木々と話すこと
「それで外では言えない話は何だったんだ?」
あ、すっかり忘れていた。私のうちに寄ったアンセが尋ねた。
「よく分からないのだけど、アンセにもこの歌が聞こえたら良いのにねって言った時、ミレニオ カレル 聞こえるって木々が。確かにね、私と初めて原水に行った時木々がざわめいていたって言っていたの。単に葉擦れの音の事かなとその時は思っていたのだけど、違うのかもしれない。」
「ミレニオ カレル 聞こえる、か。明日仕事行ったら聞いてみたら良いんじゃないか。確かにこの言葉だけでは訳がわからないな。カレルも樹なのか?でもナミさんの息子なんだろ、それは無いはずだ。」
アンセは意識して樹の事をナミさんと呼んだのが分かる。散々二人で考えたが答えも出なくて、もちろんトッキーもシアも今ある以上のヒントはくれない。気付くとだいぶ遅い時間でアンセが家を出る。また明日が約束されている毎日に自然と笑顔になる。
翌日仕事に行くとまず樹の部屋に呼ばれて向かう。同席しようとしたアンセは無碍もなくさっさと追い返される。
「気分はどうかしら。少しは落ち着つきましたか。」
「はい、地に足がついた感じです。」
「ふふふ、それは良かった。アンセが喜びますね。早速で申し訳ないのだけどこの前の話はどうかしら。突然で驚いたでしょう。
私達は定期的に使者を通して情報交換をしてはいるのだけど実際に会った方が解決出来る事もあるでしょう。そのために集まっているだけなので畏まった事は何もないのよ。まあ、それで言うと今度も使者に当たるのかもしれませんがお披露目も兼ねてと思っています。」
やはりナミさんの中で私が樹を引き継ぐ事は決定事項になっている。
「使者ってどんな人が来ているのですか。」
「使者は樹に誓いを立てた者がなれます。そして一年に一度、10日くらい滞在して街を見たり、私や必要な人と話したりして帰ります。ですので最近主天界でシャドーが増えて大変な事になったのは他の天界でもある程度知っているはずです。ただ昨年は使者を迎え入れていなかったので詳細を知りたいはずです。ここほどでは無いにしても彼らも同様に困っていると聞いているので。」
「今回は各天界の樹に会いに行くのですか。」
「今は主と北だけが樹で他はその子孫が代理を務めているはずです。」
「え?各天界一人樹がいるのでは無いのですか。」
「ここは人が多いですからね。必ず一人の樹が居ますが人が少ない他の天界は2、3人に一回樹が呼ばれます。それ以外は基本的にその血を濃く引く者が引き継ぐのです。今回は北の樹を含む4人で自分たちの天界で何があったのか話す場なのです。繰り返しになりますがそんなに改まった会でもありません。」
何が何でも行かせたいのが伝わってくる。樹同士が集まって話す会がその辺の井戸端会議と同じな訳がない。あんまり気乗りしない。
「今日今決めなくても良いので、クノー達にも相談してみたらどうかしら。アンセは別の理由で行く気満々の様なので参考にならないでしょうから。」
この人はよく見ているなあ、でもその通りだ。この件はアンセの意見は頼りにならない。うっかり丸め込まれて何も考えずに行く事になりかねない。
「考えてお返事します。」
「そうしてくれると嬉しいわ。」
「ところでカレルさんって樹の力を持っていたりするんですか。」
「カレルがですか。それはないと思いますよ。どうしてですか。」
「いえ、さっき樹の力を濃く引く者が引き継ぐこともあると言っていたのでどうなのかなと気になったので。」
「主天界ではそれはありません。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
樹が認識していないと言う事はどうやらカレルが木と話せるのは力としてカウントされるものでは無い様だ。やはり本人に聞くしか無い。
「お久しぶりです。まだ私の場所はありますか。」
水担当部に入って行くとみんなが迎えてくれる。一年居ない間代わりも見つからず産休の人にフィールドを手伝ってもらっていた様だ。今日いきなりフィールドは大変だから次から参加したらと言われるのを押して出かける事にする。今回逃すといきなり原水コースなのでその方がきつい。それに今日は産休の人も来てくれるので荷物も分担できる。
「おっはようございます!」
無茶苦茶元気な耳慣れない声が後ろからしてパッと部全体が明るくなる。
「あれ?咲さんですか?わー、会いたかったんです!いつも話題になっていたから。私キナンと言います。よろしくです。まだまだ休んでいようかなと思っていたんですけど、カレルさんが大変だと言うので臨時復帰していました。でもやってみると気晴らしなって生活にメリハリが出てこのままフィールド続けようかなと思ったりしてます。」
すごく明るい人だ、みんなも聞きながらくすくすと笑いが漏れる。