中央の街
「中央へようこそ。」
風通路を降りるとアンセが恭しく手を差し出す。目の前には石造りで真ん中がアーチ状にくり抜かれた建物が立っている。幅広い凱旋門みたいだ。
「素敵な建物ですね。」
「これは専門店が色々入っている。ここをくぐり抜けるとスクエアがあって昼は出店が沢山並んでいる。誰でも店を出せるから空いている場所を見つけて商売を始めることが出来る。しばらく食い繋ぐのにはちょうど良いかもな。」
なるほど、何の店をやるのか、やれるのか分からないけど売り物さえ準備できればなんとかなりそうだ。
話をしながら建物を抜けると広い広場があった。まだ時間が早いからか、出店が出来そうなテントが並んでいるがまだお店は出ていない、出勤中と思われる人が正面の建物や左右の建物に消えて行く。
「正面は樹の館、右は病院、左は主に食品がある総合ショッピングセンター。俺たちの家は西の風通路の端にあるから乗り換えるぞ。」
「あの、もう少しここを歩いてみたいのですが良いですか。」
「もう一度戻ってきたら良いよ、まずは家を案内する。俺この後仕事なんだ。」
「すみません、そうですよね。」
また別の風通路に乗るために左に向かう。ショッピングセンターは2つの建物に別れていてその間の道を突き抜ける。するとまた風通路と思われる歩道橋あって階段を登る。はあ、また乗るのか。
「今度は1人で乗れそうか?」
「やってみます。」
エスカレーターに初めて乗るようなものだろう。練習あるのみだ。みんなの乗り方をみていると風が下から吹き出す前に数步進んで待ち構えて風の椅子ができたら座っている様だ。せいのっ!ちょっと小走りに歩いて椅子のタイミングと合わせてみる。タイミングは良かったが幅が合っていなくて足元が隆起してきてバランスを崩しそうになったところをアンセが引き上げてくれる。
「あと少しだな。タイミングはいいが、場所もよく見ないと足をとられるぜ。」
「ありがとうございます。次また頑張ります。」
そしてまた2人で座って移動する。今度はどれくらい乗るだろうか。少し余裕が出て景色を見ているとしばらくして少し速度がゆっくりになったのに気がついた。よく見ると側方に外とつながる穴が空いていて新しい人が空いているスペースにスッと乗り込んできた。すごいな、ミスったらみんなを巻き込みそうだ。そして乗ってきた場所は進行方向に直角になる様に道が重なる交差点でもあった。同じ様な場所がもう一回あって終点が私達の目的地だった。
「1人で降りられるか。」
アンセが心配そうに見ている中、1人で降りるのに挑戦する。終点なのでまっすぐ迷わず歩けば割とすっと降りる事が出来た。
「やった!」
思わず声をあげて喜ぶとアンセが苦笑していた。そのままついて行くとここも同じ様に交差点になっていて南方向に進むと家が数軒見えてきた。そう言えばオレたちの家って言っていた気がする。ん?気のせい?
「ここが今日から君の家だよ。」
石造りの平屋の一軒家で小さな庭もある可愛い家だった。入り口までに砂利が敷いてあって歩くとジャリジャリ音がする。ドアを開くと大きめのこれまた石のテーブルが真ん中にあって右手奥にキッチン、左手はちょっと床が上がっていて別の部屋のドアが付いている。その奥が洗面所になっていた。
「この部屋は靴を履いたまま、左の部屋に入る時は靴を脱いで使って。」
靴を脱いで使う様言われた部屋のドアを開けると石で出来ているベットが一つあった。どの家もそうなのか、博士の家に引き続き殺風景な部屋だ。
「家具はほとんど石なんですね。」
「樹は切れないからな。たまに老木が折れて木材として出回るけどかなり貴重だから手に入れるのはかなり難しいんじゃないかな。まあ、オレは石の方が腐らないから家具に向いてるとは思うよ。土に頼めば大概希望通りの形になるしさ。」
そう言われてみれば素材として腐らないのはわかるけど、冷たい感じがするし、とても重たそうだ。
「木が切れないってどう言う事ですか。ノコギリとかで切れるでしょう?」
「そんな事をしたらここでは生きて行けないぜ。樹々に嫌われて仕事も難しくなるし、何かと妨害されるし。」
「木ってそんなに強いと言うか、偉いんですか。」
「偉いっていうか、天界の主みたいなもんだから天界そのものを敵に回すことになる。」
「天界って何なんですか。この土地、この場所の事かと思ってましたけど、何か違う気がしてきました。」
「間違ってないよ、この場所の事だけど天界には意思みたいなものがあってそれにオレらはその手の中なのさ。その意思を大いなるチカラって呼んでる奴らもいる。」
また出た!大いなるチカラ!誰なのかと思ったら見えない神様みたいなものだったよ!