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STUDY ME ―神通力女子 meets 地縛霊男子― その2

地縛霊じゃなくて生き霊というものらしい、となんとなく正体が分かっても、友梨奈の登校途中の問題の解決策には全くならなかった。

そいつが居る場所を避けて大回りして学校へ行く手もあったのだが、自分が悪いわけでもなんでもないのに友梨奈がそんな大損をするのは納得できず、結局通常ルートで立ち向かった。

目を合わせないように俯き加減で現場に近づくと、警戒していた口撃は全然来なかった。

恐る恐る少し顔を上げ、前方に視線を送ると、生き霊の男の子は道の真ん中にしゃがんで何かを必死に捕まえようとしている。

その子の手元を覗き込むと小さいクワガタムシ、多分コクワガタがのそのそと動いている。

「何やってんの?」

(あんだけしつこく絡んできてたくせして、わたしへの関心は虫以下かい……。全く、だからお子ちゃまな男子には関わりたくないのよ)

「こいつが道の真ん中で人とか車に轢かれそうだからどかそうとしてんだけど……。上手くいかなくて」

ようやく顔を上げて友梨奈の顔を見つめる生き霊の子。気のせいか昨日までの憎たらしい顔つきじゃなくなっている。

「あのさ……。昨日は……その、悪……」

「バカね。霊のあなたが現実の物に触れるわけないじゃない」

横から手を伸ばし、コクワガタを親指と人差し指で掴んで道端の街路樹に捕まらせると、友梨奈はさっさとその場を離れて学校へ向かった。

なんか背後に視線を感じたが、その後そいつが友梨奈を追っかけてくるなんてことは……あった。

(昆虫以下の関心しかないくせに、なんでまた?!)

必死の全速力で逃げ、学校の校門に着いた時には息がぜーぜー切れてしゃがみ込む。

「なんなのよ、あいつ。代わりに昆虫助けてあげたのに……怒って追いかけて来るなんて。意味不過ぎる」

校門に立っている二人の先生が友梨奈を不思議そうに眺めている。

時間的に全然遅刻ではないのに一人で必死に走って来て息をゼーゼー切らせてる生徒は謎でしかないだろう。

下手に職務質問されると説明が面倒なので、慌てて多少ふらつきながらその場を離れ校舎に向かって歩いて行く。

途中こっそり振り返って後ろを確認するが、生き霊の子の姿は視界に入らず、とりあえずほっとする。

流石に校門に先生が立ってるし、知らない学校の中は入りにくいという友梨奈の説は当たっているようだ。

校舎に入ってからは後ろを振り向かず安心してゆっくり教室に向かった。

その判断は結果的に不正解だったのが後でわかったのだが。



当時の友梨奈のクラスは五年四組。

はい、麻由の想像通りですよ、あの時も窓際の一番後ろの席に座ってました。

くじ運良いのもあるけど、ハズレた時も周りがなんか代わってくれるんだよね。

ちょっと、なんでまたハンカチで目頭押さえてるのよ、麻由!

あの時の授業の内容は流石に記憶が無いので、友梨奈が好きだった宮沢賢治の詩の内容を習っている国語の授業、という設定にしておく。

そういえば小学校の先生は一人でなんでも教えるから凄い。

しかも大勢の分別の無い小さいガキンチョ達の面倒も同時にみなければならない。

ほんと尊敬。

ちょ、麻由! 何その険しい顔と冷たい視線は。これは脱線じゃ無いでしょーー、少しは自由に話させてよ。

教壇では小五の時の鈴原先生が黒板に宮沢賢治の有名な詩を書きながら内容を説明してる。

その時、友梨奈の席の真横の窓が突然何かに叩かれたようにパンパンと小さな音を発した。

友梨奈の目には、あの生き霊の男の子が外から窓を両手のひらで思いっきり叩いているのが視えている。

「人を霊扱いした仕返しだからなー―。お前の授業の邪魔してやる」

「……ここ3階の窓だから。外から窓を叩きに来れる時点で自分が普通じゃないってすぐ気付きなさいよ、ったく……」

本人は顔を真っ赤にして(そういや霊って顔の色変わるのだろうか? 表情が必死だったからそう見えた気がしただけかもしれない)全力で叩いてる風なのだが、霊だけに現実に関与出来る物理的なパワーはあまり無いようだ。

