昔話
「誰か来て…独り怖いよ…助けてよ…帰りたいよ…」
恐怖心から心の声が口から溢れて止まらない。
レイが帰ってくる青の時間まで独りで家にいるのも、レイに会うために外に出るのも怖い。もし外でカレンに会ったら?うっかりアンセも一緒に鉢合わせたら?青の時間はほぼみんなの帰宅時間だからあり得ない事ではない。
咲 ひとりじゃない
レイ 帰る 教える
シアが励ましてくれる。ありがとう…本当にありがとう、それしか言葉が出ない。
とにかくあと半色レイを待つ。
そして青の時間少し前にレイが帰ったとシアが教えてくれると、私は家を飛び出してレイの家のドアをノックする。
「誰?」
レイがドアを少し開けてくれる。私の顔を見て一瞬驚いた顔をしてから家の中に入れてくれる。あまりにも激しいノックで不審者かと思ったらしい。それなのにドアを開けるなんて無用心なのか、好奇心が強いのか。私にとってはどちらにしても有り難かった。レイの家に転がり込んで私はすぐに後ろを確認する。よし、誰もいない。
「やらかしたの?また。」
やっぱり私やらかしたのか。項垂れて頷く。
「カレンの奴、懲りないね。」
ん、やらかしたのは私ではなかったらしい。
私は堰を切ったように今までのことを話す。なんにちも色々な場所感じた視線の話、それからさっきの恐怖体験を掻い摘んで話す。レイは話をしている間ずっと、うん、うん、と頷いてくれる。そして最後に大きなため息を吐くと、大変だったね、と言って温かいスープを出してくれる。
そう言えばレイは仕事から帰ったばかりで疲れているのに、話を聞いてくれて、巻き込んでしまって感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
安心して涙が溢れる。レイの前では泣いてばかりだ。
「気にしないで。今度は私が救う番だと思ってるから。」
レイは一息つくと同じようなホラー体験をしたことを教えてくれた。当時レイは学校に通っていたのだが、教室までカレンが押しかけてきて張り付き、物がなくなり、虚飾に満ちた悪評をたてたりと大変だったらしい。ここに来たばかりで頼れる人はアンセだけなので相談すると心配して送り迎えしてくれるがもっと嫌がらせを受ける。クラスメイトも何が本当なのか分からずレイのことを避けていたらしい。
でもカレンがついにレイに手を挙げようとしたところを先生が止めてくれて、事情を聞いたクラスメイト達がレイを守ろうと頑張ってくれて事態が一転した。毎日誰かが一緒に送迎してくれるようになり、相談できる友達が出来ると必然的にアンセの出番も減り嫌がらせは収束したそうだ。レイ曰く、早いところアンセとの関わりを断つこと、それが一番の解決策だそうだ。
今となっては、と前置きしてレイは続ける。
「そのおかげで友達が出来て今があるからね。それだけは感謝かな。」