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「君がくれた終末世界」  作者: ARS_sei
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第二章 意図が交差する

【夜桜】


夜見る桜の花。特に、桜の木のそばに灯籠などの明かりをともし、またかがり火をたいて、ながめ楽しむ桜の花。


確信を持った言葉に正解はあったのだろうか。

だが、その答えを知る者はここに居ない。

『そうですか、そのような名前なのですね』

『では、菖蒲さんとお呼びしてもよろしいですか?』

「...あぁ、大丈夫だけど...」

(初対面の敵対していたころと比べると、やはり何かしら罪悪感などを感じているのだろうか)

そのように考え、彼女の顔を見る。

ただし、どちらも話そうとしない。

「えっと、そちらの名前は...聞いてもよろしいですか?」

沈黙を破ったのは菖蒲からだった。

『...』

だが、返答が返ってこない...返事に困っているのか、それともまだそこまで信用されていないのか答えない

「...まぁ、大丈夫まだ信用しきれないよね...流石に出会って間もないし、それに敵対しかけていたし...」

『そうではなく!...そうではなく、思い出せないんです...何もかも...』

菖蒲は驚く、当然だ。

自分とほとんど重なる状況で、どのくらい生きていたのかと考える。

「少し、ここで休みながら話しませんか?...何か思い出すことがあるかもしれないし」

そういって、テレビとベットが在った方へ歩いていく。

浴室を出て、怪我をする可能性を考慮しつつも、柄の瓦礫を出来るだけ集める。

大きいものは引きずり、端の方へ。

小さいものは手に取り、円を模る様に置いていく。

そうしていく内に、3畳ほどのスペースを確保できた。

「...ん?...これは」

一つの瓦礫を移動させるためにずらすと、ある物を手に入れ立ち上がる。

『...煙草でも吸うのですか?意外ですね』

振り返ると、彼女が立っている。

菖蒲の手には煙草の箱とライターが握られており、煙草に関しては中身まで確認している

「いや、さっき拾って...何か使えるかと思ってさ...」

『確かに、日が落ちて寒くなってきました...火でも焚きますか?』

そういわれると菖蒲は侵入した壁の方を見る。

確かに、最初に目覚めた空より、黄金色になっており、少しずつ闇に染まりかけている

「確かにそうしよう...燃えやすい...できれば木とかそっちにあった?」

『そうですね...探してみますが...!...ここら辺の衣類なんてどうでしょうか?』

そういわれ、その方向を見ると、男性用と女性用の服が何着かある。

服はどれも破れていたり、まともに機能しない物が多い。

「確かに、主に使えないからそれを使って火をだそう」

そういうと、彼女は瓦礫の縁の中に入れていく。

それを菖蒲がライターを使い、火をつける。

燃える音を菖蒲は聞きながら壁に寄りかかり床に、彼女は瓦礫を寄せ集め椅子の代わりにして座る。


...火を眺め、休む中、ふと思う。

(...そういえば、俺のこの制服とは言えない制服には何が入っているんだ?)

ポケットを一つ一つ漁っていく...そうしていくと収穫があった。

胸ポケットからはメモ帳、ズボンからはボールペンが入っていた。

なぜか気づかなかった自分に疑問すら持つ菖蒲は、星空が出現する中、メモ帳とペンを確認する。

どちらも機能が停止しているわけではなく、使えるらしい。



ーside _


槍をいつでも使えるようにしながら、周囲を見渡す。

何か気を起こし敵対されても良いように。

「なぁ、ちょっといいか?」

そう彼に言われる。

『どうしました?』

そう返答すると、彼が近づき、一つの紙を見せてくる。


・名前 世話(ヨバナシ) 菖蒲(アヤメ) 確証無し

・年齢 16歳

・外傷 左足に少し深い切り傷 簡易的処置済み


どうやら、今の状況を記した紙のように見える。

「これからどうなるかわからないんだ、いつも...いや、時々記して自身の名とか忘れないようにした方がいいんじゃないかな...それに、俺も君の事をよく知りたいとも思うんだ...」

そう言ってくる彼は何か悲しみと不安が混じった瞳を持っていると感じる。

(きっと、精神がすり減っているのでしょう...その年齢で独りは厳しいでしょうね...)

『なら私も書きますが...書けないところが多くても何も言わないでくださいね?』

彼が小さくうなずくと、メモ帳とペンを渡してくる。

そうして書き始める。

様々な事があった過去を通して。

先も見えない先の未知に期待して。

思い出せない自分も、信じ貫いて。



ーside 世話 菖蒲


彼女が何か書き始める、きっと長い時間ではないだろう。

だが、何もしないのも気が参るというもの。

壁に近づき、上を見上げる...

