冷静な様子の神埼さんは、今もイーサンさんをじっと見つめていた。
「イーサンさん、楽しくなさそうだなーって。あそこの人、心からモフモフが好きなモフリストが大勢働いているので、イーサンさんだけ違う感じだったので。それで声かけたんです。実際のところどうなんだろうって」
「そうか。直感でわかってたのか」
「ちなみに、なんでモフモフセンターでバイトを?」
「求人があったからだ。この時期はどこも人手が必要。目についたバイトに応募して、採用された。以上だ」
「なるほどなるほど。でも、イーサンさんやっぱり、元気ないのおかしいですよ」
「うん?」
「モフモフセンターでモフモフに囲まれながら仕事するんですから、楽しいに決まってるじゃないですか。なのに、元気ないなーって」
「おい。それは人によるだろ。別に全員がモフモフが好きなわけじゃないし」
「それはそうですけど。でもイーサンさんがどんな人で、どうしてモフモフが嬉しくないのか知りたくて」
「……日本人って、もっと大人しいと思っていた。こんなにおせっかいだったとは」
「えへへー」
「こいつは特別変なんだ」
「……別に。大した話じゃない。人生がつまらないんだよ。だから、何を見ても嬉しくない。ただ大学で勉強して、バイトする。卒業したらどこかで働く。自分をすり減らして社会の歯車になって働き続ける。そんな人生しか、俺にはない」
静かな語り方。けど、自分語りを始めたということは、もっと色々聞き出せるということだ。二宮さんも同じことを考えたのか、神埼さんと目配せする。彼女は笑顔で頷いて。
「なるほど! では、もっと教えて下さい、あなたのこと! お酒おごってあげますよ! へいますたー! もあもあさけぷりーず!」
注文はスタッフが代わりにやろう。
追加の酒を貰ったイーサンさんは、話さないわけにはいかなくなった。
「大した話じゃない。俺はこの大都市の、特別貧しい地区で生まれ育った。あの街でビッグになるには、マフィアになるかヒップホップで成功するかのどっちかしかない。今の時代にまだマフィアがどうとか言ってる連中がいる場所だぜ? 笑えるだろ?」
「でも、イーサンさんはどっちにもなっていません」
「ビッグにもなれなかった。必死になって勉強して、大したところでもない大学に入った。それだけだ。学費のために必死にバイトして、疲れたらこうして飲んだくれる。将来は、大して稼げない仕事をするだけだ。……大学で学んだ日本語も、社会でどれだけ役に立つか知れたものじゃない。……つまらない人生なんだよ、俺のは」
「な、なるほどー。なるほど、なるほど?」
神埼さん、珍しく困った様子で二宮さんの方を見ている。彼は無言だ。
「時々死にたくなるんだ。この国は大きい。人も大勢いる。多すぎる。その中で俺はちっぽけだ。ビッグじゃない。この国は俺が生まれても死んでも何も変わらないよ。そう想像したら、生きる意味がなくなる。あんたたちには、わからないだろ? 才能でビッグになれて、日本で有名になった。俺にはそんなこと出来ない」
「えっと、なるほど? うーん。それについては、その。なんというか……ビッグになるのも簡単じゃない、的な? いや結構楽に有名になれたけど、でもなんというか。それは二宮さんのおかげというか。えっと? 二宮さん的には、その……」
相変わらず二宮さんに遠慮がちな目を向けている。当の本人はため息をひとつついた。
「ああ。俺たちは才能があった。努力もしたけどな。それで、日本ではそこそこ有名になれたし金も稼げてる。でもな、イーサン。俺はお前のことも、立派だと思ってるぞ」
「……そうなのか?」
「お前はビッグじゃないかもしれない。けど、マフィアにはなってない。貧しい環境で必死に勉強して、大学に入ったんだろ? ああ、偉い大学じゃないだろう。けど、まともな道だ。犯罪に手を染めたわけじゃない。クスリやってるわけじゃない。遊び呆けてないで、ちゃんと働いてる。十分に立派だ。あんたみたいな普通の人がいないと、社会は回らないんだよ」
二宮さんがどういう生い立ちなのか。我々は知っている。治安の悪い地域の貧しい家庭で育ち、抜け出すために必死に勉強して大学に入り、社会で成功した。
けれどイーサンさんは知らないだろう。もしかしたら怒らせたかもしれない。腑抜けたことを言って、挙げ句死にたいなんて、甘ったれている。
杞憂だったけれど。
「そ、そうか……」
ところが、当人にはあまり響かなかったらしい。お前は立派だと言われても、本人がそう思っていないのだから、嬉しくはないだろう。
「うーん。よし! じゃあ、今から立派な人になりに行きましょう!」
