05_そんな感想抱くの、きっと貴方ぐらいよ
目の前には土下座をしたヴァンパイアがいる。
「そろそろ……姿勢戻してもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
ほっと一息ついて、ドルなんとかは姿勢を正し、玉座に深く腰を下ろし直す。
ふと足元の空っぽのワイングラスに気づき、それを拾い上げると──なぜか手すりに頬杖をつき、不敵な笑みを浮かべた。
いや、その雰囲気もう無理だよ?
ドペちゃんは相変わらず興味無さそうに空中に寝そべり、私のカバンをごそごそ漁っている。
やめてくれ。勝手に私物を使わないで。
改めてヴァンパイアに向き直ると、私は指を突きつけた。
「それで、なんで襲いかかってきたのよ」
しばし沈黙が場を包む。
なんで雷まで鳴り止んでるんだ。
誰か何か言ってくれ。私が変な事いってるみたいじゃないか。
「いや、それは、その、普通に不法侵入されたら追い出すだろう」
……。
「ごもっとも!」
ぐうの音も出ない正論。私が変な事を言っていた。
留守番してる子供が、家を守るために必死に戦うあの映画みたいだ。
……今回は不法侵入者側の勝利だから、完全にバッドエンドだな。
私が突きつけた指先は、行き場をなくし、くるくると宙を彷徨う。
これは、完全に! 私が悪い!
確かに勝手に入ったのは私。
ちゃんと玄関でインターホン押して、許可もらって入るべきだった。……インターホンあるのかな?
でも、とにかく不法侵入と言われればそれまで。
戦闘中の器物損壊はどっちのせい? これも私のせいになるのか。
これはもう、完全に私の負けパターンだ。
素直に非を受け入れよう。
「すいませんでした!」
両手を腿の上で揃え、深く頭を下げて謝罪する。
「良い。余もあわよくば眷属を増やせるかもと思っておったしな」
……ん? それはちょっと話が変わってくるぞ?
もし負けてたら私も化け物になったってことか?
ワンチャン狙われてたんじゃん!
「ドペちゃぁん、力貸して」
「やぁよ」
こちらを見もせずに拒否された。
それでもヴァンパイアにはある種の脅しになったようで、慌てて手も頭も横に振る。
「もう、そんな事は一切考えておらん! こんな凶暴な女は願い下げだ!」
おま、誰が凶暴女だ??
……。
こほん。お淑やかにお淑やかに。
「ところで、ドラクロさん」
「ドルグァスである」
「小さなマーブル模様の珠持ってないですか? 私、それが無いと帰れなくて」
少しの沈黙。
「これが望みか」
懐からビー玉サイズの珠を取り出すと、
親指と人差し指でつまみ、胸の前に掲げる。
黒と白がぐるぐると渦巻き、斑模様になった珠。
私が求める「願いの珠」に間違いなさそうだった。
「それです、それ! 貰えたり、しませんかね?」
「貴様はコレが何か理解しているのか?」
「願いを叶える珠、です、よね?」
ヴァンパイアの沈黙が続く。
回答間違えた? なんて言うのが正しかった?
ちょっと焦りが出てきた頃に
それは放物線を描き、私の手中に収まった。
何が起こったかわからず、キョトンと見上げる私。
「今の余の願いは、貴様がいなくなってくれることだ。それが叶うのなら、くれてやろう」
嘆息混じりに頭を振って、追い払うように手を振りかざす。
「ありがとうございます!」
「もう良い。はやく帰れ」
白と黒がぐるぐると渦巻く「願いの珠」。
それが私の手元にやってきた。
「やった! 今回も可愛い模様だね」
横からドペちゃんが覗き込んでくる。
「ふふっ、これを見てそんな感想抱くの、きっと貴方ぐらいよ」
「なんでよ。いいじゃん、これ」
「マイコちゃん、センスないから」
握りしめた「願いの珠」から光が溢れてくる。
指の隙間から光が漏れてきたかと思うとあっという間に視界を一面の光で埋めつくした。
「まずは、おうちに帰りたいという『願い』叶って良かったわね」
ドペちゃんの声だけが聞こえる。
「そして貴方の本当の願い──忘れないでね? 頑張って『願いの珠』を集めましょう」
私はこめかみに付けている白い花のヘアピンにそっと触れる。
「うん、それじゃあね、ドペちゃん!」
──また会いましょうね、マイコちゃん──
光の奔流が終わったころ、気がつけば私は通学路の途中に立っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
日はとっぷりと暮れ、星が夜空に広がっている。
ぽつぽつと街灯が立っており、夜道を照らす。
民家に添え付けられている古い自販機。日に焼けて色あせたポスターはいつまでもそのままだ。
正真正銘、私の住む町だ。
「やった! 帰ってこれた!」
一応夢かどうか……確認しておこう。
ほっぺをつまむ。
白い花のヘアピンに触れてみる。
黒いセーラー服の袖をそっと引っぱる。
黒い革の指定カバンも持っている。
そして──手のひらにはマーブル模様の小さな珠が。
これが、これだけが、私が異世界に行ってた証明。
ギュッと手の内に握りしめて、足早に自分の家を目指す。
ここは総合病院前だから、そこを曲がって、まっすぐ行って――
まばらに伸びた街路の植え込みが、夜風にざわりと揺れる。明滅する信号。遠くの車のエンジン音。アスファルトとコンクリートの匂い。やっぱりここは、私の知ってる世界。
そしていつもの慣れ親しんだ自分の家が目の前に。
間違いない。ちゃんと帰ってこれた。
台所の窓には明かりがついている。母さんがきっとそこに立っているだろう。
ようやく本当の意味で、身体が安堵しているのがわかる。
全身がくがくだ。早くベッドに転がりたい。
私は扉のノブをゆっくりと回す。
少し扉を開くと、家の中から漏れ出る温かな光が影とのコントラストを生む。
私はその中へ、軽やかに足を踏み入れた。
「ただいまー!!」
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