追跡の目的
「咲!何しているんだ!家に居ろって言っただろう!病み上がり何だから安静にしておけ、それに1人で出歩くなんて。」
スクエアでアンセに見つかり怒られる。かなり大声だったので周りから注目されてしまった。クスクスと子供を見るような笑い声からして、過保護な彼氏のレッテルがアンセにつけられたのだろう。案の定ちょうど家に帰るところだったのであろうトビーに痴話喧嘩はもう少し控え目にやりなと冷やかされた。アンセは気にもせず私を引っ張って歩き始めた。
「どこ行っていたんだ。こんな時に行くくらいだ、大切な用事だったんだろうな?」
大事だったのだけど、残念ながら意図していた事は何も出来ずだった。どうしよう、完全に怒られる案件だけど、正直に話すしかない。出来るだけ余計なことを言わないようにする。
「北の方まだ行っていなかったから気になって行ったら博士に会った。で散歩してきた。」
怒られるよね、お小言を構えていると怒る矛先がちょっと違った。
「博士は何の用があったんだ?なんで一緒だったんだ!くそ!」
知らないよ、私も知りたい。そして何故アンセが怒るんだ?
「これから朝は迎えに行くから一緒にスクエアまで出勤な。帰りもオレが迎えに行くまで待ってろよ。」
心配してくれるのは分かるけどちょっと重たいなぁ。嫌そうなのがうっかり顔に出ていたらしい。今日から10日間だけでいいと言うことになった。契約じゃなければ恋人みたいだけどね。
仲良し出勤は思ったより楽しくてあっという間に時間が流れた。必ず、では無くてもいいならこれが続いたら嬉しいな。
最終日の前日は休日だったので、レイとお出かけした。風通路の駅から降りて歩いているとアンセが誰かと話している。相手は背が低くてよく見えないがアンセは怒っているようだ。
「…話が違うだろう!あいつは樹では無い。もうこんな風に咲と一緒にいるのは嫌なんだよ。いい加減にしてくれよ!」
声をかけようとした時アンセの言葉が胸に突き刺さる。
え、今まで嫌々私と一緒にいてくれたの?
私の動きが固まる。レイも信じられないと言う顔をしている。
気配に気付いたアンセが振り返ると相手が見える。相手はあのストーカーだった。私はびっくりして一歩下がる。みんなには彼の憎しみと怒りの恐ろしい形相が見えないの?それとも怖いと思うのは私だけなの?
「咲、いつからそこに居た?何を聞いたんだ?」
アンセが問い詰めてくる。でも私はアンセが話していた相手の方が気になってそれどころではない。指を刺して、あ、あ、あの人、と言うのが精一杯だ。
「どうしたの?ショックなのは分かるけど話も聞いた方がいいと思うよ。」
レアが執り成そうとしてくれる。
「あの人、私のあとをずっと付けていた人だと思う。」
「え?犯人はグネルなの?」
え?グネルさん?違うよ、私が初めて会った時あんな顔していなかったもの。顔がちがう。グネルらしい人が私に近づいて来てすごい剣幕で話す。
「貴女は、貴女は樹なのでしょう!何で隠すのですか!博士が作ってくださった特別なプロトタイプでわざわざ呼び出して差し上げて、アンセを監査役に付けて毎日面倒をみさせたではないですか!監視の眼を掻い潜って面倒ごとに巻き込まれたり、1人で北に行ったり。ミレニオを内緒で見つけて独り占めするつもりだったのでしょう!恩知らずにも程があります。」
私はアンセに監視されていたの?あれ、ミレニオって何だっけ?わざわざ呼び出したのに恩知らずって言うけど私からしたら拉致されたに近いのだけど!
「アンセもアンセです。今までの経験を踏まえて家を隣にして咲さんの外出を知るために入口に色々工夫したり、追跡石もお貸ししたのに行動を全く把握出来ていない。挙げ句痴女のもつれに巻き込まれて混乱させるとは。しかたないので私が代わりに追跡をやって差し上げていたのですよ、ずっと。咲さんは樹では無いなんて本気で思って言っているんですか?我々の任務遂行のためには咲さんの樹の力が必要なのです。分かっているでしょう?」
ずっと視線を感じていたのはグネルだったの?追跡石?任務?何のこと?
「さあ、咲さん来てもらいますよ。隠しても無駄です。貴女の樹を愛でる姿はずっと見ていれば分かります。ミレニオについて教えて貰えるまでは返しません。」
私の手を強引に引っ張って行こうとする。
「あと一日待つって話だっただろう?」
「あと一日くらい待って待たなくても一緒です。」
「じゃあ樹に、樹に判断してもらおう。」
「樹が嘘をつくかもしれません。信用出来ません。」
「樹が嘘をつく理由がないだろう。もし咲が樹なら彼女だって解放されて嬉しいはずだ。」
「現樹は我々には協力しないと断言されたと聞いています。なので我々を欺き、咲さんを樹として先に洗脳する事も考えられます。咲さんがミレニオを我々に差し出すと言うのであれば樹の判断を信じ受け入れます。」