神崎さんは目を輝かせていた。二宮さんが怒ってないと知って、安心したのか。
「ほら、スタッフの皆さんもついてきてください! 行きますよ!」
「おい。どこに連れて行くつもりだ」
「ぬいぐるみを買いに行きましょう!」
「なんでだ!?」
「ニューヨークでぬいぐるみを買うならどこがいいと思いますか、二宮さん!?」
「知らねえ! というか話が見えない!」
二宮さんとイーサンさんの手を引いて店を飛び出す神埼さん。スタッフも慌てて追いかける。
「やっぱり大きな店がいいですよね! 大量に買わなきゃいけませんから! というわけで、行きましょう! メイシーズ百貨店に! クリスマスといえば、やっぱりメイシーズですよね!」
「お前、アメリカの百貨店で買い物なんか出来るのか?」
「えへへー。じゃーん! ブラックカード! ……の家族カードです! ブラックカードを契約してるのはお父さんなので!」
「金持ちの娘なだけの女が格好つけるな」
「いつか自分でも持てるくらいに売れたいですね!」
「それはそうだけれど」
「こういうカードにはコンシェルジュのサービスがついていて、色々サポートしてくれるんですよ! そしてメイシーズは一流の百貨店! そういう要望をされるのにも慣れてるはずです!」
「金持ちの、そういう発想が驚きだよ」
「というわけで、出発です! ちなみに知ってましたか? メイシーズにいるサンタさんって、あれ役者がやってる偽物なんですよ」
あの百貨店では毎年クリスマスに、サンタクロースと子供が交流する場が作られている。一部の映画でも描かれている、有名な話だ。
「当たり前だろ。本物のサンタクロースは、この時期一番忙しいんだ。百貨店なんかに構ってる暇はない」
「世界中を飛び回らなきゃいけませんものね!」
「待ってくれ! 話が見えないんだけど!」
イーサンさん、引っ張られるままで、戸惑っています。困っているのはスタッフも同じなのですが。
「簡単なことですよ。イーサンさんはきっと、人から感謝されたことがないんだと思います!」
「それは……そうかも」
「生きるのに迷っているなら、理由を見つければいいんです! 誰かに感謝される生き方をしたいとか、そんなのでもいいじゃないですか!」
「……それで、なんで百貨店?」
「今日はクリスマスですよ? イーサンさんには、サンタさんになってもらいます!」
「話が見えない! というか、クリスマスの夜だぞ今は。今から準備して間に合うのか?」
「気にしちゃいけません!」
「俺にはお前が考えなしに行動しているように見える」
とはいえ、ブラックカードの威力は絶大だった。百貨店に着くと、話しは聞いているとばかりに従業員が待っていた。しかも日本語を話せるスタッフを用意したらしい。そういうわけで、大量のぬいぐるみを購入。
サービス料も含めて、相当高くついたと思うのだけど。
「まとめ買いということで、ちょっと割り引いてもらいました! クリスマスが過ぎたら売れなくなるものもありますもんね! このトナカイさんのぬいぐるみとか!」
なるほど。それでも、購入したぬいぐるみは百個近くある。それだけのお金を出せるのは、さすがだ。
「撮れ高に貢献してやったんだ。お前らも少しは出すんだぞ」
「えっ」
「この様子もちゃんと撮ってるんだろ? 放送するんだろ? じゃあ予算で出せるよなあ?」
二宮さんの圧。せ、制作会社に確認させてください……。
「あとは、明日を楽しみに待つだけですね! せっかくなのでイーサンさん、クリスマスの夜はみんなで過ごしましょう! その方が楽しいじゃないですか!」
「それは、いいのかい?」
「はい! 一緒に楽しみましょう! イーサンさん、わたしが声かけなかったら、ひとりのさみしいクリスマスになってたじゃないですか! よくないです!」
「そうか……」
「クリスマスは誰にもやってくるって、CMでやってるじゃないですか! あ、流れてるのは、今年もやってくるの部分でしたっけ」
「そのCM、アメリカではやってないだろ?」
「え!? でも、アメリカにもケンタッキーありますよね!?」
「あの曲は日本限定なんだよ」
「ええー!? も、もしかして、山下達郎の曲もアメリカでは知られてないですか!?」
「知られてないだろうなー」
「日本では誰もが知ってるのに!」
「どんな曲なんだ?」
「クリスマスで雪が降りそうだけれど、恋人のあの子はデートに来る気配がなくて淋しいって曲です!」
「そんな陰気な曲が有名なのか……」
「逆にアメリカでは、なんの曲が有名なんですか?」
「マライア・キャリーとか」
「なるほど! マライア・キャリーですね! 名前くらいは知ってますよ! じゃあ明日は、マライア・キャリーの気分でいきましょう!」
