アンセの過去
「咲、帰るぞ。樹、ここで失礼します。」
「あとはよろしく頼みますね。」
樹がアンセに向かってにニコリと微笑むと向きを変えてカレンの対応を始めた。
私は抱えられたままアンセの家に運ばれて椅子に下される。アンセが手際良くご飯を用意している間、家を見渡していた。今まで興味なかった訳では無い、と言い訳したくなるほど部屋には素敵なガラス細工やロートアイアンなどが飾ってあることに今気付いた。
「どうだ、気に入ったのがあればやるよ。」
ご飯を並べながら得意げにアンセが言う。
「これらは売り物なの?」
「いや、趣味。暇な時に仕事場で見つけた不用品を好きな形に加工してるんだ。」
「全部とても素敵。作品に統一感があって部屋もオシャレ。これをアンセが作ったなんてすごく意外だけどもし貰えるんなら…私はそこにある棚が欲しいな。物を片付けるのに良さそう。キャニスターを付けてくれたら最高。」
「お前なぁ、いつも一言多いんだよ。全く。まあいい。今回は快気祝いな。自分の欲しい大きさあるだろう、これじゃなくて新しいの作ってやるから今度測りに行くよ。」
2人でご飯を美味しく頂いた後、アンセは咳払いをすると徐に話しを切り出した。
「そういえば、レイと話したって言っていたけど何を何処まで聞いたんだ?」
「うーん、アンセは地上から来た人のお世話係でひと月くらい付き添ってくれるから頼って良い事、アンセも地上の人で想い人と結婚式の日に召されたので地上に未練があるってことくらいかな。」
「すごい雑で傷口を抉るまとめだな。大きく訂正するべくは地上への未練はシンさんのおかげでかなり早い時期になくなっていたよ。確かに婚約相手は心配だった。オレが死んだのならまだしも、オレは突然消えたんだ。事情が分かっているオレですらしばらく受け入れられなかったのに、彼女は大丈夫だったかなって。裏切られたと普通思うだろう。」
「シンさんって誰ですか。」
「オレより先に来ていたオヤジさんだ。地上ではエンジニアをやっていたって言ってたよ。やさぐれていた時に仕事をくれたんだ。オレが建築士だって言ったら風通路の設計を任せてくれた。そして実際作ってみて、オヤジさんが細かく微調整して、楽しかったよ。出来上がった時はオレ達がみんなの暮らしを劇的に変えたって誇りに思った。もう一つ何かすごいやつをオヤジさんは考えていたみたいだけど完成する前に昇華した。オレがここに来て一年も経たずにな。まるで天使の様にキラキラ輝いていて、オヤジさんも幸せそうだったよ。それを見たら悲しむより、おめでとうという言葉が自然と口を突いて出てくるくらいに幸せな光景だった。」
一気に話すと、アンセは息をついた。
彼女の話はしなくてもいいのか、と聞かれたが正直アンセの中で消化されているのであれば特に質問はない。カレンの後で正直恋愛ごとはゴリゴリだ。掘り返して変わるものでもないしね。
「まあ、そうだなあ、もう75年も前の話だから時効だな。」
え??どう言う計算?今100才って言っていたよね、だから前の説明から地上では33才くらいの人かなって思っていた。
「オレが地上から来た事は伏せていたから説明不足だったな。オレがここに来たのは25才の時だった。大体30才くらいで成人となるこの世界では微妙な歳で働くのも学校に行くのも中途半端だった。だからオヤジさんが拾ってくれたんだ。風通路のおかげで箔がついて設計の仕事がここでも出来るようになった。
ここに呼ばれた人間は自分の歳をどうするのか自分の中で決めないと分からなくなるから咲も自分の歳の数え方を決めるといい。オレみたいに地上の続きでカウントしても良いし、ここのおおよその年齢に合わせて、オレなら当時25才だったから70とか75才からカウントも出来る、そう数えると約150才なんだなオレは。んー、ま、どっちでも好きな方でいいと思う。生きやすい方を選びな。」
なるほど、35才は成人だからこのままの年齢でいいかな。でもアンセと比べると何だか大人と子供くらい歳の差があることになる。それにしても105才は受け入れ難い。切り良くアンセと同じ100才からスタートする?あれ?いつの間にかアンセを基準にしていない?
「オレと同じ数え方でも良いんじゃないか。オレも子供だと思って優しい気持ちで接することが出来るしな。」
と言ってニヤリと笑った。




