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わたしが守るから

友梨奈の家の玄関を二人が出ると、碧の言う通り大分あたりは薄暗くなっていて、街灯が点

き始めていた。

麻由は自分の家の方向を指し示し、それを見た友梨奈が先頭で歩き出す。

今日から友達になった設定の二人だが、共通の話題はまだ何も無いため、二人ともただ無言で歩き続ける。そのうち進行方向の右手に公園が見えてきた。

そこで急に立ち止まった友梨奈は公園の中をじっと見つめている。

その後小さくため息を吐いて、麻由の方に振り向き声をかける。

「中瀬さん」

その一言を聞いた瞬間カチーンと来て、麻由は頬を膨らませた怒り顔で猛然と友梨奈に向かって近寄る。

迫って来る麻由の顔と勢いにたじろぐ友梨奈。

「中瀬さんじゃ無くて麻由! 名前呼びしてくれないと次から反応しないからね」

この時の友梨奈は、なぜ麻由がこんなリアクションしてくるのか理解不能だったに違いない。

戸惑った様子で友梨奈は自分のセリフを言い直した。

「……麻由、わたしそろそろ碧さんの家事の手伝いしなきゃだから、ここで家に戻るね。ここからはもうそんなに距離無いけど気をつけて帰って」

「……わかった。梨奈も気をつけて」

わかったって言ったのは、友梨奈が何かを隠して麻由をこの場から遠ざけようとしてる、ってこと。

それを突き止めるには一旦帰るふりをしないとダメだ。

友梨奈の様子が変になったのは公園の中を見てからだから、しばらく真っ直ぐ進んでから次の角で曲がるふりをして隠れ、後ろの様子を確認して、友梨奈が見てなかったらダッシュで公園まで戻るのだ。

プラン通り次の角で曲がるフリをして隠れてこっそり後ろを確認すると、友梨奈はすぐに公園に入ったらしく通りには既に姿が無かった。

即ダッシュで公園に向かう麻由。


友梨奈に見つからないように屈んだ姿勢でこそこそと公園の中に入ると、奥のベンチの側に

彼女が立っているのが見えた。

これがもしおっさんだったら、この行動は明らかに変質者だし警察に通報される案件だろう。

制服を着た女子中学生で良かった。

まぁJCでも充分にこの行動は怪しいのだけれど。

目を凝らして見ると、友梨奈の瞳は紅く染まっていて放心状態で腕を前に突き出した体勢のままで立っている。

この紅い瞳。あの時の少女の瞳を思い出す。

多分これが学校でエアー握手してるって噂されてたやつなのだろう。

あの時麻由の隣に突然あの子が手を繋いで現れたのも、これに関係あるのかもしれない。

あぁやって離れた場所に行くのは何か制限とかあるのだろうか。

人助けの邪魔をしてはいけないから、麻由は友梨奈が戻ってくるまでここで大人しく待つことにしたのだが、こうやって薄暗い公園で放心状態で立っている友梨奈の姿はとても無防備な感じがして心配になってきた。



感覚的には随分長く時間が経った気がしたが、スマホの画面を見るとまだ五分ぐらいしか経っていなかった。

腕を前に出して握手しているような状態で立っている友梨奈が二度、三度まばたきをして、瞳に生気が戻ったように見えた。

彼女は頬を手の甲で何度か拭う仕草をした。

涙を拭う仕草に似ているが、実際に涙は出ていない。

ほっとしたように息を吐きながら顔を下げて視線も下がった時、ようやく自分の身体に巻き付いた他人の腕があることに気づいた友梨奈。

端的に言うと、麻由が友梨奈の背後から抱きしめていたということである。

(なんか無防備過ぎる姿を見てたら放っておけなくなって、思わず、ね。別にその気があるわけじゃないのよ)