「明日はもうクリスマス終わってるけどな」
「いいんです! イーサンさんも、明日は頑張りましょうね!」
「う、うん……」
完全に、神埼さんのペースに呑まれていた。
翌日。12月26日。
サンタさんの格好の神埼さんと、トナカイの角のカチューシャをつけた二宮さん。あと、イーサンさんもサンタの格好をしていた。
三人はアメリカモフモフセンターの前にた。サンタクロースの袋の中に大量のぬいぐるみを入れている。
そして。
「メリークリスマス!! はーいえぶりばでぃ! メリークリスマス! プレゼントあげます!」
と、堂々とモフモフセンター内に入っていく。
ちょうど入口のあたりに、昨日案内してくれたキャサリンさんがいた。
「キャサリンさん! メリークリスマスです! さっそくですけど、プレゼントのぬいぐるみです!」
「ぬいぐるみ? クリスマスは」
「皆さん、サンタさんの追跡が終わって疲れてると思います。それに、大人になるとサンタさんプレゼントくれなくなるじゃないですか。そういうのは淋しいです! というわけで、今日は皆さんにモフモフをプレゼントしたいです!」
「それは……素晴らしいですね! ぜひやりましょう!」
キャサリンさん、ノリがいい。
「あと、イーサンさんも協力してくれるそうですよ!」
「Wow! イーサン、あなたやるわね! 仕事熱心とは言えないバイトだと思ってたけれど、素晴らしいわ!」
「ど、どうも……」
「では皆さんの所に行きましょう!」
と、神埼さんはモフモフセンター内をあちこち回って、職員にプレゼントを渡していく。
モフモフ好きな人が多い施設なわけで。
「Fooo!!」
「Great!」
「Fantastic!!」
なんか熱烈な反応を受けている。終わってしまったクリスマスをみんな心から楽しんでいるようだ。
もちろん、彼らはイーサンにも感謝の言葉を惜しまなかった。
そして、モフモフセンターの全職員にぬいぐるみを配り終わった後に。
「はい! イーサンさんも! メリークリスマス!」
神埼さんは彼にもぬいぐるみをプレゼントした。サンタの帽子を被ったトナカイのぬいぐるみ。クリスマスが過ぎれば価値が無くなるもの。
それを。
「ありがとう……」
彼は大事そうに抱えた。
「どうですか? いっぱい感謝されて、どう思いました?」
「嬉しかった。心が温かくなったというか……幸せだった」
「ですよね! イーサンさんのおかげです!」
「いいや。君たちが全部考えたことで」
「そうですね。だったら今度からは、イーサンさんが自分で、誰かを幸せにする方法を考えてください。プレゼントじゃなくてもいいんです。親切にするとか、優しくするとか、気遣うとか……全部同じこと言ってる気がしますけど」
「でも、大事なことだ。イーサン。あんたはこれから、人のために生きろ。そして感謝されれば、とりあえず死にたくなることはなくなるだろ?」
「……そう、だね。うん。そうだ。ありがとう。ふたりとも、本当にありがとう」
イーサンさんは、ふたりに何度もお礼を言った。
「いやー。いいことすると気持ちが良いですね! アメリカでも、いいことって出来るんですね!」
「人の考えることなんて、どこの国でも変わらないのかもな」
「モフモフセンターが世界中どこにでもあるのと同じですね!」
「それはわからないけど」
モフモフセンターを出たふたりは、ニューヨークの街を歩く。ふたりとも、晴れやかな表情をしていた。
「ニューヨーク、人が大勢いますね」
「ああ」
「みんながみんな、誰かに親切にすれば、世界は平和になるんですよね!」
「まあ、そうだよな」
「わたしたちも、そういう人間になりましょう! 漫才で人を幸せにしながら、もっと親切とかも積極的にやれるタレントになりましょう!」
「志はいいけれど」
「世間からの好感度アップで、仕事もどんどん来るようになりますよ!」
「下心を見せるな。色々台無しだから」
「はーい! うぃーあー、もふもふおうこく! わっときゃんないどぅーふぉーゆー?」
「知らない人に話しかけるな! 困ってる人にだけ声をかけろ! いや言葉通じない相手にまで声をかけようとするな! まずは日本で、そういうことは始めろ!」
「でも! わたしたち世界に羽ばたきたいです!」
「日本から始めろ! 今は普通に観光してろ!」
「へい! へいがいず! うぃーあー、じゃぱにーずこめでぃあん!」
「だから! やめろ!」
通行人に手当たり次第に声をかけようとする神崎さんと、止める二宮さん。
どこに行っても、ふたりは変わらないな。
〈おしまい〉




