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南の事情 前編

「お待たせしました。」

お昼の後にグナヤンムーと樹の館の前で合流する。私達以外は午後のツアーとやらは行かないらしい。


「これからどこへ行くのでしょうか。」

「少々お手伝い頂きたく願います。」

どう言う事だ?嫌な予感がする。クノーが言っていた手伝いが必要な筈だから北の樹に任せろって言っていた案件なんではなかろうか。


「あの、もしシャドーの浄化とかでしたら私は力不足なのでハルさん居ないと難しいかと思いますよ。」

「え、そうなのですか。てっきり主天界からいらしたのでお力があるのかと思いました。」

「期待に添えずすみません。」

良かった、出来ないとは言ってないがいい感じに誤解してくれた様だ。


「あの、差し障りがなければグナヤンムーさんとツグノさんはどう言う関係聞いてもいいですか。」

「話し忘れていましたか。すみません。隠していたわけでは無いのです。私達は兄妹です。私が長子でツグノは末っ子です。」

「グナヤンムーさんが樹を継いだのですよね。なんでツグノさんも参加しているのでしょうか。」

「そうですよね…やはりそう思われますよね。ツグノを呼ぶかどうかかなり悩みました。元来南では長子に樹の力が受け継がれる為長子が樹を継いできました。なので私もなんの疑問も持たずに継ぎました。先代と長くいられる分、長子が樹を引き継ぐのは理にかなっています。母も先代を知りませんから樹の気配は継がれる事ではなく仕事を継いでいくものなのだと思い込んでいました。私自身も木々の声が聞こえましたのでそれで充分だと考えていました。ところが樹の力は私ではなくツグノが継いでいることが後から分かりました。なぜこんな事になったのか。よりにもよって私の時に。ですからシャドーを見つけるにツグノが居ないと分からないのです。そしてツグノはシャドーは見えますが浄化するのはほぼ出来ません。」

「と言う事は、さっきの石を持った人達はどうなるのでしょうか。」

「初期に分かれば力ずくで石を取り上げますがそうでなければ隔離するしかありません。周りに危害が及ぶので。」

「隔離された人は…?」

「そのまま、になります。」

「その後は…」

「大暴れし続けます。」

「その後は…」

「その後、ですか?そのまま暴れ続けるのでは無いのですか。」

答えたく無い。黙っているとアンセが続けてくれる。


「魂が消滅します。」

「え?そうなんですか?。」

「昨日話した通りです。シャドーもどきを放っておくと最後は魂が消滅します。主天界でも数百人消えました。」

グナヤンムーの顔色が突然酷く悪くなる。昨日は話を聞いていたのだろうか。


「大丈夫ですか。まだ魂が消えたところを見ていないのなら間に合う筈です。ハルさんを呼んで浄化してもらいましょう。」

「そ、そ、そ、そうですね。すぐに連絡します。」

そう言うと風電話でハルを呼び出した。


「折角樹であることを休める時間だと思っていたのに。ここでも浄化ですか。咲さんも出来るでしょう、樹なんだから。」

「さっきも話しましたが私は樹では無いのです。不十分なんです。」

「そんなこと言って僕には気配を感じるから分かるんですよ。」

「咲は確かに浄化出来ますが能力が足りず主天界での戦いの時も早い段階で倒れてそのまま1年間眠り込んでしまいました。目覚めたのはひと月くらい前の話なんです。まだ病み上がりなので無理はさせたくないのが本音です。咲がまた一年寝てしまったらナミさんに合わせる顔がありません。」

アンセが援護射撃をしてくれるとハルもグナヤンムーもびっくりして目をしばしばさせている。


「分かりました。では私が浄化を全面的に引き受けます。」

ハルが承知してくれたので助かった。

グナヤンムーは私達を隔離している人の場所に案内すると言って浜辺の方に向かう。海岸の端に小さな石の小屋がいくつかあって一つだけ砂が巻き上がって風の壁が施されているのが見て分かる。

カレンの様にある程度反省している人はこれで十分な牽制になるのだろうが暴れて我を失っている人たちにも有効なのだろうか。


「ここにいるのは水だけです。火や風は海の中に居てもらってます。」

海に隔離か、南ならではの隔離方法だ。


まずは風に覆われている小屋を覗くことにする。先程呼ばれた風の人が食事の用意と共にやって来て風の壁の一部を解除する。砂埃が目に入らない様に目を軽く瞑って中に入るととても静かで恐る恐る目を開けると誰も居ない。逃げたのかそれとも…


「今朝の時点では3人居ました。食事を供給しに来たのですがすごい暴れぶりで喧嘩していたり壁に突っ込んで行ったりしていました。最低限の飲み水だけを渡していて良かったです。そうでなければ水圧で壁に穴を開けていたでしょうから。で、彼らはどこへ消えたのでしょうか。」

念の為中に入る時は複数人で入ることにしておりこの時も3人で向かったそうだ。中に居たのは長い人で3日目だったそうで日に日に凶暴性が増しているのは見えていたが、隔離の人数が増えた相乗効果なのか、日にちが経ったから酷くなったのかは分からないと言う。でも時間のせいならば後から入った人は大したことない筈なので相乗効果と見るのが正しいのではないかと経験上思う。つまりここに誰もいないのは違いに影響し合ってシャドーが膨らんで魂が消滅したことに他ならない。


「念の為、帰宅していないか家族に連絡してみます。」

グナヤンムーは風電話を始める。アンセは私の手をぎゅっと握って大丈夫だと合図する。懸念した通り誰も帰宅はしていなくて消えたのが濃厚になった。でもまだ誰も魂の消滅について言及しない。


「海の方も見に行きましょう。」

「海は何人いるのですか。」

「先程連れてこられた人を入れて4人です。」

グナヤンムーは言霊を唱えると海が整列する様にざーっと開いた。おおお、かっこいい!これも秘匿の能力に違いない。龍神みたいだ。

みんなで食料を分担して持ってどんどんと沖合に向かって歩いていく。昨日の私よりもずっと凄い力で水が避けられて左右には巨大な水族館の壁が広がっている。奥に行くにつれて色んな種類の魚が泳ぎ回っていて踊っている様にも見える。普段は光がなかなか差し込まない様な深い所が明るくなっていくと深海の魚たちが驚いて離れていくのが見える。奥に行くほど足場は岩でゴツゴツしてきてさらに奥まで来ると洞窟が見えてきた。付近には黒い影を帯びた2人が喧嘩しているのが分かる。

水の壁がなくなり私達がかなり近くまで来ても2人は一向に気が付かず2人の世界で戦い続けている。そして目に見えて黒い影が膨らんでいっているのが分かる。アンセは私を引き寄せると顔を自分の胸に押し付ける様にして腕で音も聞こえない様にする。大丈夫!と叫んでも声はアンセに阻まれてちゃんとした発音にならない。


「今までの経験上、2人の魂が終わりに近い様に見えます。浄化するか、避難するか決めましょう。消滅する時にシャドーもどきが破裂します。それをここに居る皆で浴びると厄介です。」

アンセにくっついているのでアンセの声だけが聞こえる。必死で自分も対応に加わろうと抗うが力では勝てない。浄化だよ、みんな、浄化しよう!逃げないで向き合おう!

アンセがそのまま移動しなかったので浄化を選んだのだろうと安心して身を委ねる。



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