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友梨奈 meets あかね

そもそも『普通』じゃない認定をされる原因になっている自分の能力を忌み嫌って、自らはそれを全く使おうとしていない友梨奈なのだが、現実には能力に関わる普通じゃ無い行動を取って、何度か他人にそれを目撃されてしまっている。その噂が巡り巡って麻由まで伝わって彼女に身バレしてしまったのだ。

なぜそんな矛盾が生じているのかというと、今帰宅しようと校舎の玄関から校門へ向かう友梨奈の視界に入って来ているランドセルを背負って校門の外に立っている少女のせいだ。


あれは中二の夏休み前頃の話。

その日の放課後、梅雨明け宣言されていないうちから30度超えの暑さでぼーーっとしながら校門に向かってダラダラ歩いていた時、いきなりどこかから声を掛けられた。

「梨奈ねーちゃん!」

そもそも学校では先生以外友梨奈の名前を呼ぶ人はいない。まして下の名前で気安く声をかけてくる人なんて存在するわけがない。

お姉さんってことは、まさか自分が知らないうちに生き別れしていた兄弟が存在していたとか、もしかすると両親は初婚じゃなくて、異母兄弟、異父兄弟なんてものが存在してたとか……。ぼっち生活で身に付いてしまった妄想癖を如何なく発揮する友梨奈。

妄想が正しいかどうかは置いておいて、想定外に名前を呼ばれてかなり動転してきょろきょろ辺りを見回すと、校門の外に小学生ぐらいの小さな女の子が立っていた。

背の高さもそうだが、ランドセルを背負っているから間違いなく小学生だろう。

わたしの名を呼ぶのが先生でも生徒でもなく、小学生?? 

凄いニコニコ顔で友梨奈を見ているが、なんかどっかで見たことある可愛い子だなぁ、ぐらいの印象で、友梨奈には誰だか心当たりが無かった。もしかするとテレビや動画配信で見た子だろうか。そんな有名人に知り合いなんているはずもないが。

友梨奈の怪訝な表情を見て、途端にその子の笑顔が消えジト目になった。

しばらく二人の間に沈黙があった後、友梨奈の脳の中で過去の記憶の中にあったある幼稚園児のイメージを元に小学生に成長させたモンタージュ写真が出来上がった。

「あーーー、あかね! 久しぶり!」

「……梨奈ねーちゃん、今の変な間って、わたしのこと完全に忘れてたよね?」

「そんな訳ないじゃん、いつの間にか大きくなってたから見違えてただけよーー」

苦しい言い訳のせいか、友梨奈は頬がピクピク引き攣るのを感じた。

「どーだか」

めっちゃふくれ顔をするあかね。この子は昔からどんな表情してても可愛い。

そう、三年ぶりぐらいでちょっと存在を忘れていたが、この子は従姉妹の木花あかね。

友梨奈の母親の妹の二番目の子供。

確か今小学四年生ぐらいだったはずだが、昔から目も鼻も口もちっちゃいパーツの作りがどれも可愛くて、トータルでも可愛いお人形みたいだ。

「で、どーしたの? 今日は急に」

「……ちょっと梨奈ねーちゃんに助けて欲しいことがあって。一緒に来て欲しいんだ」

「いいけど……。何? 宿題?」

ぼっちで引き篭もりのお蔭?で学習時間が充分に取れているので、友梨奈は学校の勉強は結構出来る方だ。この機会に従姉妹に良いとこを見せられる気がする。

「時間無いから、とりあえずついて来て」

否定も肯定もせず、ただ時間が無い、という返答。今だったらすぐに何の話しか察して断れた。しかし、この時はすたすたと早歩きで進んでいくあかねの動きに釣られて黙って大人しくついて行ってしまった。


しばらく歩いて二人は住宅街の全然人けが無い公園に着いた。

今時は子供が少ないし、色々禁止されちゃってるからこんな公園は多いみたいだ。

友梨奈は個人的には人混み、行列が大嫌いだから、少子化、人口減少大歓迎である。

住宅問題も無くなるし、空いた土地の有効活用で食料自給率も上がるんじゃないだろうか。

労働力不足はAI&ロボットに任せてしまえばいい。

公園ってことは一緒に遊んでっていう子供っぽい相談かなぁ、と能天気に考えてたその時の自分が愚か過ぎて恥ずかしい。

公園の一番奥、屋根のあるベンチに向かって一直線に進んでいくあかね。

その時友梨奈は、自分の目に視えたものにびっくりして立ち止まった。この頃の友梨奈は、気持ち悪い感じがする場所からは意図的に遠ざかっていたため、それを視る機会は全くと言っていいほど無くなっていた。

歩みを止めた友梨奈の反応を感じてあかねが振り返る。

「やっぱり梨奈ねーちゃんにも見えるんだね。リコおねーちゃんが言ってた。『梨奈ねーちゃんはわたしと同じ種類の力を持ってる』って。『小さい時から一族で最強レベルで、悲念の力だけじゃなく強力な慈念の力も使ってた』とも」

友梨奈には自分ではわからないが、能力が発動したその時の彼女の瞳は紅く染まっていて外見でもバレバレだったに違いない。

(それに今思い出したけど、そのセリフってこの子のお姉さん、リコがあの時のわたしに直接言ったやつだ)