半壊に近い壊れ方をしているアパートは、今いる部屋の半分は上の階が崩れている。

寄せた瓦礫を少しづつ上る。

月明かりが菖蒲の瞳の奥を小さく照らす。

ゆっくりと瓦礫に座り、空を見る。

小さく明かり灯していく星がいくつも浮かんでいる。

「この世界は何のだろうか...別世界?...もしくは生きていた世界の未来?過去?...」

不意に口に出す。

未来の不安か、過去を思い出せない恐怖か。

「ここで生き残れて、助かるかなんてわからないし、幸せになれるのかもわからない」

知らず内に感じてた思いを。

『一人語りは終わりましたか?』

声の方向を向けば、紙をひらひらとさせている彼女がいる。

「...聞かないでくれ、それよりも拝見しても?」

『そのために書いたので、どうぞ』

「ありがとう」

そういって、彼女の手から紙を受け取る。

「...年齢不明、出生不明、名前も不明...か」

『すみません、思い出せることはできるだけ書いたのですが...』

そう言われ、もう一度紙に目を落とすと生存日数10と遭遇人数1という事だけだ。

(きっとこの遭遇人数は...俺かな...)

「でも...名前が無いのは困るな...俺が名前を付けてもいいか?」

『あなたが...私に名前ですか...』

「あ、嫌なら大丈夫だ...変なこと言って悪い」

『いえ、そういうわけではなく...確かに名は他人からもらうことがいいでしょう』

「...ずいぶん合理的だな...うむ...そうだな」

彼女の姿をまじまじと確認する。

容姿を確認し、菖蒲が確認した彼女の今までの発言、行動を整理する。


それはどのくらいの時間が必要だったのだろうか。

作った焚火は火を弱め、彼女も寝かけている。

「...あぁ、これならしっくりくるかも!」

と少し声が大きくなる。

『...決まりましたか?』

その声はだいぶ眠そうな声をして菖蒲に話しかける。

「まぁ候補が浮かんだだけなんだが...あぁこっちに立ってくれない?」

そういって瓦礫の方へ向かわせる。

彼女も行動がゆっくりではあったが、瓦礫の方へと立って菖蒲の方を向く。

『これで満足ですか?』

「...あぁ、ばっちりだ」

やはり、思った通りだったらしい。

そうしてそのまま言葉を紡ぐ。

「夜景に月明かり...そして星空のような髪...そして珍しい桃色の目...」

「名前は、夜桜...なんてどうかな...」

自分が思う最大限の語彙力と知力を振り出して出てきた言葉。

しばらくの間、場が沈黙に包まれる。

彼女は何かを考え、顔を夜空へ向ける。

菖蒲は失敗したかのように別案を考える。

『...わかりました。今から私は夜桜と名乗ることにしましょう』

沈黙を破ったのは彼女...夜桜の一言だった。

「...え?あぁ...てっきり拒否されると思ってたよ」

『拒否する必要がありませんから...それより...』

月を見上げる夜桜はこちらの方向に振り向き...

『これからどうしますか?名前を付けたのであれば、共に行動する気なのでしょう?』

「ものすごく察しが良い...話が分かる人と会話するのも悪くはないかも」

そういって互いは焚火の近くへ集まる。


缶詰を夜桜に渡すと、手ごろで鋭い石で蓋を開ける。

『...これは...何でしょう?わかりますか?』

そういって、菖蒲の方へ渡してくる。

「これは...パイナップルの缶詰だね....全部食べていいよ、その間今後どうするかを話すから意見を出してほしい」

夜桜はコクリと首を縦に振り、渡した缶詰を手で食べ始める。

「まず俺たちは基本的に二人で行動する。現在は食料と水が十分な量とは言えない...ここで生きていく...ってことは受け入れられないけど、そうしなければきっとここで息絶えるだろう」

『もし途中で人に会ったらどうされますか?』

「敵対行動なら逃走一択...怪我を負いたくないし、何より武力で得たものはあまり使いたくない...し、正直怖い。中立、友好的なら話とか手伝いをして情報と物資を要求したい...と思っている」

『なるほど...私たちが共に行動する場合、意見が対立したら?』

「その時は...できるだけ自分たちの生存する可能性が高い行動をとりたい...と思っている」

そう歯切れが悪いように言う。

何かを察したのか、夜桜も缶詰を置く。

『わかりました、明日から行動しましょう...それと私は満腹ですので残りはあなたに』

そういって残りがほとんどない缶詰を渡してくる。

「...一人の時、そのぺースで食事に困らなかったの?」

菖蒲の言葉に返答を待つが、見える光景は座りながら休息をとる夜桜の姿のみ。

残ったパイナップルを少しづつ食べ、視界が闇に染まり...眠りにつく。



残された人は、何を思うのだろうか。

きっと、行き場のない後悔と望んでも変わらない過去だけだろう。

ここで視界が迫ばり、音も拾えなくなる。

きっとこの後悔は、自分にも侵食し広がっていくのだろうか...



「...ん...ん~...あさ...?」

寝ぼけた体を起こし、空を見上げる。

だが空は見えない、瓦礫の天井が菖蒲を見上げる。

「ここはまだ夢の中...」

『馬鹿なこと言わないでください』

そう言うと共に、視界に夜桜の顔が入ってくる。

「...夢であってほしかったな」

『きっと、夢だったらいいと思う日は来るでしょう...ですが、今じゃないと思われます」

体を起こし、服の汚れを落とす。

「きっと、きつくなるだろうけど出来るだけ乗り越えていこう」

そういって、立ち上がる。

「俺たちが生きるために」

『...もういいですか?それともまだ寝ぼけてます?』

「...もうちょっとなんか...まぁいいや、時間が惜しいし出発しよう」

そういい、瓦礫の廃墟から、それぞれ赴く。

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