「ちょっと、麻由! こんなとこで何やってるのよ!?」

動揺してる割に今度はちゃんと名前呼び出来た友梨奈。麻由は友梨奈によしよししたい気持ちで一杯になった。

「それはこっちのセリフよ。女の子がこんな暗い公園に身体を置きっぱにしちゃダメでしょ!」

「……うん、まぁそれは前から気にはなってたんだけどね……意識が無い自分の身体の置きっぱ……」

無理矢理友達になった初日に無断で抱きしめるなんてかなり傍若無人な行動過ぎたが、友梨奈が素直に認めてくれて助かった。

麻由にとってこれが碧と約束したことの実行第一弾だ。

友梨奈の身体を強引に振り返らせて顔と顔を近づける。

「今度からわたしが一緒にいる時だけ能力を使うこと、わかった? わたしが梨奈の身体を守るから」

「んーー、なんかさ、色々今日初対面の人に言われるセリフじゃない気がするんだけど、なんか嬉しくて泣きそうになるじゃない……」

ぎこちない笑顔を浮かべ、紅い瞳で麻由を見つめる友梨奈。

「でも、そもそもこんな能力は二度と使いたくないんだってば。『普通』のJC生活が出来るようになる能力を教えてよ、麻由」

公園の街頭の薄明かりの中、二人は笑顔で見つめ合った。


(うーーん、なんかこれはこれでわたしの描写に納得いかないとこはあるんだけど、麻由が満

足気にしてるから今は突っ込まずにおこう)

麻由が友梨奈の能力に理解がある理由、あの日以来そばで色々気を遣ってくる理由が今さらだがよくわかった。

そういえばあの時は色々動転してたこともあって直接本人には言わなかったが、大きくて弾力がある心地いいものが背中に当たっているのをずっと感じていた。

ビジュアルが良くて手足長くて出るとこ出てるなんてまるでモテるために生まれてきたようだ。

友梨奈には周りが引くような変な能力しかくれないなんて、神様はあまりに不公平だと思う。

その時麻由が妙に友梨奈の顔を優しげな眼差しで見つめてくる。

「何?」

「梨奈だって愛想無いだけで可愛いしスタイル良いじゃん。身長差ぐらいだよ、違いは」

友梨奈も身長158センチで決して低くはないのだが、麻由が中二で170センチ近い長身のため並ぶと差が大き過ぎて、他の印象は何も残らなくなってしまう。

いや、今はそんなことより確認すべき大事なことが友梨奈にはある。

「え? 何? まさか……また?」

「うん……。声に出てた」

ああああ………

友梨奈は頭を掻きむしり髪をぐちゃぐちゃにしながらしばらくゴロゴロと転がって悶絶した後、俯いたままバッテリーが切れたように動かなくなった。

麻由が心配になって声をかけようとした瞬間、友梨奈はおもむろに起き上がって走って逃げ出す。

意表をつかれ、ただただボー然と遠ざかって行く友梨奈の背中を見つめ立ち尽くす麻由。

「ある意味、感情表現めちゃくちゃ出来てるじゃん……」


逃げ出したのはいいものの、昼休みはどこも人が多くて、校内に落ち着けるような行き場は

なく、やむなく教室の自席に戻った友梨奈。

幸い麻由はあの後追いかけて来ていないようだった。

麻由とは友達歴たった数日だが、短い間に黒歴史が次々と積み重なっていく。

(ぼっち歴=年齢の陰キャなわたしにあんな派手な陽キャの友達はいきなりハードル高過ぎたんだ。そもそも彼女が友達な時点で『普通』じゃ無くなっちゃうし)

何とか自然と距離を取って離れる手はないだろうか、と考えてみる。

そもそも自分から友達になろうとしたわけじゃないし、近づいていってるわけでもないから、基本的に向こうが来るのから逃げなきゃいけない。

そうなるとどうしても不自然な動きになるし、あの派手キャラに追いかけられたら、それこそ校内で目立ってしまう。

ただでさえ不人気なのに、あの麻由から逃げるなんて、特に男子からの顰蹙は半端なさそうだ。

『普通』に生きていくビジョンがガラガラと瓦解していくのを感じる。

実際はこれまで『普通』に生きてこれたことなんて全くないのだが、それだけ友達が出来たことが友梨奈にとって特殊なことに感じてしまったのだろう。一般的な概念から見れば、友達がいる方が『普通』と見做されるはずだ。

とりあえず今日の下校の時はベルダッシュで素早く帰って麻由を振り切ろうと友梨奈は心に誓った。


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