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友梨奈の初恋?!

友梨奈の身体は右腕を後ろに回し、中腰になってその場でゆっくり前に進むような動きをしている。

そういえば、あの日公園で友梨奈に説明してもらったことを麻由は思い出した。霊体で動いたとおりに本体の方も連動して動いてしまうことがあるらしい。そのせいでエアー綱引きをしてた、という目撃談も出ている。

僧侶風の男が怪訝そうな顔で友梨奈の姿と動きを見つめている。

「こ、これはね、霊体側で動いてる動作に合わせて、リアルな身体も同じ動きで反応しちゃうわけで、頭がおかしくなっちゃったとかじゃないのよ」

焦った表情で身振り手振りな感じで説明するあかね。まぁ頭がおかしいっていうと言い過ぎで墓穴を掘ってる感はあるけれど。そうで無くても友梨奈の動きはこの年寄りにとっては凄く都合が良い材料だろう。

予想通り、友梨奈の様子に対しニヤリとほくそ笑む僧侶風の男。

「どう見ても悪霊に取り憑かれた人間の動きだがな」

この男に限らず、人間のちっぽけな脳は、不可思議な事象に対して自分の都合が良い解釈を無理やり当てはめて安心したがるものだ。

その発言を聞いて、あかねは老人をキッと睨んだ後にぼそっとつぶやいた。

「くそじじい……」

その一言を聞いて麻由は、あかねに向かってその男には見えないように親指を立てる。


突き当たりのドアを開けると、煙で全体は見えないが広い空間が広がっている感じで、恐ら

くリビングだ。だとするときっと窓があってその外はバルコニーになってるに違いない。

もうこの子を連れてこれ以上うろうろする余裕は友梨奈には無いため、それは希望的観測を超えた祈りのようなものだった。

その時ガシャン、とガラスが割れる音が近くで響いた。

続いて複数の人が入って来たようなドタドタと言う足音が聞こえる。

「おーーい! 誰か部屋に残っていないか?」

煙が足音がした方向へサーーっと音をたてるように流れていく。きっと窓ガラスを割って人が入ってきて、そこから煙が抜けて行ってるに違いない。男の子の手を必死に引っ張って入ってきた人達の方に走る。でも屈んだ状態から急に駆け出したため足がもつれて左右に大きくよろめいて、結果勢いをつけた感じで消防士の人の腕の中に男の子と一緒に友梨奈もろともで飛び込んだ。

友梨奈の姿が見えない状態ではそれがどう映ってたのか分からないが、受け止めた人と隣に立ってる人の両方の消防士がしばらく固まってたから、きっとかなり不自然な動きにはなっていたのだろう。

すぐに我に帰り、声を張り上げる男の子を受け止めた方の消防士。

「リビングで幼児一名確保。早く酸素吸入と救急搬送を!」

その声を聞いて安心した友梨奈は意識が遠くなる中で男の子の声を耳元で微かに聞いた。

「お姉ちゃん、ありがとう……お姉ちゃん……。ねぇ、ママの声もお姉ちゃんの声みたいにいつか聴こえるようになるかな?」

心が通じればきっと聴こえるよ、と友梨奈は言いたかったが、男の子の手を完全に離したことで意識が遮断されてしまった。


突然あかねが友梨奈の身体の方にすたすたと近づいて行く。

そのタイミングにちょうど合わせたように友梨奈の瞳に生気が戻り、彼女はその場にぺたりとしゃがみこむ。

その様子を見て少しほっとしているように見える僧侶風の老人。

(うーーん、これはきっと私の気のせいだ。今までの言動からそんな優しい人の心を持ってるようには全く見えなかったし)

「なんと。悪霊に取り憑かれてあの世に行った後で無事に戻って来れたのか。運が良いことだ」

「あのね! 確かにちょっとあの世が見えかけたけども……。あ、わたしじゃなくてあの子が、ね。本当……助けられて良かった……」

ため息をつくように小さく息を吐き出して脱力して俯く友梨奈。

(そっか、今回もちゃんと助けられたんだね。さすが私の梨奈)

表情が乏しい、というか表情が無い友梨奈の顔が麻由には心なしか嬉しそうに見えた。

能力を使うと相当精神が疲れるとは聞いていたが、しゃがみ込んだ友梨奈はちょっとうとうとし出している。

「さすが梨奈ねーちゃん。今度もちゃんと助けられたね。あの子すごく喜んでたよ」

明るくはしゃぐあかねを目線だけで睨む友梨奈。

「もう! 簡単そうに行ってくれるけど毎回ギリなんだからね。そもそも火事だって分かってたんならもっと早めに情報よこしなさいよ」

「あと! あんたが来るたびに、あんたのママに、娘を連れ出すな、っていつも私が怒られてるんだから。今回で最後、もうこういうのでわたしのとこに来ないでよ!」

ノロノロと起き上がり、足元をふらふらよろつかせながらその場から離れていく友梨奈。

毎回今度が最後って言いながら、あかねが来ると手伝ってしまう友梨奈なのだが。

くちびるを突き出した不満げな顔で後を追いかけるあかね。

「ねぇ、梨奈ねーちゃん、こっそりやってればママなんかにはバレないからさー。また一緒に人助けしよ、ねぇってば」

(ママなんか、か。あかねちゃんも言い方!)

