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STUDY ME ―神通力女子 meets 地縛霊男子― その4

友梨奈はリコたちと別れてすぐ慌てて家に帰った。

碧に霊のことを色々教えてもらわなければ。玄関で靴を脱ぎ、斜め前のドアを開けてダイニングキッチンに駆け込むがそこには碧の姿が無い。

「おば、碧さんーー! どこーー、聞きたいことがあるの」

「何? 帰ってくるなり大きな声出して。瞑想の間に居るわよ」

言われて声の大きさを下げる友梨奈。

「じゃあ今からそっち行くから待ってて」

実は瞑想の間は玄関から一番離れた家の奥にあって、目的上防音っぽい作りになっているため多少の大きな声じゃ届かないし、聞こえないはずなのである。

それを玄関に一番近いダイニングキッチンのところで会話出来てるのが『普通』じゃない。

日常的に碧の能力に晒されると感覚がおかしくなっていたのだろうか。他人に話すと色々気付くことが出てくるものだ。

「ってかさ、これって梨奈も碧さんと音声以外で会話してるよね、気づいてる?」

「え? ちょっと待って、何言ってんのよ麻由」

そういえば、碧の声はなぜ友梨奈に届いているのか、今まで考えたことが無かった。

これまでも瞑想の間にいる碧と会話したことは時々あったが、碧が大声を出していた記憶は無い。普通の音量で友梨奈には届いていたし、友梨奈も普通の音量で話していたように思う。

(もう、麻由のせいでどんどん『普通』から遠ざかって行くし……、あー分かってるわよ、逆恨みだってのは)

「さっきリコちゃんとあかねちゃんが来てたでしょ。三人で何企んでるの?」

あの二人は友梨奈の家のそばまで来ただけで家には寄ってないはずだ。家の外の様子まで把握しているとは碧の能力は異常だ。

これに比べれば自分がまだ『普通』に思えてしまうのは仕方がないと友梨奈は思う。

「別に何も。それよりさー、昨日聞いた霊の話で教えて欲しいことがあるの」

瞑想の間に着いて襖を開けると窓が無い蝋燭一本の薄暗い部屋の中に正座して座ってる碧の後ろ姿があった。

さっきまでの会話は全て部屋に着くまでに成立していたのだが、もう変なとこに全部ツッコミ&説明すると時間がいくらあっても足りないからこの後はスルーしていくことにする。

麻由なら碧の変なところは経験済みだから、その辺飛ばしてもモヤモヤはしないだろう。

「生き霊君の話ね。梨奈が心配だったから今日実物をちょっと確認しに行ったのよ」

「え? そうなんだ」

「梨奈に対して出てるものだと危ないしね。でも予想通り危険なものじゃ無かったわ」

「……」

友梨奈はしばらく次の言葉を待っていたが、一分以上沈黙が続いている。どうやら碧としては以上で話は終わりのつもりだったらしい。

「そうじゃなくて! 聞きたいのはその子を元の身体に戻してあげたいんだけど、どうすればいい?」

友梨奈に背を向けていた碧が素早く振り返り、目を丸くして友梨奈を見つめている。

「……梨奈がそういうのに積極的に関わろうとするなんて、珍しいこともあるわね……。その子に会ったのって一昨日ぐらいだった?」

朝の登校時を思い出していつから霊を視たか確認する。今朝で3回目だったはずだ。

「うん、確かその前には居なかったよ」

「色んな条件次第だけど、身体と魂が離れていられるのって、三、四日ぐらいが限度だから、そろそろ戻らないと、か……」

「戻らないとどうなるの?」

「魂が無い状態が長く続くと肉体が先に死んで、魂の帰る場所がなくなって本当に死んじゃうわね」

「え? 死んじゃうの?」

霊自体が死とは縁遠いと言うか、そもそも一般的には死んでから出るとされているものだから、どうもこれから先の死と合わせて連想しにくい。

「ええ。強制的に戻す方法はあるけど、どうして魂が身体から離れたかの原因を解決しないと本当に助けたことにはならないんじゃない? 少なくとも本人が納得して戻らないと」

小学生相手に要求が高度過ぎる、と友梨奈は思った。

「でもあいつ全然記憶無いし……」

「今記憶が無くても答えはその子の中にきっとあると思うわ。もしタイムリミットが来て生命が危ない状態になったら霊体のほうにも何か影響が出てくるから。本当にその子を助けたいと思うなら、そのギリギリの時まで頑張ってみなさい」

「うん……」



「碧さんっていつも何でも悟ってる感じでやっぱかっこいいね」

麻由が瞳をキラキラさせて語っている。どうも彼女は最初の頃から全肯定碧推しのところがある。

「この時わたし小五だからさ、謎に謎で返す的な難しい課題出されても困っちゃうわけよ」

「でもさ、その霊って地縛霊じゃ無いんだし、もし梨奈に対して出たんじゃないのなら、梨奈の周辺に出過ぎな感じがするんだけど……」

「一つは、やっぱわたしの能力にちょっと関連してるんだけど、最初に霊に会ったあの場所ってあかねがよくエンカウントポイントって呼んでる、時空の歪みが発生して亜空間を通して2点間の場が繋がりやすくなってた場所だったんだよね。もう一つはこの話のテーマに関わることなんだけど……」

