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あかねのリュックの中身

アレがただの鑑賞用の骨董品じゃないことに気付いたのは、麻由とあかねの会話からだった。

麻由は木花家に伝わる能力に異常に関心を持ってるから、事あるごとにあかねに質問するのだ。まぁ友梨奈が能力について何も言わないから、諦めてあかねに聞きに行ったっていうのが正確な経緯ではある。正直なところ他人に説明出来るほど友梨奈は能力のことなんて良く知らないし、そもそも関心も全くない。自分が他の人と違うことを明確に理解するほど『普通』から遠ざかっていく気になってしまうから。

あの時も目をキラキラさせてあかねを見つめていた麻由。そんな時は彼女が質問攻めをする時だ。

「ねぇ、よくあかねちゃん達が言ってる『ひねんの力』ってどういう力なの?」

「漢字で書くと、ひねんの力って『悲念』って書いて」

落ちていた木の枝を拾って地面に『悲念』と二文字を書くあかね。

「助けを求めてる人を助けられる力なんだって。もう一つのじねんの力は『慈念』って書いて」

同じ様に地面に『慈念』と書く。

「人が助けを求めていなくても救える力なんだって。仏像でも右手を挙げているものと左手を挙げているものがあって、拝むものを救うものと、拝まなくても救うものの違いがあるんだって。大昔木花家には不空羂索観音の能力が授けられたって言い伝えられていて、同じように右手は悲念の手、左手は慈念の手と言って、それぞれの力が宿るとは言われてるんだけど……」

「だけど?……何? あかねちゃん?」

「助けを求めてもいない人を救えるような強力な力が発現した例は木花家の記録には残ってない……みたい」

「そっか、まぁ人は神様じゃないものね。場合によってはそんなの助けても余計なお世話かもしれないし。自分でそれを選んだ人とか……」

「でも自分の目前に死が迫っているのに気付いてない人もいるから、あったら良いなとは思う」

「うーーん、確かに。老衰以外は突然やってくるのが死だもんね。最近ではブレーキとアクセルを踏み間違えてるような車が、歩道や店舗に突っ込んでくるようなこともよく起きてるし」

「……でさ、梨奈は両方の能力を発揮して史上最強の能力者って言われてたんでしょ?」

「うん、それは昔わたしのお姉ちゃんがそう言ってた。多分親戚の人とかから聞いたんだと思うけど。わたしもお姉ちゃんも実際に視たわけじゃないから」

「それってさ、どういうことが出来たって言われてるの?」

あかねがちらちらと友梨奈の方を見て様子をうかがっている。きっと友梨奈が怒るのを警戒しているのだろう。別に誇張されたり変に歪められた噂には小さい頃から慣れっこだから、今さらそんなことであかねを怒ったりはしない。

「八本の腕を操って大勢の人を一度に助けたとか……」

(ちょっと待てい! いきなりわたし人外の存在になっちゃってるじゃん。それは不空羂索観音像の姿であって、人間がまんまそうなるわけじゃないでしょうに。変形型ロボットでもあまりの変化にびっくりだわ)

「なんか凄そうだけど、もうちょっとリアリティのある目撃談ない?」

「そうかな。有り得そうなやつだと思ったんだけど」

(……って、おい!) 

あかねが友梨奈をどう見てるのかがなんとなくわかってきた。だから過酷な状況の人助けを友梨奈のところに平然と持ってくるのだろう。一度厳しい教育的指導が必要だ。

「じゃあ、観音菩薩の持物(じもつ)を使って難しい状況を打開して多くの人を一度に助けた、って話は?」

「あかね、そっちを先に言いなさいよ!」

つい二人の会話に割って入ってしまった。今のあかねの話が超気になったこともあり、友梨奈は抑えが効かなかった。

(それってまさか)

「その持物って、うちの瞑想の間に置いてあるやつなんじゃない? あれってただの骨董品じゃなくて実用性があるってこと?」

「え、えっと、わかんないよ。実際に使われてるの見たことないし……」

急に会話に割り込んだのが原因だとしても、ちょっとあかねの狼狽え方が普通じゃない。視線を合わせないし、スカートの裾をギュッと握ってる動作も怪しい。

(てか、前にこの子わたしが持物を使えるとかどうとか言ってなかったっけ?)

