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天界での死に方  作者: 土成 のかげ
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再びのシャドー退治

「分かった。今日だけね。今日だけは手の届く範囲にいるよ。」

それを聞いたアンセは安心したのか私の頭を撫でる。それを何気なくみんなが視線の端に入れている事に気付いてとっても恥ずかしくなる。アンセも充分酔っ払いだ。


なんでこんなに恥ずかしい思いをして知らない人を歓迎しなくてはいけなかったのか分からない会がお開きになって、ほっとして店の外で待っていると、最初に声をかけてくれたリーダーが近付いて来る。


「今日は来てくれてありがとう。私も最初はびっくりしたけど来てくれて良かった。私達がアンセをよく知らないで誤解していたことが分かったよ。」

「誤解って、どんな誤解ですか。」

「まあ、彼も色々あったからね。それを知っているのもだいぶ限られてきてはいるけどまだまだ偏見は正直ある。本人もそれを知っていて受け入れているんだと思うが、出来るだけ自分に近づかないように人を避けているところがあってね。古参の中にはまだ気にしている人もまだいるし、新人は腕が良いから話を聞きたいのに近寄り難い強面の先輩だから仲間の中での何となく浮いていた。どうしたら良いかなと思っていたんだけど今日のアンセはとても柔らかい雰囲気で苦手な古参の1人とずっと話していたのでびっくりしたよ。何を話していたかは知らないけど打ち解けているように私には見えた。だからありがとう。アンセだけでなく私の仲間にとっても良い時間になったよ。ちょっと面倒かも知れないけどよかったらまた参加してくれたら嬉しい。」

そんなたいそうな事はしていないし、寧ろ恥ずかしさしか残らない会だったので、感謝された事に驚きだった。


「帰るぞ。」

リーダーにお礼を言おうとするとアンセが近づいてきて私を連れ出す。私は振り返りながらリーダーに会釈すると相手も返してくれる。


「何話していたんだ?」

「お礼を言われたの。来てくれるありがとうって。それだけ。」

はあ、とアンセはため息を吐くと繋いでいる手に力を入れる。手の届く範囲でも難しいとはな、とぼやく。


「アンセはさ、人のこと気遣い過ぎなんだよ。もっと自分を大切にしなよ。自分が自分を一番大切にしなさいって小学校の道徳で習ったでしょ。」

「そんな昔のことは忘れた。でも、今咲に言われたから忘れないよ。」

そうしてね、でないと私も安心して寄りかからないからね、と付け加えるとアンセは苦笑する。頑張って頼れるようになるよ、とまた私の頭を撫でる。今日は私をよく撫でるなあ。一回いくらお金をとろうかな、なんて軽口を考えていたらアンセが真面目に私を見て話す。


「今日はありがとうな。少し何と言うか気が楽になった。付き合ってくれるて嬉しい。」

随分と真面目な返しにドギマギする。付き合ってって飲み会にって事だよね。言葉選びは慎重に、だよ、アンセ!


残り2回の楽しいフィールド仕事も終わって明日は休みだ。午後はシャドー退治と言う大役があるので前日からクノーを食べて戦に備える。明日もアンセは同行するのかな、ま、どっちでもいっか。追跡石を家に置いておけば1人でも問題無いはずだ。目下の標的は本物のシャドーでモドキではない。シャドーだけなら大分経験を積んだので自分の限界も分かる。私も寝ているばかりではなく成長しているのだ。


翌日昼を家で済ましてから出ようとするとドアをノックする音がしてドアの横のガラスから透けてそれがアンセだと分かる。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃない、何時に南に行くのかちゃんと連絡しろ。この前も午後だったからそれくらいかなと思って来たところだ。その格好を見るに今出るところか。間に合って良かった。」

知りたいならそっちから電話すれば良いのに、とポロリと心の声が漏れると頭を両手でぐりぐりされる。痛い!


「痛い、痛いよ。一緒に来てもいいからやめてー!」

「一緒に来てください、お願いします、だろうが!」

「痛い、痛いよ。一緒にぎでくだざい!早くやめてー!痛い!」

アンセは嬉しそうに手を離すとぐりぐりした場所を両手で撫でる。行くか、嬉しそうに笑う。


南の町に着くと再びどのように接触するのかの話になる。また手相すればと言うけれど乗り気になれない。

「じゃあ今日は当たり屋で行けば、夏だしちょっと触れるくらい出来るんじゃないか。シャドーの人だけに絞れば時間も節約出来そうだし。」

確かに季節的には行けるかもしれない。自然に出来なければ別の方法にしたら良い、と言う言葉が後押しになって当たり屋作戦に出る。人混みの中にもやっとシャドーの人がいると腕が触れるように近づく。数人やってみたけどそこそこ混んでいるのでさりげなく接触出来る。夏はこれで行こうと決める。十数人触ったところで疲れて休憩を入れる。今日はクノー持参だ。


「この前は笑って悪かった。」

「どうしたの急に?」

「隣で一緒に咲の感じるビリビリを体験して結構辛いよなって思ってさ。咲は当たる前に体を強張らせて刺激に備えてからぶつかっているだろう。俺一度もシャドー退治した事ないから痛みが分かってないな思った。」

当たる前に自己防衛していたとは気が付かなかった。確かに気を抜いて触ると刺激はもっと強くなる。


「今日は石置いて来てるから、博士のシャドーもどきは配られないよね?」

自分に言い聞かせたいのとアンセの同意を得たくて口にする。


「そうだと良いな。」

え、大丈夫って言ってよ。また特大クラス来たら正直今日は難しいよ。私の顔が暗くなったのを見てアンセの大きな手が私の頭を撫でる。


「大丈夫。危なくなったら何が何でも引き剥がすから。」

そう言う事じゃない。崩れそうな人が居たら可能な限り救いたくなる。でも今は出来ないから出会いたくない。しょぼんとする。


「救いたいのは分かるけど咲が倒れたらこれから先沢山のシャドーも救えないんだ。1人に惑わされるな、よく考えろ。」

あれ、この不安も分かってくれているのかな。


「仲良く腕組んでデートですか。」

背中がぞわぞわっとする。声の主はグネルだ。

アンセはすぐに私を自分の背中に押し隠す。


「何か。」

アンセが警戒しながら言葉少なに対応する。


「何でもありません。元気でしたか、咲さん。」

アンセの後ろから顔を出して無言で頷く。出来るだけ情報は与えないようにしたい。


「怯えなくても何もしませんよ。私達と一緒に来ないか誘いに来ただけですから。」

アンセの後ろから今度は半分くらい顔を隠して首を振る。


「そうですか。残念ですね。では後ほどショーを楽しんでください。」

ショーってなんだ?絶対楽しいやつではない。





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