「テーマってマジ? ようやく初恋の甘酸っぱさが香る恋バナ要素出てくるのかな?」

麻由の期待値がどれぐらいかわからないが、一応最初にそういう売り込みだったから。



碧と話した後、モヤモヤした気持ちで友梨奈は自分の部屋に行った。

「もう、おばあちゃん、あの子を戻す方法だけパパッと教えてくれればいいのに。本当に助けるって何なのよ、訳わかんない」

「やっぱリコちゃん達に任せちゃおうかな……。そもそも、なんであの時止めようとしちゃったんだろう」

ベッドの上に寝転がりながら、根性無しな友梨奈は半ば諦めモードに入っていた。

その時部屋の窓の外でやっと聞こえるぐらいの小さな叫びが聞こえてきた。

「ぎゃ……」

閑静な住宅街の夜、部屋で音楽も何もかけていなかったから、やっと聞こえたボリュームの声だ。

声が聞こえたほうの窓を開けて外を見てみると、あいつがうちの庭の上で倒れていた。

どうやら二階の友梨奈の部屋に窓から来ようとして、碧が張ってる結界に遮られたらしい。

(あのバカ、来るなって言ったのに)

身体に帰す前に祓われてあの世に行っちゃったらと思うと、巻き込まれただけの案件でもしばらく夢見が悪くなる気がする。


急いで下に降りてサンダルを履いて庭に出てみると、あいつは倒れた姿勢から上半身を起こそうとしていた。

最悪な事態は免れたみたいで良かった。

「もう! だから来ないで、って言っといたでしょ。おばあちゃんの結界に触れたんだよ、危ないな、まったく」

思わず地面に付いた背中をはたいて綺麗にしてあげようとしたが、霊だからか叩いた背中には何も付いていなかった。

「悪かったよ。約束を破るつもりは無かったんだけど、つい来ちゃってた」

意外と普通に謝ったので、カッとして怒りモードで来た友梨奈は肩透かしを食って怒れなくなった。

「とにかく、ここにいると結界の影響受けちゃうからすぐに離れるよ」

生き霊の男の子の手を取ってダッシュで駆け出す友梨奈。



住宅街の中の公園に駆け込んだ二人。ゼーゼー息を切らせてしゃがみ込んでいる友梨奈。

そのそばで普通の様子で立っている生き霊の男の子。自分の手を掴んでいる友梨奈の手をじっと見つめている。

「え、何?」

改めてまじまじと繋いでる手を見られると、友梨奈は男子と手を繋いでるという事実が恥ずかしくなってきてしまって慌ててパッと手を離した。

「いや、なんでも。それよりさっきは悪ぃ。約束を破るつもりは本当に無かったんだけど、あの後思い出したことと気づいたことがあったから、つい来ちゃって」

「ふーん。……で、なんなの、その思い出したことと気づいたことって」

魂が身体から離れた原因がわかる情報かもしれないし、さっきまでの怒りを忘れてちょっとワクワクしてたのだが、あいつはずっと俯き加減でなかなか話そうとしない。

「ちょっとぉ、タイムリミットあるんだから、焦らさないで早く教えてよ」

思わずそのことを口走ってしまっていた。こいつを不安にさせるだけかもしれないが、重要な情報を早めに教えておかないのも良くないだろう。

「何だよ、そのタイムリミットって」

「魂が身体から長く離れてるとそのうち身体のほうが先に死んじゃうんだって。そのタイムリミットよ」

「それってあとどれぐらい?」

「正確にはわかんない。おばあちゃんは普通三、四日って言ってたけど」

「それだともうほとんど時間が……」

顔に焦りの色がモロ出になっている生き霊の男の子。自分の命がかかっているのだから当然だ。フォローになるかどうかは分からなかったが、もう一つの情報も伝える事にする。

「一応タイムリミットが近づくと魂のほうでも変化があって分かるらしいよ。何か感じたりしてない?」

「今んとこ何とも無いから、すぐじゃ無さそうだな。良かった……気づいたことの確認も大体出来たし、こうなった理由も大体思い出したし、ちょっと自信出た」

すぐじゃ無いのは良いけれど、まだ友梨奈的には何にも解決に向けて前進していない。

しかも、こいつはまださっき言ってた重要そうな情報を話さずに、なんか考え込んでしまっている。

「明日さ……」

「明日??」

(何それ、まさか今日は話さないなんていう気じゃ)

「明日の朝いつもの場所で待ってるから」

「ちょ、さっき言ってた思い出したこととか気づいたことは?」

「朝のほうが良いんだ。きっと日が昇ってたほうが」

(何言ってるんだか全く意味不明なんだけど)

「それじゃ、明日な」

って本当に何にも言わずに去りやがった。


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