「わたしの能力じゃ人が助けを呼ぶのが遠くから聴こえたり、姿が視えたりするだけなの。梨奈ねーちゃん、助けてあげて!」

(そういえば同じ時に、妹のあかねは自分より良く聴こえる耳とよく視える眼を持ってるってリコが言ってた、この子には腕だけじゃなく、助けを求めてる人のイメージが視えるんだよね、あんど、実はその能力に一度お世話になってたし)

あかねにはあの時友梨奈の能力の一部を実際に視られてしまっている。

ただあれは小学生の時で、やむなく使ったって言うか、弾みで発動したっていうか、とにかくあれ以降は能力は完全に封印していた。『普通』になるために。

「……。この能力は使いたくない。使っちゃいけないの……」

「なんで? 小さい女の子が車の中で暑くて死にそうなの! 梨奈ねーちゃんだったら、ここから意生身(いせいしん)でその子のところに行ってドアを開けて助けてあげられるでしょ!」

「……」

「梨奈ねーちゃん!」

友梨奈が嫌な感じがする場所からわざと遠ざかって、それが視界に入らないようにしていたのは……自分が視えていなければ他人の不幸を無いものに出来たから。

でも今は、助けを求めて虚空を必死に掴もうとしているような小さな子供の肘から先ぐらいの腕のイメージが、歪んだ空間から生えるように出現しているのが、友梨奈の紅い瞳にはっきり視えてしまっている。

実際に視てしまった上に、あかねにあんなに具体的に助けを呼んでる人のイメージを伝えられてしまっては、流石に他人事で逃げられない……。

感情表現をうまく出来なくなってはいるが、元々友梨奈は他人に感情移入しやすい性格をしていた。

ベンチのそばの歪んだ空間から現れている肘から先の小さい腕に向かってのろのろと進む友梨奈。

恐る恐る右手を伸ばし、出現した子供の手のビジョンに触れる。

友梨奈の能力は、生命の危機にある人が助けを呼ぶ腕のビジョンが離れたところから視えて、それに直接コンタクトする(具体的には開いた手を握る)ことで相手が実際にいる場所まで思考で成り立つ身体、六神通として伝えられるところによる『意生身』、で移動して助けることが出来る、より正確に言うと、助けられる時もある、というものだ。

友梨奈がわざわざ「時もある」と言い換えているのは、助けを呼んでいる人のところに直接行けても、JCにはどうにもならないシチェーションの場合も沢山あるためである。

例えば、自然災害、土砂崩れや地震で生き埋めになった人のところに直接行けても、友梨奈にはそこから助け出す手段がない。その人と一緒に生き埋めになるだけで、全く無駄な行為になってしまう。友梨奈自身は意生身のため窒息死したりすることがないだけだ。

フィクションの世界のヒーローキャラと違って、友梨奈には人々を救うための様々な超能力があるわけではない。

逆にデメリットとして、あかねには友梨奈が視えている子供の腕のビジョンが一緒に視えているからまだいいが、普通の人から見たら、『あの子何で一人でエアー握手ポーズ? 頭おかしいんじゃない?』と、悪い噂の原因になってしまう。


自分の右手を伸ばし、出現した子供の手のビジョンに触れる友梨奈。

ワクワク顔であかねがこちらを見つめてるのが視界のはじに視える。

(全く、今回は騙されてついて来たけど、二度目はまじで無いからね!)

最後にこの能力を使ったのは小五の時だ。

上手くいくかどうかまるで自信は無かった。

覚悟を決めて友梨奈が右手で小さな手をぎゅっと握った瞬間、身体がガタガタと震え意識が遠くなった。


目を開けると車の狭い車内、恐らく軽自動車の中だった。汗だくで真っ赤な顔をして、ゼーゼー苦しそうに呼吸をしている小さな女の子が後部座席に横たわっている。

その子の手を握った状態で友梨奈の霊体、意生身が車内に出現している。

嫌々来たものの、ちゃんと意生身で移動できてほっとする友梨奈。

サウナどころの暑さでは無い、呼吸で鼻と喉が焼けるような暑さを感じた。友梨奈は霊体で移動して来たため、呼吸はしていないし、身体の感覚は無いはずなのだが、繋いだ手を通じて女の子の感覚を共有しているのかもしれない。

あまりに苦しそうな女の子の様子を見た瞬間、心の中では涙が滝のように出そうなほど悲しくなった。

でもどんなに悲しい気持ちでも友梨奈の瞳から涙は一滴も出ていない……。

それはその時の友梨奈が霊体(意生身)だったから……ではなくて、小さい時に普通の感情の出し方を記憶と一緒に失くしてしまったからだ。

(きっと感情表現が乏し過ぎるのもクラスで浮いちゃう原因だろうな。喜怒哀楽を表にほとんど出さない人と話すのって、自分でも気持ち悪いと思うもの)

友梨奈は頭の中では喜怒哀楽がどんな感情かわかっているし、他人の気持ちにも感情移入出来ている、と思っている。でもそれは自分でそう思っているだけで、友梨奈が感じている喜怒哀楽は他の人とは違うかもしれない。

今は自分のことを考えている場合じゃない、頭を左右に激しく振って友梨奈は慌てて我に帰った。

「こんな酷いこと……。今すぐ出してあげるから」

後部座席のロックを外し、内側からドアを開け、女の子を抱き上げて外に運び出した。

駐車場の地面に寝かせたが、真っ赤な顔をして汗を大量に流し、息絶え絶えで苦しそうな女の子の様子が変わらない。

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