「なんか風かしら。校庭の木は全く揺れてないのに不思議ね……。もし窓が割れて破片が中に飛ぶと危ないから念のためカーテン閉めときましょう。木花さん、お願い」

鈴原先生の指示で窓のカーテンを閉めたが、まだカーテンを通してあいつが窓をパンパン軽く叩く音が響いている。

その後流石に疲れたのか(生き霊というものが疲れを感じるのかは分からなかったが)授業が終わる頃には静かになっていた。



「ちょっと、梨奈。この話って小五の時のことだって、確か言ってたよね?」

自分の席の横の窓を不安そうに見つめる麻由。

「うん、最初からそう言ってるじゃん。なんで?」

「だって、さっき窓で似たような音が……」

「あぁ、そうね。まぁそういうこともあるんじゃない? 怪談話してたら蝋燭の火が突然消えた、とか、偶然起こった現象で話が盛り上がる、的なの」

「いや、その例え全然偶然っぽくなくて逆に怖いんだけど」

繰り返し窓の外に視線を送る麻由。ニヤリと笑みを浮かべる友梨奈。正確には笑みを浮かべようとして口角を上げているが笑みというよりは顔が引き攣った感じになっている。

「これは怪談話なんかじゃないってば。先進めるね」

「霊が出てる時点で内容はともかく怪談系でしょ……」

また不安げな顔で窓の外を見つめる麻由。

相手が弱ってる時が要求を飲ませるチャンスだ。

「麻由――、デザート無くなっちゃったから追加していい?」

と言いながら、もう既にメニューを念入りにチェックしている友梨奈。

ジト目の麻由から攻撃的な視線を感じる。

「なんかさ、甘酸っぱい初恋の話を期待してたんだけど、全然そういう要素無くなくない?」

ぎくっ!! 

ちなみにこの擬音は友梨奈が好きな宮沢賢治も使っていたくらい歴史のある表現だ。

まぁ元々麻由を追っ払うために勢いで言ってしまったセリフから始まって、苦し紛れの流れの中で思い出したエピソードだから……。

そういう要素がちゃんとあったかどうか、今の時点で実は記憶も自信も無い。

結構今この場で思い出しながら先を話しているし。

こっ恥ずかしい要素があったのは断片的には覚えてるのだが、その要素のせいで自分で記憶を封印していたのかもしれない。

「いやいや何言ってんのよ、中瀬さん。これからが盛り上がって来るのよ」

「梨奈がそういう話し方する時って、大抵何かを誤魔化そうとしてる時だよね」

テーブルの上に肘をついてさらに鋭いジト目で友梨奈を見つめる麻由。

そんな目してると綺麗な顔が台無し、と言いたいところだが、それでも綺麗なのは変わらないのが悔しい。

「そうそう! この後従姉妹のあかねもおねーちゃんのリコと一緒に出てくるんだから」

「え? あかねちゃん? 当時何歳なんだっけ? 八歳? うわーー絶対お人形レベルの可愛さだよね。梨奈がエキュラスエルラン使えたらなーー、見たいなーー、当時のあかねちゃん」

「なによ、そのエキュラスなんとかって、わたしは普通の中学生だってーの」

まぁ麻由の気を逸らせたから結果オーライだ。

さっきも言ったが疫病神扱いしている友梨奈と違って麻由はあかねが大好きなのだ。

一人っ子の麻由は可愛い妹が欲しかったらしく、あかねはその代わりとしてうってつけだったのかもしれない

さて、無事に追加オーダー出来たから続きを話そう。


一日の授業が終わって生徒玄関から校門に向かっている友梨奈。校門に寄りかかって立って

いるあいつが視界に入ってきた。

向こうも友梨奈の姿に気付いたようで、一直線に駆け寄ってきて言い放った。

「明日も来て邪魔してやるからな」

「……本当ガキなんだから……。流石にもう自分でも気付いたんでしょ?」

「……」

そいつは無言だったが、うなだれて小さく頷いてるので、さっきのはショックを隠すための虚勢だったのだろう。

「うちのおばあちゃんに聞いてみるわよ、あなたの帰り方。あの人、霊とか心霊現象とかに妙に詳しいから」

「ほんとか?」

「いつまでも付きまとわれるとうざいしね。自分では霊になった原因何か覚えてないの?」

「分からない。気付いたらこの知らない街に立ってて。その前の記憶も……なんか……無い」

「なんも手掛かり無しか……」

思わずため息が出る。流石に碧でも難しいかもしれない、何か手掛かりぐらいないと。

「あなた自分の名前くらいは覚えてる? あ、ちなみにわたしは木花友梨奈、小五」

「……それも思い出せない。中学に行った記憶は無いから、自信は無いけど多分小学生かな……」

近辺で小学生が関わる事件、事故があったら流石に話題になってそうだが。そういうのが無いってことは少し離れた街の子かもしれない。

「じゃあ、家帰って聞いてくるから、今日はもうついてこないで。明日の朝に今朝会った場所でね」

家に向かって歩き始めたが、これまでの言動から友梨奈にはどうにも信用できない。

「うちのおばあちゃんに見つかると、強制的に成仏させられるかもしれないから、本当について来ないでよ」

振り返るとあいつは校門の辺りから全く動いてなかった。

「分かったよ。信用ないな」

やはり自分の正体を自覚してショックだったんだろう。

まぁ誰もいない校門に向かって一人で色々話しかけてる友梨奈を憐れみの目で遠巻きに見てる大人の人や小学生達に気付いた時の自分もかなりショックだったのだが……。

(あの頃からこういうことしてるから、どんどん『普通』の幸せが遠ざかっていったんだよね……)


いつものように一キロの長い通学路を気を紛らわせながら歩いてると、友梨奈の家の少し手

前に姉妹っぽい二人の女の子、従姉妹の木花リコと木花あかねが立っていた。


「キャーー、あかねちゃん来たーー。あーーぁ映像で見れれば良いのに。梨奈の能力もこういうとこで使えるのがあればなーー」

(麻由、普段はわたしの能力褒めまくって使え使えうるさいくせに……、もう。あ、心の中だけでのつもりがリアルで舌打ち出ちゃった……)


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