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婚約破棄? よろしい、デュエルで決着をつけましょう。

 煌びやかな大広間に集った宮廷人たちの前で、王子ルーカス・フォン・ロイヤルは厳粛な面持ちで立ち上がった。

 その声は荘厳に鳴り響き、誰もが耳を傾ける中、彼はこう宣言したのだった。


「かつて私は、とうとき令嬢セレナ・フォン・ベルヴェデーレと結ばれるべき縁にありと、確かに固く誓い、婚約の証を交わした。しかしながら、時の流れと共に、我が胸に新たな炎が灯り、その輝きに抗うこと叶わぬ、情念が芽生えたのである。私の心はすでに別の高貴なる女性へと奪われ、その温もりに魅了されている。故に、誠に遺憾ながら、セレナとの婚約をこの場で破棄する決意を固めた次第である。どうか、この私の決断を受け入れていただきたく、ここに宣言する」


 その宣告は、まるで古の詩のごとく、宮廷に深い静寂と衝撃をもたらし、以降の運命を大きく揺るがすこととなる。


 宣告を突き付けれられた令嬢セレナは、優雅な微笑みと共に一歩前に出ると、熱く、鋭い口調で応じた。


「婚約破棄? よろしい――ならばデュエルで決着をつけましょう!」


 一瞬の静寂――……。

 そして――宮廷人たちから歓声が上がり、対決を告げられたルーカスがたたらを踏む中、デュエルの特設ステージが二人を分け隔てる間に地下よりせり上がって、その荘厳な姿を現した。


「王子殿、私が証明するのは、ただの正邪未分せいじゃみぶん(正義と邪悪がまだ明確に分かれていない状態)のめいではなく、カードの力により決定される運命ですわ。さあ、デッキを持ちなさい、ルーカス! デュエルをスタンバイなさい!」


 ――このように言われて、逃げの無様を晒せるルーカスではない。

 歯を食い縛り、懐から彼の魂の移し身である『デッキ』を取り出し、腕に装着したデュエルディスクへ、叩き付けるようにセットした。


 セレナもまた、懐から移し身(デッキ)を取り出し、運命それをデュエルディスクに収めた。


「――いいだろう。我が情念の抗うこと叶わぬ明々《めいめい》、ここでハッキリと示してくれよう。イソノリオス、デュエル開始の宣言をしろ――!!」


 大理石の荘厳な柱に囲まれた、伝統と革新が融合した空間――王宮の中央に現れた特設デュエルアリーナに二人が進み出ると、イソノリオスが声を張り上げた。


「デュエル開始ーーーーーッ!!」


 運命が幕を開けた。


「俺の先行! 俺は手札から【青き眼の賢士】を通常召喚しよう!!」


青眼の白龍ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン】のテーマだ!

 宮廷人たちは湧き上がった。


「【青き眼の賢士】の効果――デッキに存在する光属性のレベルが1であるチューナーモンスターをサーチして手札に加える。サーチするは、当然、【白き乙女】――その効果発動! 手札、デッキ、墓地から、最強のカード【真の光】をフィールドに展開できるッ! そして……【真の光】を発動する、同名カードがフィールド・墓地に存在しない【青眼の白龍】の宿命()を持った魔法、トラップカード一枚をサーチ。持ってくるのは【青き眼の祈り】、その効果――手札を一枚捨てて発動できる、デッキから【青眼の白龍】の名を冠した魔法・トラップカードと光属性・レベル1チューナーを一体サーチする。フム、この手札であれば……今回は贅沢に、【エフェクト・ヴェーラー】を切ってしまうか。それを対価に、光属性・レベル1チューナー【青き眼の祭司】と……【青眼龍轟臨せいがんりゅうこうりん】を手札に加える。――【青き眼の賢士】をチューナー素材に、リンク召喚! リンク1、【青き眼の精霊】!」


 デュエルスタジアムがどよめく。


「そのまま効果発動。このモンスターはリンク召喚成功時に、デッキから【光の霊堂】を――」

「手札からトラップ効果を発動!」


 セレナの鋭い声が、ルーカスの流暢な語りを遮った。


「【無限泡影むげんほうよう】! このカードは自分のフィールドにカードが存在しない場合、手札からも発動が可能。相手モンスター1体の効果を、ターン終了時まで無効にする。【青き眼の精霊】の効果は、無効化される……!」

