初めての独り仕事
「おはようございます!」
翌朝、少し早目に水担当部に向かう。
「良かった、早目に来てくれて。今日の調査カレルさん行けなくなってしまったみたいで。東川なんだけど1人で行けるかな。」
「大丈夫ですけどカレルさんどうしたんですか?」
「滑って怪我をしてしまったみたいで。もしかしら明後日の原水も1人で行ってもらうかもしれないんです。重たいと思うのでサンプル数は持てる分で大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。まずは今日1人で行ってみます。東川ならなんとか8割くらいは運べると思います。」
突然の独り立ちにドキドキとワクワクが混在する。今日は独り言沢山言いながら歩こう!
東川の入口の立入禁止の看板を抜けて歩いていく。細い川をゆっくり登ると吹く風が気持ちいい。そう言えばいつもカレルと話して登っていてあまり景色を見ていなかった。そして帰りはいつも採取に必死なのでそんな余裕もない。
木々を見ながら歩いているとクノーやエネール達以外の木々が沢山居るが名前を全然知らない事に気付かされる。木の図鑑は存在するのかな、樹くらいしか森に入れないから存在しない可能性もある。細い柳のような葉っぱの大きな木や大木の上に芽吹いたのかそれともそう言う木なのか小さな木が沢山列を組んで生えている木、傘になりそうなくらい大きな丸い葉っぱの木など色々なタイプの木がある、名前教えて欲しいなあ。見える所の奥にも色んな木があるのだろう。森の中に入れたら楽しいのになと思いを馳せる。
源流に着いて一口水をいただき一息つく。今日はお弁当なしなのですぐに採取開始だ。
道具を広げて始めようとすると旋風が吹いて草がささっと森の奥に向かって細い道を作る。もしかしたら呼んでくれているのかなと嬉しさと緊張感でドキッとする。恐る恐るその道に足を運ぶと続きの道が出来る。奥に進むとクノーのいる場所の様に明るい光が届く場所に出る。光だと思ったのは葉っぱが輝いているからであたり一面私くらいの高さの輝く木が並んでいる。まるで黄金の国来たのかと思うくらいだ。
「わー本当に宝石の集まりみたいだね。キレイだけど眩しく無いの?大丈夫?」
葉っぱがゆらゆらと揺れる。近寄ってみると金属光のある真ん丸の葉っぱが陽の光を反射して輝いて見えるのだと分かる。光る見た目と違ってとっても柔らかい葉っぱだ。茂みの中に顔を突っ込んですりすりしてみると甘い優しい香りがしてとても懐かしい気持ちになる。そのままその場にしゃがみ込んでいるとふんわりと枝が包み込んでくれてその香りに癒される。初めて来た時にリラクフラグランに癒されてもらった事を思い出す。しばらくするとまた道ができて帰る時を悟る。
「素敵な光景見せてくれてありがとう!」
そう言って去ろうとするとハナミズキの実くらい小さな黒っぽい実を2つ私にくれる。
葉っぱがキラキラしているから実もキラキラしているのかと思ったので少し意外な果実だ。もらってそのまま帰ろうとすると引き止められる様に枝が服に引っかかる。今ここで食べろってことなのかな。
一つ口に入れるとクノーに似てすごい甘さで口がカラカラになる。喉も痛くて水が欲しくなる。もう一つ食べようとすると今度はそれを止める様に実を持っている腕に葉っぱが絡まったので果実をバッグに仕舞う。それから導かれるまま川に戻りお水をいただき喉を落ち着かせる。身体の中に果実の力が行き渡るようだ。
私は分析室で待つみんなを心配させないように急いで採取をして下山する。そしてサンプルを担当部のみんなに渡し終わる頃には張り切りすぎたのか身体が熱くなって来たので早目に帰宅することにした。みんなは快く送り出してくれる。
翌朝、トッキーと共に起きて昨日もらった果実、クノー、エネールを食べる。なんだかそれでお腹いっぱいな気持ちになって出勤する。
途中で空腹になるかと思ったが昼になってもお腹いっぱいでご飯が食べられない。お昼はお茶だけにしてやり過ごす。お腹がいっぱいと言う感覚はあるがエネルギーになるものを食べていないので頭がぼーっとする。一体どうしたんだろう?風邪でも引いたかな。
カレルはやはり明日調査に出かけられないようで原水に1人で行くことになりそうだ。こんな状態で私一人でやれるか自分で自信がない。
結局一日中頭が冴えないまま就業時刻が来てしまう。気持ちを切り替えて明日の調査に備えさっさと寝ることにした。
翌朝心配していたけれど、割とスッキリしていつも通りのご飯を食べられた。ちょっとしたお腹の風邪だったのだろうか。
ご飯を食べられたので体調が戻って原水の採取に1人で向かう。東川よりも深い巨木の多い森の中を川が流れているので大変だけどとっても楽しみだ。森で深呼吸をすると木々の匂いが身体を巡って浄化される。いつもより葉擦れの音がして葉っぱがにぎやかだ。昨日のお腹の話や、ボムやラキの話、アンセの話してなど溜まっていた話しを脈絡無く話しながら登る。段々口数が減って漸く源流に着く。ご褒美の水を一口いただく。今日は話しすぎて喉がカラカラであと一口あと一口と満足するまで飲む。すると最後の一口の後猛烈に頭が痛くて割れそうになり悲鳴を上げる。沢山いただくのはバチ当たりと言うことなのか。頭が痛くてのたうち回り、助けを呼ぼうと風電話をリュックから取り出そうとするが痛すぎて頭をかかえる。もうこれ以上はだめだと思った瞬間、突然頭がクリアになり目を開けると同じ場所なのに景色がさっきと違って見える。何が違うのかと言われるとハッキリとは分からないけど全てのものが輝いている様に見える。そして詰まっていたものが取れた様に色んな音が耳に入ってくる。