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天界での死に方  作者: 土成 のかげ
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作戦失敗

「あそこは南の街、ですよね。」

思わず疑いたくなるほどに人が溢れ活気に溢れていた物陰は全く無い。所狭しと並んでいた出店は壊れていて、建物のドアや窓が割れている。そこには喧嘩していたり、物を壊して暴れている人達がいてとても買い物を楽しむところではない。

この賑やかな商業地区がこの状況で住居地区の方がどうなっているのだろうか。


「今は水が1人なので出来るだけ対処する人が少ない所に降りましょう。」

「沢山水が確保できる場所が良いです。今流れている水はまだきっとクノーが混じっているはずですし水道から連続で飛ばせると効率良いと思います。」

トビーは全体が見えるように私達の乗っている球体を高く上げる。本人が球体に同乗していると目的地を絞らずに自在に動かせる様だ。


南地区は、真南が商業地区で東西に行くほどに住宅街が広がっている。住宅街の方が落ち着いている様に見えたので安心する。

上空から見て数人しか外に居ない南西の端に降り立ち、樹とトビーは暴れて物を壊したりお互いの力で戦っている人を誘導しに向かう。私とアンセは水道を探す。ふとグネルの家の近くに水道があったのを思い出してそこへ行くと嫌でも焼け跡のある家が目に入る。私が頑張るところなのに手がガタガタと震え出して上手く動かない。両手を包む様に握って震えを止めようとするが言う事を聞かない。


「別の場所にしないか。」

アンセが提案してくれるが別の場所に移動する時間が惜しいのは分かっている。アンセの服をぎゅっと握りながら震える反対の手で蛇口に手をかけるとアンセがその上に手を重ねて2人で水を出す。

丁度1人の人が黒い煙を纏いながらトビーに挑発されてこちらに向かって走って来る。カレルがやった様に誘導されて来た人に向かって水を当てようとしたのだが、その暴れ狂った様子がグネルに見えて氷の鎧でカチコチにしてしまった。樹とトビーはギョッとした様に私を見たがアンセには私の奇怪な行動の意味が分かったようで、動けなくなって丁度いいな、と私の頭をこずく。


深呼吸をしてから今度は氷漬けにされてびっくりして開いている口に向かって水を注ぐ。ゲホゲホしているがそのうち更に暴れようと動き出し顔付きが更に変わっていく。シャドーの影も心持ち増えている様に見える。


え、良くなってないよね。

皆んなの顔を見るとみんなも困惑した顔になっている。この方法は間違っていたのだろうか。とりあえず水の供給を止めたが氷漬けにされたのが琴線に触れたのか怒りがどんどん増している様に見える。どうして?クノーは効かないの?


「何か間違っていたのでしょうか。やはり直接浄化しないとダメなのでしょうかね。」

樹はそう言うと氷漬けの人にそっと触れるとさっきまで暴れていたのが嘘の様に落ち着いて優しい顔付きになる。氷を溶かしてみんなでその人から話を聞く。


「ありがとうございました。助かりました。僕自身何が何だかよく分からなくて。説明できるかどうか。

昨日は早く帰ってシャワーを浴びました。そして水を一杯飲んだら気分が良くなって何杯か飲んだのです。しばらくすると今度はどんどん暗い気持ちになってきて座り込んでしまいました。そのうち妻が帰って来て、何しているのと、聞かれたのですがそれが何だか見下された気がしてそれだけで手をあげてしまったんです。心配してくれたのに愛する妻を叩いてしまい、すごく反省すると同時にまた手を挙げてしまうかもしれないと思い、慌てて家を飛び出したんです。そこから先はあまり記憶がなくて、ただただ怒りや不安、罪悪感や劣等感でいっぱいでした。帰って妻に謝りたいと思います。」

樹を見るとシャドーがかなりの刺激だった様で無言で話を聞きながら手を体の前で交差して体を摩っている。

トビーの目が今度は私が浄化しろと力強く訴えて来るが気付かなかった事にする。


「迷惑はかけましたが早い段階で家の外に出て良かったと思っています。もし記憶がないくらいになっていた時、家族と居たらと思うとゾッとします。」

そうか、それはかなりまずい。住宅街は静かに見えるけど家の中は酷い事になっているかもしれない。誰かが家で暴れて、家族が倒れてしまっていたら…シャドーの浄化だけではなく怪我人を助けないといけないかもしれない。

その話を聞いて、外に居る人はひとまず置いておいて一軒ずつ訪問する事にした。これは思ったよりかなり地道な活動になりそうだ。


手始めに1番手前の家から始める。ドアをノックしても誰も出ないのでそっと開けると真っ暗で灯りは壊されている。寝室の方に行くと女の人が四つ這いになって布団を被っている。声をかけるとびっくりした様で悲鳴をあげその人の下からも高い声が聞こえる。子供だ。きっと子供を守りながら布団を被っていたんだ。

布団から出た女性の顔はあざと傷だらけだった。おそらく体もそうなのだろう、私達を見ると安心したの口角を少し上げるとそのままコの字に横に倒れてしまった。すると小さな子供が出て来て母親を心配する。

トビーはリノに連絡を入れて救急隊を派遣する様に要請する。

母親は頸椎をやられてしまったのか全く体が動かず声も出せない。


「お前らも母さんをいじめるのか?今度は俺が守る!」

小さな騎士が怖いのを我慢して母親の前で両腕を開いて守ろうとする姿に涙が出る。


「ごめんね、来るのが遅かったね。もう大丈夫だから。」

私が手を伸ばすと子供は警戒して母親を守る様に倒れ込む。

もし母親がこのまま動けなくなったらこの親子はどうやって生きていくのだろう。


「咲、大丈夫です。時間はかかっても必ず歩ける様になります。ここは天界ですからね。」

そうなのか。リノ達が何とかしてくれるのだろうか。

2人はシャドーにはやられていなさそうなので救急隊が来るまでドアを開けないように、そしてしばらく水は飲まない様に伝えて後にする。


気持ちが落ち込んでゆっくり歩いているといつの間にかアンセが歩調を合わせて横に並んで歩いている。腕をぎゅっと掴んで泣かない様に上を向くと私を見たアンセと目が合って気が緩む。反則だ。

そのまま下を向いて腕にしがみついておいおいと泣く。どうしたら良いのか、何が出来たのか。


「やれる事はやったし、あの2人は救護されるから大丈夫だ。」

アンセの言葉を信じよう。これから同じ様な人達に沢山会うのだ。シャドーに汚されず生きていたらよかったとしよう。


「水担当部が南駅に着いたらしいから合流しよう。」

トビーは私が泣いている事はお構いなしにまた風の球体を作って私達を運ぶ。あっという間に南の駅に着くと水担当部の人達は自分たちの周りに氷を張って防御していた。私達を見つけると嬉しそうに手を振っている。

皆んなの元気な顔を見て安心する。慌てて涙を拭いて合流する準備をする。


「咲、大丈夫?」

涙を拭いても隠しきれない泣き顔を見てリンが心配してくれる。大丈夫では無いけど、頑張るしか無いと自分を鼓舞する。樹がさっきの出来事を話すとリンが考えながら提案をする。


「念の為、水を見てもいいですか。もしボムに似たものであれば私とキリトなら分かると思います。」

皆んなにはシャドーではなくボムとして話を通している様だ。そして流石の精鋭部隊、分析機器の校正を自分の力でやっている有能なチームだね。

2人はまず自分たちの作った氷の壁を観察し始めた。


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