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夕飯

「ただいま」

家に着くとそう言ってドアを開ける後ろから庭木のおかえりと声がする。

もらったエネールをとりあえず冷蔵庫に入れて、お水を飲んで息を吐く。なんだか疲れたよ、初めての世界で知らないこと、知らない人だらけで気を張っていたのは間違いない。机に突っ伏しているとさっきの花の香りがまとわりついてふーっと気が抜ける。落ち着くなぁ、とふわふわしていたら大声と共にゆさゆさと肩を揺さぶられる。

「おい、咲、大丈夫か??」

あ、あれ?もしかしてちょっと寝てたかな。

「うーんんん、アンセどうしたんですか。」

「どうした、じゃないよ、全く。ドアをノックしても出てこないし、灯は付いてないし、お金もないお前がこの時間に家にいないはずもない。心配して家に入ってみたら、これだ。寝てたなんて…はぁ。まあ、いいよ、元気なら。ほら腹減っただろ?飯行くぞ。」

そう言えばお腹はペコペコだ。なんだかんだでアンセは面倒見がよい。はぁい、と後を追う。

「あ、ちょっと待って下さい!鍵、鍵はどうするのですか?見当たらなくて。昼間は取られるものもないしと思ってそのまま出掛けたんですが。」

「鍵?どこの?あぁ、家の?ああ、ここには泥棒とかいないから鍵要らないよ。鍵が付いてるのはトイレと風呂くらいだな。悪気はなくても鍵ないとうっかり開けてしまうこともあるからな。」


え、家の鍵は要らなくてトイレとお風呂は鍵があるの?しかもうっかり開けないために???意味がわからない!よく分からないけど家の鍵はないし、かけられないのでそのまま家を出る。鍵そのものはあるみたいだからあとでなんとかしよう。


どこにご飯に行くのかと思ったら隣のアンセの家だった。あ、そういえばお腹空いたらアンセの家のご飯勝手に食べて良いって言ってたね。鍵ないなら確かに出来た。なるほどね、ここでの常識がないと生きて行くのは難しい事が分かった。この調子だと知っておくべきここの常識がまだまだありそうだ。知らないものを知らないから質問出来ないのが難しいところだ。


「座れよ。飯ちょっと冷めたかもしれないけどまあ、いいだろ。」

机にはスパゲッティみたいな麺とスープが出来ていた。

「美味しそう!いただきます!」

ここに来て初めてのちゃんとしたご飯だった。温かいご飯は体にしみる。麺の具は茶色い柔らかい食感の甘辛い何かと緑の葉っぱでスープにはにんじんの様なものが入っている。

「この茶色のなんですか。見た目お肉っぽい?」

「タンパク質、タンパク質うるさいから、同僚に聞いてきたんだよ。それは豆で出来てるポルクール。スーパーでも売ってるから買ってみたら?味付きもあるし、素材のままのもあるよ。」

昼の会話を覚えてて同僚に聞いてくれている辺り、優しい。見た目はチャラいのに意外な一面だ。

「アンセって、適当そうな見かけによらずとても親切で面倒見がいいですね。びっくりしました。」

「褒めてないよな、それ。料理できるなんてステキです!とか、カッコよくて惚れそうです!とか色々言葉はあると思うんだけどな。」 


しまった、思わず心の声がポロリしてしまった。でもこれしきで惚れるような事はない。


「今日1番のご飯でした!ようやく心もお腹も落ち着いた気がします。」


慌てて言い直すしたが何かがまずかったらしい。


「はあ、もう良いよ。あのさ、敬語ももう良いから。」 


アンセはイケメンだけど髪は後ろ少しだけ伸ばして三つ編みで結んでて、手には指輪をジャラジャラ付けて、服は一昔前のヤンキーみたいにダボっとした上下を着ている。話し方も初対面でも雑で大事な話しがちょこちょこ抜けている。残念だけどステキな紳士に見えない。もう少し外見を取り繕ったらモテそうなのにと余計な事を考える。


「ごめん、ちょっと心の声が漏れちゃったけど、すっごく感謝してます!本当に。ちゃんと出世払いするから期待してて!」


「期待しないで待ってるよ。とりあえず食べろ、初日はなんだかんだで疲れるからな。今日は許してやるよ。」


酒飲むかと聞かれたので少しだけもらうことにする。少しくらい良いよね?私、頑張ったよね?

酒豪だった私はここのお酒もイケるらしい。少しと言いつつもう3杯目だ。アンセはコンロの使い方、お湯の出し方、風通路以外の移動の仕方、など基本的な生活の仕方を教えてくれた。それから、ミーの館で住民登録してくる必要があることも。うまくいけば少しの生活費を援助してもらえるかもしれないらしい。きっと知るべきことはまだまだ有るのだろうけど、なんとかやっていけそうな気がしてくる。

仕事後で疲れていても、何も出来ない私に付き合ってくれるアンセは本当に見かけによらずいい人だ。


「アンセ、なんでそんなにチャラい格好してるの?街の人たち見たけどみんななんと言うか普通のシャツにズボンやスカートだったよ。アンセみたいな感じの人居なかった気がする。カッコいいんだからさ、ステキコーディネートしたらいいのに勿体無い。」


お酒を飲んで話しているうちに心の声が漏れ始める。


「余計なお世話だよ。今日は仕事服なの。建築の仕事してるからな汚れてもいい服着ているんだよ。しかもお前が腹ペコかなと思って着替えずにご飯作ったのに、全く失礼な奴だな。」


しまったまたやってしまった。


「ごめん!また心の声が。」


酔った頭で次の返が浮かばない。


「そろそろ酒はやめて家帰って寝てろ。もう、今日はおしまい。明日いいとこ見せてやるよ。」

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