意図的じゃないだろうが、発する言葉がキツいのは友梨奈とあかね、従姉妹同士でなんか似てる。

友梨奈の場合は家に怖い教育係がいるから、言葉を間違えるとすぐに厳しい指導を受けることになるのだけれど。


朝の柔らかな陽射しがカーテンの隙間から漏れてきて友梨奈の顔を優しく照らしている。

外は爽やかな晴れの日みたいだが、朝から頭が重い。きっと昨日能力を使ったせいだ。

神通力ってどういう仕組みか全然わからないが、絶対これって健康に良くない気がする。

業務災害で補償して欲しいぐらいだが、逆に業務になんて絶対したくないし、そもそもどこの組織から依頼されている業務かも分からないから泣き寝入りするしかないだろう。

小学生に言うのもなんだけど、どうせ持ってくるなら今度からお互いWINWINの話にして欲しい。

頭が重いぐらいで碧が休ませてくれるはずはなく、ノロノロとベッドから起き上がり学校へ行く準備を始める友梨奈。


ある日の放課後、友梨奈と麻由の二人が並んで立っているのは全国展開しているイタリアンのファミレスチェーン店の入り口前。不満げな顔で隣の麻由の横顔を睨んでる友梨奈。

「ちょっと麻由! 普通御礼って言ったらオシャレなカフェでお茶とスイーツでしょ!」

「お、梨奈その表情いい! ちゃんと怒ってる感情伝わって来るよ」

友梨奈は個人的にはコスパが高いこの店が好きだが、今回は特別な労働の報酬だし、メインはスイーツの頭で来ているから、明らかに選択が違うと思う。

「まぁまぁ。正直ちょっと今月ピンチなのよ。いい話だったら後でまた追加で奢るからさ」

友梨奈の背中を押してファミレスの店内に進んで行く麻由。

いい話だったら、とはまだ麻由は話の内容に疑惑を持っているのが発言にモロに出ていた。

そのファミレスの店内。

友梨奈と麻由が向かい合って窓際のテーブルに座っている。

「さてと、なんか正直ちょっとテンション低いけど、亡霊さんとの思い出話を始めるね。あれはわたしが小五の時で……」

友梨奈の話の内容に入る前に、なぜこんな展開になっているのか説明が必要だろう。

発端は、その日いつものように昼休みに友梨奈のところにやって来た麻由から。

友梨奈についてある噂を聞きつけ、それを本人に直接確かめたかったらしい。

その噂とは友梨奈が中一の時、同じクラスの運動神経抜群の男子と良い感じだった、という本人もびっくりの内容だった。

ちなみにM中では一年から二年に進む時にクラス替えがあるため、今はその男子は別のクラスだ。

どこをどう間違えばあんな奴と良い感じだった説が出るのか、友梨奈には全く理解不能だった。

その男子とは小学校が一緒で、霊が視える友梨奈を散々からかってた連中の一人だった。

中学になってもしつこく絡んでくるので、ある日ムカついて体育の授業の100メートル走の計測でそいつに勝負を挑み、ぶっちぎりで勝ってやった、という話で、どこにも色っぽい要素が無い。

走るのが速かったり、運動神経の良さだけでモテていたタイプだったので、その後大分女子からの株を落としたらしくザマァって感じだ。

「その男子が梨奈にずっと絡んでた理由は大体分かるけど……」

ニヤニヤして友梨奈を見つめる麻由。

「にしても全然『普通』を目指してる人の所業じゃ無いよね。運動神経自慢の男子に勝つとか。何やってんだか」

痛いところを突かれ黙り込む友梨奈。

「その様子だとその男子とは何も進展してないよね。そもそもそんなんじゃ、梨奈って初恋もまだなんじゃ」

今度はすぐに反論する友梨奈。

「中学にもなって初恋まだのわけないでしょ! わたしの初恋はね、小五で出会った……亡霊さん、かな。その前にもきっとあったと思うけど記憶が無いからさ……」

麻由が目を丸くして口をポカンと開けて友梨奈を見つめている。

「え? 何それ? ぼうれい?」

興奮して少しボリュームが上がった麻由の声に周りの生徒達が反応し、耳をそばだてている。

「小学校の時は、まだ他人が見えないものが自分に見えてるってあんまり自覚してなくてさ……。そのせいで例の地縛霊の一件で酷い目に遭ったんだけど。小五の頃、朝登校途中の道で出会った子と知り合いになって、その子がね……」

周りの様子に気付いた麻由が右手を突き出して、友梨奈を制止した。

「ちょっと待って! なんか本当にあった話で意外に面白くなりそうだから、帰りにお茶でもしない?」

(なんか聞きようによってはわたしの話がいつもでまかせで、しかもつまらない前提な言い方にも聞こえるんだけど! これって被害妄想なのかな)

「なんか言い方が微妙に引っかかるけど……まぁいいわ。もちろんスイーツ付きで麻由の奢り

よね?」

「くっ、しょうがないわね……」

麻由の悔しそうな顔を見れたし、お茶とスイーツもゲットしたから、麻由の奇襲から始まった戦いは友梨奈の逆転勝利と言えるだろう。

その時ちょうど午後の始業のチャイムが鳴った。


ってことで、今二人はファミレスにいて、友梨奈がその初恋話を披露し始めたシーンに戻る。


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