「くっ……! 小癪な――……」


 小声で毒づき顔を僅かに歪めて、しかし、ルーカスは思案する。


「……フム、しかし、また――それも良し。私は伏せ札を1枚セットして、ターンエンドだ」


 宣言して、ルーカスは大手を広げて、ルーカスを見据えるセレナへと、張り上げた声で語り出した。


「オオ、セレナ、どうか分かってくれ! 今ここに、我が心は既に別の高貴なる女性に奪われ、燃え上がる青眼の龍の如き威光と熱情に魅了されている。君がどのような勝負デュエルを見せるのか、見届けようじゃないか。そのためのターンエンド……。その末には、どうか、この我が決断を分かってほしい、ここに宣言する――我が炎は、真実なる情熱の証なのだ!」

「ルーカス様、あなたは分かっていないようですね。私は婚約破棄を止めたいのではない」

「なに!?」

「そう、私が望む答えは――きっと遊戯デュエルによる運命が導いてくれましょう」


 そして、セレナは、始まりを声にした。


「私のターン、ドロー!」


 そうして、引いた運命を見てニヤリと笑い、セレナはそのカードを表にした。



「【トレジャー・パンダー】を、通常召喚!」



 ――――デュエルスタジアムが、審判であるイソノリオスまでもが表情を無くし、静まり返った……。


「――――オッ、おまっ、お前……ッ!?」


 エクゾディア……。

 小さく囁かれる中、ルーカスがアワって、外面も剥げた口調で叫び上げた。


「こんな場に――……そんなっ、そんな運命の山札(デッキ)を、持ってくる奴が……あるかァ!!」

「手札から【成金ゴブリン】を発動、自分はデッキから1枚ドローし、相手は1000ライフポイントを回復する。――――そして【トレジャー・パンダー】の効果を発動! 自分の墓地から魔法・罠カードを上限3枚まで裏側表示で除外することができる、そして除外したカードの数と同じレベルの、通常モンスター1体をデッキから特殊召喚する。選ぶのは当然――エクゾディアの封印パーツ!」

「ハ、ハ、ハ――ハハハハハ! しかし、フフフ、ここで、伏せ札(トラップ)を発動だ、ハハハッ、【無限泡影むげんほうよう】さ!」

「魔法カード、【抹殺の指名者】! 自分のデッキからカードを1枚除外し、その同名カードをターン終了時まで無効にする。選ぶのは当然、【無限泡影むげんほうよう】!」

「【無限泡影むげんほうよう】しかり、エクゾディアデッキに何故そのカードが入っているッ! 回してみたら分かるが事故るだろうッッ」

「さらに【馬の骨の対価】を発動、効果モンスター以外の自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地セメタリーへ送り、自分はデッキから2枚ドローできる。エクゾディアの封印カードは……胴体以外は、効果を持たない通常カード……。――そして【馬の骨の対価】を除外して、【トレジャー・パンダー】の効果を再発動! 私は無限に山札からエクゾディアの封印カードを場に呼び出せる!」

「【灰流うらら】、【灰流うらら】ッ!」

「ルーカス様、確かに【灰流うらら】は手札から発動できる、最も優秀なドロー行為の妨害が可能なカードですが、それは1ターンに一度きりです。さて、次は【打ち出の小槌】です、任意の枚数手札を山札に戻しまして、その枚数だけドローする。……おっと、また【成金ゴブリン】が出ましたか。でもまずは【トレジャー・パンダー】の効果を発動しましょう」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。【エフェクト・ヴェーラー】捨てちゃったよぉぉぉおおおおお゛お゛お゛」


