燃える炎
「グネルさん、シャドーを解き放ちましょう!」
「咲、辞めろ、今触ったら生きながら焼かれる地獄を感じてしまう。まずは火を消すんだ。」
アンセは更に力を込めてグネルの炎を吸い込もうとしているのが分かる。
「咲、悪いが俺の側に来てくれないか。力が足りない。」
え、側にいると力出るんかな。ちょっと照れながらささっと近くに寄る。
「違う、もっと引っ付け。くっついていれば力を消耗しないでグネルだけに集中出来る。」
あ、省エネね、はいはい、分かりましたよ。足手纏いにならないよう頑張ります。アンセに抱きつくように両手を回しグネルを見つめる。私は何が出来るだろう。あ、氷の鎧を付けたら火傷にもいいのでは。自分の鎧の一部を溶かしてグネルの体を纏うよう想像しながら手を広げて水を飛ばす。ところがアンセの火の力を凌いだように、水の力も弾く。どうして!氷はグネルを守ってくれるのに!
「グネルさん、氷を受け取って!お願い!」
「私は無敵です。情けは不要ですよ。」
グネルは勝ち誇ったような笑顔でこちらを見ている。
「咲、このままだと周りの火が吸いきれない。お前は出ろ。」
「そうはさせません。ミレニオを得ると約束してもらうまでは。」
そう言うとグネルは自分の黒い炎を次々と飛ばして来る。
私はアンセの背中に隠れるように再びくっつく。アンセはグネルからの炎を受け流しつつグネルの体の炎を消そうとするがグネルから炎が湧き出るので埒があかない。
「俺は不器用だから二つのことを同時にするのが苦手だ。頼むここから出てくれ。お前を守りたい。」
使っていない方の手で私の頭を撫でるとそのままぐいっと引き離す。
この2人を置いておいたら共倒れになるまでやるに違いない。自分の身は自分で守れればいいんだよね。グネル用に余分に身に付けてきた水で透明の半球状の盾を作る。言霊の本を読みこんだ成果を見よ!
「これならいいよね。」
正直自信はなかったけどグネルが投げてきた炎を消せたのでほっとする。だが盾に使える水の余裕はそれほどない。グネルの体を考えても短期決戦で決めないといけない。
何度か火の攻撃を受けた後、もう一度グネルが炎を繰り出そうとして黒い棒が落ちて、炎の矛先がずれる。安心して次の攻撃に備えようとグネルを見ると左手がない。え、さっきの黒い棒は…理解すると同時に恐ろしくなって悲鳴を上げる。その瞬間集中力が切れて盾が無くなり、その隙を突いてグネルがもう片方の手から炎を作り出す。
「危ない!」
アンセが私を覆うように炎から私を守ってくれる。
「大丈夫?火傷してない?」
「大丈夫だ、俺は火だからな。」
良かった、でもグネルはこのままだと焼け死んでしまう。
「同情は不要ですよ。私は無敵です。火も水も効かない!」
そう言うとシャドーの混じったどす黒い炎がグネルを旋風のように取り巻いてその炎を私たちに向かって投げて来る。
私は有りったけの水で半円の盾を作り私とアンセを守る。が、無尽蔵に炎を操るグネルに対して水の量が圧倒的に足りない。
「ごめん、無理、無理だ、アンセ!」
「自分の鎧の分は残せよ。いいか、せーので盾を消せ。せーの!」
水の盾を消すと今度は炎の盾をアンセが作り出す。ところがシャドーだけは通過して私達に降りかかる。
「良いって言うまで目を瞑れ!呼吸を止めろ。」
反射的に言われた通りにするが、アンセは?アンセも目を瞑って息止めているよね?なかなか合図が来なくて窒息する限界になって我慢できずに苦しさと熱さを感じて息をする。恐る恐る目を開けるとアンセはシャドーを受けて目の色が変わり強面になってグネルに近づいていた。それでも私の周りには守りの盾が残っている。
「アンセ!戻って!」
「ふふふ、貴方も同じ穴の狢ですよ、知っていました。一緒にミレニオを手に入れましょう。ああ!」
声と同時にグネルの右手と上半身半分が無くなる。流石に体の異変に気づいたのかグネルが呻き声を上げ始める。その隙に私は盾を抜け出してアンセに駆け寄りその手を握る。
久々にドーンと重みのあるシャドーの強烈な衝撃を受けクラクラして、シャドーを退治するために握ったはずのアンセの手に捕まってなんとか持ち堪える。握っている間も手が震えるほどの余韻が続いていてさっきの旋風に込められたシャドーの力を実感する。
シャドーを受けたアンセは自分の火の守りを解いて火を吸う事も辞めてしまっていて周りの炎が渦を巻いて迫って来る。私の氷の鎧だけでは周りの熱風の熱さを防ぐ事は出来なくて、頭がぼーっとして力が入らなくなってきた。もう3人とも炎に焼かれると覚悟する。
「咲、咲、しっかりしろ。もうこれ以上は無理だ。グネルも体がああなってしまった以上助ける事は無理だ。出るぞ。」
え、グネルさんも一緒に…グネルに手を伸ばすがアンセに担ぎ上げられる。アンセに目を閉じていろと言われたのに、担がれたままグネルが炎に焼かれ消えていくのを目の当たりにして狂気で叫び声を上げながら外まで運ばれる。
外に出ても私がずっと発狂しているので、周りはかなり怯えていた。最近シャドーもどきで消えた人を見た者もいるのだろう。アンセが私の顔を自分の胸に当てると私の口が塞がれて声が響かなくなり、周りのざわめきが落ち着いていく。私もアンセの温もりや匂いに安堵して呼吸が落ち着きを取り戻すと全身がぶるぶると震えている事に初めて気がつく。すると余計に震えが止まらなくなってアンセに捕まろうとしても力が入らない。アンセどっか行かないで、側にいて、声に出したつもりが震えてガチガチ歯が鳴るだけで言葉になっていない。
「咲、怖かったよな。火の俺ですら恐怖を感じたくらいだ。熱さもあってもっと辛かっただろう。中には俺だけで行くべきだったな。ごめんな。」
そんな事ない、アンセ1人で行ったらシャドーに飲み込まれて帰らぬ人になっていた筈だ。唯一私が役に立った事だし、行って良かったと思っている。
ガチガチ歯が鳴るので震える手で顔を抑えているとアンセの温かい手が代わってくれて顔を上げると目が合って無事を実感し涙が溢れて来る。溢れる涙が震えを少しずつ一緒に洗い流して行くにつれ体もゆっくりと平常を取り戻していく。そういえば何か事が起きた後に意識が残っているのは初めてだ。きっと今までは耐えられなくてそのまま意識を失う事で自分を守っていたのだろう。少しは成長したと少しだけ自分を褒める。
落ち着いてから見回すと樹が派遣してくれたのか沢山の消防団と顔馴染みの看護師が来ていて安心した。