「そんだけ知っててリコちゃんとあかねが実際に使ってみようとしないなんて有り得ないわよね? あれだけ人助けに一所懸命だったんだから」

下唇を噛んでぷるぷる震えてるあかね。よしよしもうすぐ落ちてゲロしそうだ。

「ちょっと梨奈、あかねちゃんを虐めないでよ」

想定外の麻由からの助け船が入って、友梨奈はそれ以上追及出来なくなってしまった。もうちょっとだったのに、あかね大好きの麻由の行動予測が甘かった。

「今の話だったら碧さんに直接聞けば良いじゃん。絶対一番詳しいよ」

麻由の言うことは至極真っ当でほんとおっしゃるとおりなのだが、友梨奈には木花家の能力の話題で碧が素直に教えてくれる気が全くしなかった、実際これまでも話を逸らして誤魔化されてきたことが何度もあったのだ。ただ友梨奈自身もあまり能力に関心が無く、真剣に知ろうとしていなかったからお互い様なのかもしれない。そもそも友梨奈は碧が子供の頃から苦手だった。麻由は最初から妙にリスペクトしているので、逆に話したくてしょうがないのだろう。

あの時ハッキリとしたあかねの自白は取れなかったけれど、リコとあかねが持物を持ち出して使おうとしていたことはほぼ間違いない。その前提で考えるとあかねが時々背負ってるリュックが超怪しい。



ここでさっきのあかねへの呼びかけに繋がっていく。

「今日リュック持ってたわよね。その中にあの投げ縄みたいなやつ、羂索?が入ってるんじゃない? だったら早くわたしの左手に持たせて」

「……でも、でも、これ使ってあの日お姉ちゃんは帰って来なかった……」

泣きそうなあかねの声が頭の中で聴こえる。

(だからあの時正直に答えなかったし、持って来てても実際に出したりしなかったのか)

「あのさ、もうこの人掴んでるだけで力の限界近付いて来てるから、どっちにしろ選択肢ないのよ。いちかばちか残りの力で投げ縄みたいな羂索をビューっと投げて、子供をぐるぐるっと巻いて助けるしか」

自分で言ってて凄く楽観的であまりにも嘘臭く聞こえてしまう。一度も練習すらしてないのにそんなアニメやマンガみたいに上手く行けば良いけれど。ま、ここまできたらダメ元でやってみるしかない。

「……霊体で移動した先で、もし霊力を全部使い果たすと、霊体が元の身体に戻れずに肉体的に死んじゃうか、霊体と身体が両方とも途中の亜空間みたいなとこに取り込まれて、この次元に戻れなくなっちゃう、って昔から言われてるんだよ!」

(ちょ、なにそれ!? あかね、このタイミングでそんな重大なリスク事項突然言い出さないでよ)

その究極の選択みたいなリスク案件は、普通一番最初に能力を使う前に、本人の意思確認する場で告知すべき内容のはずだ。命の危険がありますが、あなたはそれでも能力を使いますか?って、いう感じか。散々使っちゃってから、後出しで言うのは反則以外の何ものでもない。消費者センターとかに訴えるべきレベルの話である。

そもそも人間が神に通じる力、神通力なんて使えること自体、話が怪しいとは思っていた。何かを犠牲にしない限り、そんなの与えられるわけはないし、人の身で使うリスクはかなり大きいはずだったのに……。『普通』を言い訳にして、自分の能力の詳細を知りたくなくて、ずっと現実逃避していたのだ。

既に両親やリコを失っているのは、きっとそういうことが原因だったはずなのに。

『普通』のJCならこんな時どんな選択をするのだろうか。こんなシチュエーションに追い込まれてること自体、既に『普通』じゃないのだけれど。

「あかね、いいからわたしに羂索ちょうだい。二人でこの人の子供助けるよ」

「二人で?」

「初めて使うのに適当に羂索投げても無駄だからさ、あなたの良く視える眼と良く聴こえる耳ならきっと男の子の位置を見つけ出せるでしょ?」

「うん、お姉ちゃん。わたし絶対見つけるよ!」

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