休日の楽しみ方
「トッキーおはよう。」
トッキーから返事がない。え、また、また、私やっちゃったの?アンセが折角途中で止めてくれたのに、また木々の声が聞こえなくなったのかとひどく落ち込んで布団に潜り込む。
「起きたのか、大丈夫か。」
アンセがとても心配そうな顔でドアを開けて入ってくる。え、何で?アンセの付けてくれた閂錠のお陰で家は内側からは鍵かけられるよね。びっくりして起き上がる。えっと、つまりアンセと一晩一緒だったってこと?
「その、心配だったからこの前みたいに泊まったよ。咲は帰れってうるさかったけど、あんな事があったあとだとな。体、大丈夫か。」
なるほど…意識のしっかりしている時にお泊りの予行演習してて良かった。昨晩のやり取りの記憶が所々飛んでいる。
「トッキーはこっちの部屋にいるから挨拶したら?」
アンセは居間の方を指すと時計草の橙の花が見えた。あ、良かったトッキーはここに居ないから返事がなかったのか。寝巻きのまま起き上がると体のあちこちが痛くてよく見るとあざも出来ている。どうしてこんなに体がボロボロなんだ?寝巻きはどうやって着たんだっけ?
「言っておくけどな、自分で着替えてたぞ。止めたけど汚れたまま寝たくないって。俺は嘘はつかないからな。信じろ。」
確かにボタンはかけ違えていてズボンは前後ろが逆でメチャクチャだ。意識が朦朧としていた自分が着たと言われればそうなのだろうとしか言いようが無い。体のあちこちが痛くてよろよろと立ち上がるとアンセの差し出した腕に掴まって居間に向かう。
「トッキーおはよう、私寝巻き自分で着てたかな。」
おはよう 昨日 見てない
見てないのか。うーん。
信用ないな、大いなる力に誓ってもダメならどうすれば良いんだとアンセがぼやいている。
「あ!」
「どうした?どこかまだ痛いのか?一応病院で治療してもらったから大丈夫だとは思うけど、今日は大人しくしておけよ。」
「違うの、今日レイと約束してたんだ!出かけなきゃ!」
慌てて出かける準備を始める。私の唯一の女友達との約束を違えるわけにはいかない。
多少辛いが、地上に比べて体の回復が早い。体力をつければ何とかなるとアンセ特製朝ごはんを食べ、クノーとエネールも忘れずに食べる。エネールのお陰で元気が出てきた。
今日は出かけるの辞めとけよと何度も言うアンセの静止も聞かずに家を出るとレイがこっちを見て手を振っている。
私もレイに手を振るとレイの隣に誰か居るのが見える。水担当部のリンさんだ。
「あれ?リンさん?」
「学生時代の友人なの。そこのお二人さんと同じで昨日家飲みしたの。二人知り合いだって聞いたから今日一緒にどうかなと思って。…咲、なんか歩き方辛そうだけど大丈夫?」
「ちょっと昨日働きすぎたみたいで、朝起きたら体がガタガタだったの。」
「昨日は休みだったよね。」
「うん、まあ、ちょっと別の副業みたいなもんで…。」
シャドー退治の話をする訳にもいかない。
「そっか…だから今日は付き添いありなのね。」
ん?付き添い?振り返るとアンセが居る。
「何で?今日はレイと約束だって言ったでしょ。ついて来ないでよ。」
「随分な言いようだな。」
レイはニヤリと嬉しそうにアンセを見る。
「お邪魔だそうだから、ご自分のお家にどうぞ。」
「俺は影だと思ってくれたらいいから。気にせずどうぞ。」
「影にしては大きすぎるでしょう。過保護も大概にしないと嫌われるよ。」
ぐさっと核心を突くとゔぅ、アンセは言葉に詰まる。
それでも頑として一緒に行くと聞かないので仕方なく四人で出かける事にする。
「今日は、アカペラのコンサートが東のホールでやっているからどうかなと思って。」
お、買い物やご飯以外の娯楽、楽しみだ。
ここにはテレビやスマホが無くて、家でみんな何しているのかなと思っていた。今は休みに買い物やら食事やシャドー退治とかやることあるけどそのうち何をするんだろう。
リンやレイに休みの話をするとボーリングやサッカーのようなスポーツ、カラオケや演奏など音楽系、絵画鑑賞など結構古典的な娯楽があることが分かった。全然交わる機会が無かったのは余裕が無さすぎたからか。
今日は人気のアカペラアーティストで早く行かないと席が取れないらしい。
私達は開演の色一つ分前の時間に着くように集合をかけられていて、ある意味アンセも列に並ぶ人員として有難いかもね、とレイが笑う。
チケット販売まで時間があるので私達は買う列に並ぶ。まだまだ時間がかかるので半分に分かれてご飯食べて待つことにした。
アンセが頑として私と組むと譲らないので私とアンセ、リンとレイに分かれる。
話し合いの結果、先にリンとレイがご飯を食べに列を外れる事になった。
アンセと二人になるとふっと気が抜けてその場にへたり込む。どうしたんだ、私。今日は何だか朝から疲れ切っている。アンセが目線を合わせるようにしゃがむとあそこのベンチで座っていろ、と指差すが立ち上がることも出来ない。
「アンセ、私どうしたんだろう。昨日…人を助けて結構痛い思いをしたのは覚えているんだけど、それから何があったんだっけ?記憶がモヤモヤして思い出せない。」
「…人助けして疲れたんだろ。立ち上がれないならそこに座っていたら良い。」
そっか、なんか忘れてる気がしたけどいつも通り疲れて寝ちゃったのかな。
ぼんやり座っているとアンセが思い出したように私に尋ねる。
「そう言えば追跡石どうした?家に置いて来たか?」
「あのBB弾?そういえばそのままこのバッグに入っているかも。」
今朝家を出る時にそんな事には意識が回らなかった。
「今すぐ出せ。…どうするかな。知らないやつに滑り込ませて陽動するか、レイに破壊してもらうか…どっちが良いかな。破壊するのが一番だがこちらが気付いた事がバレるし、陽動は関係ない人を巻き込むな…」
アンセはBB弾の扱いを決めかねているようだった。私にも何が正解か分からない。そもそもこんなものが無ければ良かった。
「今この瞬間だけ力が無くなれば、気づいた事も内緒に出来るし、細かい居場所がバレないのにね。それでしばらくしたらまた復活させるとか。」
「それだ!追跡石は、博士の地上での知識を元にしているとすると、恐らく磁石のようなもので出来ている。なら鉄と少しの珪素でこの弾を包んで磁場を封じよう。一か八かだが、やらないよりはマシだ。」
アンセはぶつぶつと追跡石への持論を話し始めた。私は理系ではないからアンセの理論がよく分からないけど、その磁場を閉じ込めて仕舞えば、追跡出来なくなると言うことのようだ。
「万が一、あのやばい石をここでばら撒かれると人が多すぎて危険すぎる。だから、通信の不具合のように見せて撹乱しよう。俺達の休みの番になったら東の第二輪まで急いで行って、石を取り出して作動させご飯食べたらまた封印してコンサートを見る。現時点では何処にどれだけの探知機があるか分からないからな。それに不具合が生じれば、アイツらが直しに来るはずだ。運が良ければそれを押さえられる。」
博士達のことを良く知っているアンセに任せよう。