【ワンダー・ワンド】――魔法使い族モンスターを墓地セメタリーに送ることで、デッキから2枚ドローできる。


【チキンレース】――フィールド魔法であり、お互いのプレイヤーは自分のターン中、1000ライフポイントを払ってデッキから1枚、カードをドローできる。


貪欲ひんよくな壺】――自分の墓地セメタリーに置かれたモンスターカードを5体デッキに戻し、その後、自分はデッキから2枚ドローする。



 そして、【封印されしエクゾディア】と、【右足】【左足】【右腕】【左腕】、封印のパーツたるモンスターカード。

 その効果、【封印されしエクゾディア】と封印パーツが手札に揃ったその瞬間、その者は、勝利となる――。



 その後は、ルーカスなどいてもいなくても同じ展開であった。

 ただ、彼の羞恥の姿だけが、衆目に晒されている。


「こんなの、決闘者デュエリストの姿じゃない……」


 ルーカスの憐れな姿に、そのなれ果ての姿を目元捻じ曲げて見つめながら、誰かが呟いた。


 セレナのデュエルディスクに収められた山札うんめいは、今やその全てを引き切らんばかりである。


「――――さて。私は、【闇の量産工場】を手札より発動いたします。自分の墓地セメタリーにある通常モンスター2体を、手札に加えることができる。そして、今この時をもって――」


 そうして。

 セレナは、自身の手札を――――破壊神の神秘的な【右足】、恐ろしい【左足】、破滅を予感させる【右腕】、無双を疑えない【左腕】、そして胴体と……その御身おんみの顔が笑う頭部【封印されしエクゾディア】が揃った、完全にして決着の運命を、ルーカスに見せつけた。



「私の勝ちにございます」



 ――爆発のような歓声が、宮廷内で上がった。


 途切れぬ喝采の中、イソノリオスの声が轟いた。



「セレナ・フォン・ベルヴェデーレ様の、勝利ィーーー!」



 セレナは膝から崩れ落ちるルーカスへ指を突き付け、宣告した。


「罰ゲームッ! これより、ルーカス王子は永遠に『屈辱の王子』として、毎月開催される宮廷デュエル大会において、その恥ずかしき王子服を着用しなければならぬッッ!」

「は、恥ずかしき王子服とは……? ――ま、まさか……!」

「腕にシルバー巻いたタンクトップ姿でございます」

「――頼むッ! セレナッ、それだけは……!!」


 頭を下げるルーカスから、セレナは視線を切って、告げた。


「さようなら、ルーカス様。あなたに愛されたもう一人の私は、もう過去です。私のことを再び呼ぶことがあるのから、セレナ・フォン・アルマスとお呼びくださいませ。それでは決闘デュエルの勝利報酬の当然として、ベルヴェデーレ家の財産の半分を頂戴していきますゆえ。ご理解くださいませ」


 今度こそ泡吹いて倒れたルーカスを背に、セレナがその場を後にすると、未だ止まらない歓声を上げながら宮廷人たちもまた、一人の決闘者デュエリストの未来を共に見ようと、その力となる意思を決めて、セレナのあとを追って駆け出したのだった。


 こうして、セレナは勝利を収め、運命を決する決闘デュエルは終わった。


「――――ルーカス様、ライフポイントはまだ残っております。もう一度最初から、やり直しましょうぞ」


 すっかりと、静まり返った中で。


 ガクリと顔を俯けたルーカスへ声をかけ、そっと肩を叩くイソノリオスの姿が、宮廷にあったという――。





 後日談。


 あの決戦デュエルの噂が広まってか、婚約破棄の直後であるというのに、セレナの元にはたくさんの縁談のお話が舞い込んだのだが、不名誉を負いながらも訪れた晴れた空のような幸運にも、セレナはいまいち乗り気になれずにいた。


 今は、少しだけ、ただ一人の決闘者デュエリストでいたい。そんなふうに思い、自由気ままな時間を楽しんでいた。


 次はどんな遊戯デュエルが待っているだろう。

 セレナは微笑みを浮かべて、お茶を楽しみながら、その手元に置かれた、輝くカードを見つめたのだった。


 

ここまで読んでくれてありがとう!


普段はこういった小説を書いてます。


令嬢リプカと六人の百合王子様。 ~妹との関係を巡る政略結婚のはずが……待っていたのは夜明けみたいに鮮やかな、夢に見た景色でした~

https://kakuyomu.jp/works/16816452220094031820


小説家になろうでもお読みいただけますが(https://ncode.syosetu.com/n5524gy/)現在はカクヨムで最新話を連載しております。

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